幕末三姉妹9

ラジオドラマ脚本・第九話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
幕末は、終盤になるほど、どんどん展開が早くなります。今まで漠然と「ものごとはそういうものだ」と思っていました。が、このドラマを書いて初めてわかったのは、移動時間の短縮が大きいということ。勉強になりました。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第九話「京へ京へと、草木もなびく」(1862~63年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)

勝海舟

お奈津

坂本龍馬

電話オペレーター
浪士(フリーター)
別の浪士(フリーター)

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

  文久二年、十二月。赤坂・元氷川坂下の、勝海舟の屋敷。三姉妹は庭木の八手の陰にかくれ、あやしい訪問者の様子を窺っていた。

(全員ウィスパー)
凛姫 来たわ。
弓姫 侍ね。
星姫 二人いる。

龍馬(OFF)その勝ってのは、いったいどういう男ぜよ。

凛姫 誰だろう?

龍馬(OFF)とにかく、会ってみて話がわからんようなら…バッサリいくぜよ。

  と物騒なことを言う二人の男。大柄な方の男は早くも、腰に差した刀・陸奥守吉行(むつのかみよしゆき)に手をかける。

凛姫 ちょっとお待ちください!
龍馬 おん?
弓姫 ここは軍艦頭取・勝海舟様のお屋敷よ。
星姫 そこへ刀に手をかけながら入ってくるというのは、お二人とも、礼儀としてどうかしら?
龍馬 だ、誰だ、あんたたち?
凛姫 人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るべきです。
龍馬 …はっはっはっ。こりゃ一本取られた。たしかに、お嬢さんたちの言う通りぜよ。こちらにいるのは、有名な桶町(おけちょう)千葉道場の、重太郎さんじゃ。
そしてわしは…、エッヘン、有名な坂本龍馬!

M「龍馬伝」CI~BG

(三姉妹、ささやきあう)
弓姫 ねえ、有名なの?
星姫 さぁ…?。
凛姫 千葉道場は有名よね。
星姫 有名、有名。
凛姫 千葉重太郎って名前、聞いたことあるもん。
弓姫 じゃあ、坂本っていうのは?
星姫 知らな~い。
弓姫 りようま?
星姫 なに、その変な名前。
三姉妹 (笑いあう)
(M ~しぼむ)

龍馬 (咳払い)あ~、正しく言うと、わしは、有名…になる予定の坂本龍馬じゃ。
星姫 予定…って?
龍馬 今この国は危急存亡の時だ。わしはなんかでっかいことをやって日本を救い、そのことで将来は芝居とか読み物に取り上げられ、恋人にしたい男調査で上位に選ばれ、さらに「桜坂」なんて歌も歌ったりする予定ぜよ!

  あの、龍馬さん、それ別の人のキャラクターも混ざっちゃってます。

星姫 あ、まぁ、予定は予定として…、今は、どちらの坂本様ですか?
龍馬 今は……、ただの土佐脱藩の身じゃ。
弓姫 な~んだ。
龍馬 悪かったな、無名で。ところで、次はあんたたちが名乗る番ぜよ。
弓姫 弓姫よ。
凛姫 凛姫といいます。
星姫 星姫じゃ。
龍馬 ほほぅ…、勝家にはこんな大きなお嬢様方がおいでか?
凛姫 いいえ。私たちは勝先生の弟子です。
龍馬 弟子? ということは、おまんらも西洋かぶれか!?

M  FI~BG

龍馬 ペリー来航以来、この国は腰抜けになってしもうちょる。夷人どもが我が物顔で歩き回り、幕府はそれに対してな~んもできん。ただオロオロと右往左往しとるだけじゃ。情けないとは思わんか?
凛姫 思います。
龍馬 お、あんた話がわかるな。噂じゃあ、こちらの勝っていうのは西洋かぶれ。武士ならば攘夷を行うべきところ、すっかり夷人に取り込まれちょると聞くぜよ。
とくと話を聞いてみて、事と次第によっちゃあ…
星姫 事と次第によっては?
龍馬 この重さんと共に、北辰一刀流の腕をみせることになるやもしれん。弓姫 怖い…。
凛姫 たしかに、この国を、夷人の好き勝手にさせたくはありません。その気持ちは私たちも勝先生も一緒です。
龍馬 そうじゃろう? だから攘夷を…!
凛姫 ですが、そのために外国人を一人一人斬ってみても、きりがありません。
龍馬 そ、そうなんじゃ。
凛姫 まず開国をして、外国の技術や兵力を取り入れ、それから日本が一丸となって外国に文句を言う。どうしても「攘夷」をするなら、それからだって遅くはありません。…というか、それしか方法がないんです。わかりますか?

