幕末三姉妹10

ラジオドラマ脚本・第十話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
今回から、京都編に入ります。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十話「京都のPKO」(1863年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)

幾松

立花慎之介
坂本龍馬

芹沢鴨

声1・声2
浪士

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

SE 機関銃・戦車・ヘリコなど、現代の戦争~BG

  現在、国際的紛争地帯には、国連から平和維持軍~PKOとかPKFと呼ばれる組織が派遣される。
その役割は、治安維持、兵力引き離し、対ゲリラ作戦、人道的救援、インフラ整備、後方支援…などなど。20世紀の後半から現在まで、アフリカ、中東、東ヨーロッパ、東南アジアなどに派遣されている。
さかのぼること百年。

SE  大太鼓ドン

  当時の京都は…

声1 やっぱり、開国だ。これからは外国人とも交流して…
浪士 「攘夷斬り!」

SE  斬る

声1 うわあああ!

声2 ここは徳川幕府が日本代表として…
浪士 「天誅!」

SE  斬る

声2 うぐぐぐ!

  …という、国内的紛争地帯となっていた。
そこで、幕府は治安維持、外様勢力引き離し、対浪士作戦のPKOを組織。
会津藩主・松平容保(かたもり)を京都守護職に任命した。容保は、およそ千人の兵士を率いて京都に入る。
あわせて、近々京都に上る将軍・家茂の警護のため、全国四十三の大名たちも、手勢を連れて京都に入る。いわば、多国籍軍ですな。
そんな、風雲急を告げる文久三年の、京都において…

M   (のんき)~BG

日和見 いやぁ、京都は、いいのう。雅じゃのう…。

  幕府に命じられた四十三藩…でもないのに京都に来ているのが、日和見藩・藩主日和見忠典。そして…

星姫 嬉しい、私、京都は初めてなの!
凛姫 私も!
弓姫 私も初めて!

  あらあら、三人の姫君まで。
ま、初めてなのは道理。実は、江戸時代、大名の奥さんと子どもというのは江戸から出てはいけないことになっている。これ、つまり、幕府が大名に要求した「人質」なんですね。
なのに、どうして、ここにいるのかというと…

日和見 いやあ、これまでは参勤交代で、一年ごとに江戸と国元を行ったり来たり。
凛姫  そうでしたね。
日和見 姫たちも、わしが国元に帰っている間は、さみしかったろうなあ。
弓姫  ううん、別に。
星姫  「あ、いま父上はいないんだ。そっかそっか」…みたいな。
日和見 う、うぐぐぐ…。

   今も昔も、家庭における父親の存在感は薄い。

凛姫  それが、去年、参勤交代の規則が変わったんですよね。
日和見 ああ。なにせ、攘夷だ開国だと、時代は揺れ動いているからのう。これからは、三年に一回、百日間、江戸にいればいいことになった。
弓姫  そして、家族も江戸を離れていいことになった。
星姫  だから私たちも京都に来てる。
凛姫  やったあー!
星姫  憧れの京都を楽しみましょうね!
三人  「どこいく?」「やっぱ、清水寺よね」「清水の舞台!」「西陣で着物をいっぱい買いたい!」「和菓子もおいしいそう」…
※などなど、三人が実際に京都で行きたいとこをわあわあ~BG~FO

   まあ、ずいぶんはしゃいじゃって。…でも、なんでわざわざこんな物騒な京都に? しかも、幕府に命じられたわけでもないのに?

日和見 わが日和見藩には先祖伝来の「日和見八策」というのがあってな。

   八つの策ですか。どういうんです?

日和見 一つ。「日和見は、常に権力のそばにいるべし!」

SE  太鼓ドン!

日和見 いまや政治の中心は京都じゃ。遠く江戸にいたんじゃ、刻々と変化する情勢に対応できず、日和見に乗り遅れてしまう。

   なるほど。それで、危険を承知で京都に。で、他の策は?

日和見 一つ。「日和見は、無言でのんきに行うべし!」

SE  太鼓ドン!

日和見 権力のそばにいても、けっして自分の意見は言わない。そうすれば、あとで勝った方に近づき、「でしょ? 私、最初からそう思ってたんです」と言えるじゃろ。

   あ、汚っ!