  なんのことはない。凛姫は、以前「プチ脱藩」をしたとき勝海舟に諭されたことを、そのまんま龍馬に言っているだけ。

龍馬 …う~ん、おまんの言うことは、わかるような、わからんような…。

  龍馬の反応も、その時の凛姫と同じ。
当時、攘夷派の志士はたくさんいたが、聡明だといわれる人物でも、だいたいがこの程度のレベルだった。

M  ~FO

(OFF→ON)(手をパンパンと叩きながら)おーし、凛姫、なかなか見事な説得じゃねえか。これだったら、オイラに代わって師範代でもできそうだな。
凛姫 いえ、そんな…。
龍馬 ん? あんたが?
  そう。おめえたちが斬りに来た勝海舟だ。どうでぇ、まだその刀を振り回す気があるかい?
龍馬 …いや、…なんか、間が抜けてしまった気がするぜよ。
  (笑って)坂本君…といったな。今オイラが考えてる「攘夷」の策を教えよう。よく聞きな。

M(いさましいの)CI~BG

  まず、日本のまわりの海を北から南まで、六つの区域にわける。これを海の区域「海区」と呼び、それぞれの海区に艦隊を持つ。第一艦隊は、江戸大坂防衛艦隊。これはフレガット型軍艦三隻を持ち、その乗組員は千四百人。さらにコルベット型軍艦九隻で、乗組員二千五十二人。加えて、小型軍艦三十隻、運送船一隻を持つ。
これが六つの海区にあるから、全六艦隊で合計二百七十隻、乗組員合計六万一千二百五十人。
これだけあれば夷人に手出しはさせねえ、立派な「攘夷」ができる。
龍馬 ひゃああ、こりゃすごいぜよ。
  しかし、これだけの艦隊を揃えるにゃ金がいる。
龍馬 そりゃそうじゃ。
  その金は…、海からもろう。
龍馬 海から?
  開国をし、海の向こうの国と貿易をして、じゃんじゃん稼ぐんだよ。これがオイラの言う「開国策」だ。
龍馬 なあるほど。
  わかったかい?
龍馬 いや、とんとわからん。

(M ~CO)

  なんだい、ガッカリだな。
龍馬 中身はわからんが、とにかくでっかい話だということはわかった。わしはでっかいことが好きじゃ。ちまちまと夷人を一人一人斬っていくような攘夷は性にあわん。
勝さん、いや、勝先生、どうかわしを弟子にしてつかぁさい!
  ずいぶん急な話だな。
龍馬 お願いします! ほ、ほら、先輩方からも口ぞえを!
凛姫 せ、せんぱいって?
星姫 私たちのこと?
龍馬 もちろんじゃ。入門が許されたら、お三人はわしの先輩になるぜよ。
弓姫 じゃあ、坂本さんは私たちの後輩?
龍馬 はい。ぜひ、そうなりたいんじゃ。勝先生にお口ぞえを!
星姫 どうする?
弓姫 悪い人じゃなさそうよ。
凛姫 でも、最初は先生を斬りに来たのよ。
星姫 たしかに。こんなにコロッと変わるのもねえ。
弓姫 単純なんじゃない?
星姫 だけど、見た目、ちょっとよくない?
凛姫 そ。わたし好み。
星姫 うふ。実は私も。
弓姫 じゃ、いっか? せーの…
三人 弟子にしてやってくださいな、大センセ❤
  (でへへ、と照れ)…ま、いいか。
龍馬 ありがとうございます!

  のちの世には、「坂本龍馬は、勝海舟を斬りにきて、その場で弟子入りしたと伝わっている。しかしそこに実は三姉妹の力があったことを、知る人は少ない。

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