日和見 日和見に、きれいも汚いもない。下手に兵力を連れて来ると、どこかとイザコザがおこった場合、あとで面倒になる。で、今回は一見のんきに、姫たちを連れて来ているのじゃ。

   なるほど。考えてるんですね。

日和見 日和見も、あんまりバカにしたもんじゃないぞ。ウチみたいな小さな藩が生き延びていくための知恵が詰まっているのじゃ。

   それ、ちょっと、サラリーマン生活にも役立ちそうですね。残りの日和見策ってのを教えてくれませんか?

日和見 よかろう。一つ。「日和見は…」
星姫  父上、さっきから誰と話してるの?
日和見 ん? あ、いややや…。
弓姫  父上。
日和見 ん? なんじゃ、弓姫。
弓姫  人間、独り言いうようになったらおしまいよ。
日和見 …う、ううう。

M   コーダ

   京都の治安維持のため、幕府が組織したPKOには、別働隊もいた。江戸のゴロツキ、フリーターたちを集めた「浪士隊」だ。発案者・清河八郎に率いられ、この年二月。二百三十四人が、京都・壬生に入った。
ところが、京都に着いた夜、清河八郎がとんでもない発言を行う。
「我々は、将軍家茂様警護のため、という理由でここに来た。しかし、真の理由は違う」
清河は七星剣(しちせいけん)と呼ばれる刀を手にし、全員を睨みつけて言った。
「真の目的は勤皇である。我々は朝廷をたてまつり、歯向かう者は幕府であろうと斬る!」

M   ショックコーダ

   無茶苦茶ですね。主旨が180度、ひっくり返ってしまった。紛争解決のため現地入りしたPKOが、いきなり現地のゲリラ側に寝返って、新政権樹立を目指すようなものだ。
浪士たちは、清河八郎のあまりの迫力に言葉が出ない。そんな中で、反対の声をあげたのが…

芹沢(33)それは話が違う!

  その男は、護身用の鉄扇を振り上げて言った。

芹沢 俺は水戸浪士・芹沢鴨だ。そんな話には乗れない。

  こののち、清河に率いられた浪士隊が江戸に戻る時、

芹沢 せっかく京都まで来たんだ。俺はここに残る。なあ、近藤よ、お前も残るだろ? お前の手下たちと一緒に。

  と一緒に残った近藤、土方、沖田たちがやがて「壬生浪士」と呼ばれ、そして「新撰組」となるのだった。

M  ブリッジ

SE  鶯(~以下、時々、遠くで~BG)

  同じ京都の壬生でそんなことがおきているとも知らず、三姉妹は、早春の京都を楽しんでいた。
とあるお寺の、広い庭先で…

凛姫 あ。もう梅が咲いてる。
星姫 ほんと…。きれいねえ。
凛姫 いい香り。…やっぱり、江戸とは違うわよねえ。
星姫 違う、違う。さすが京よね、なんか、「みやび」っていうか。
凛姫 鶯の鳴き声も、どことなく気品があって。
星姫 さすがよねえ。なんていうか、こう…、「やんごとない」っていうか、「はんなり」っていうか…
弓姫 ねえ、ここ、有名なお寺?
凛姫 う~んと…有名かどうかはよくわからないけど…、
星姫 でも、京都だと、どんなものでも特別に思えない?
凛姫 そう! 言えてる!
弓姫 これぞ、京都の魔術!

幾松(OFF)ほほほほ、面白いこといわはりますなあ。

M  CI~BG

  その時、木の陰から現われた一人の芸妓(げいこ)。髪には大ぶりの梅の花のかんざし。あたりに漂う梅の香が、さながら、そこから流れ出ているかのようだ。

弓姫 わあ、きれいな人!
星姫 芸妓さんね。
幾松 はい。幾松と申します。
凛姫 芸妓さんが、どうしてこんな所に?
幾松 毎日お座敷が忙しいんで、「次のお座敷に行くの、いややなあ」いう時、たまにこうやって、おさぼりを。
星姫 あはは、わかるわかる。
弓姫 幾松さんて、売れっ子なんですね。
幾松 私だけやおへん。京の芸妓はみんな、毎日大忙し。いま、京へは全国から勤皇の志士が集まってますやろ。長州、土佐、薩摩…。

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