幕末三姉妹17

ラジオドラマ脚本・第十七話(全二十話)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
ついに最後の十五代将軍が誕生。幕府はカウントダウンに入っていきます。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十七話「ブレる慶喜、ねじあげ酒」(1866年)
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【登場人物】

(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫

立花慎之介
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)

西郷隆盛

徳川慶喜

アナウンサー

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

  慶応二年六月七日。

SE 合戦(鉄砲もあり)~BG

  ふたたび、幕府軍は長州に攻め入った。これが第二次長州征伐!
…とはいえ、前回は一戦もまじえずに終わっているので、本当にドンパチをやらかしたのは、この時がはじめて。

星姫 長州の桂さん、大丈夫かしら。
凛姫 大丈夫じゃない? なにしろ、「逃げの小五郎」だから。
弓姫 それに、今回は薩摩が参加してないもんね。

  そう、幕府からの出兵要請に、薩摩は…

西郷(エコー)長州は恭順の意を表わしているでごわす。今回の長州征伐には、大義がごわはん。

  と断っているのだ。もちろんその裏には、この年一月、龍馬と日和見家三姉妹の仲立ちによって結ばれた「薩長同盟」の存在があった!

三姉妹 しーっ!
弓姫 あの同盟のことはナイショでしょ。
星姫 誰かに聞かれたらどうするのよ。
凛姫 そうよ。あれは、あの場にいた人だけの秘密。

  あ、そうでしたね。すみません。

星姫 だって、父上にも内緒にしてるのよ。
凛姫 父上とじいに知られたら、絶対に噂が広がるもの。
弓姫 お喋りだもんねえ、あの二人。

  その日和見忠典と左右田頼母は、このとき座敷で…

じい  ハ、ハ、ハ…ハックション!
日和見 っくしょん!
じい  う~~~。と、殿もくしゃみですか。
日和見 ああ。誰かわしらの噂でもしとるのかのう?

  あらま。星姫の「くしゃみ」に比べ、ずいぶんガサツですねえ。

SE 大太鼓ドン

  しかし、幕府に非協力的なのは薩摩藩だけではなかった。なにしろ、戦争には莫大なお金がかかる。が、開国以来の物価高騰で、各藩にはその余裕がない。
「こんな大変な時に、徳川家の個人的なしかえしみたいな戦争に引っ張り出されるのは、迷惑だ」
というのが本音。
「でも、幕府にさからうとあとが面倒だな。ま、一応形だけ、出兵しとくか」
という、やる気のない状態で兵隊を出している。だから…

SE 古いラジオのチューニング音~BG

アナウンサー(フィルター)大本営発表! 本日未明、わが長州軍は、幕府連合軍と戦争状態に入れり。
藩の南の端「大島口」では、高杉晋作率いる軍艦が幕府艦隊を蹴散らした。藩の東の端「芸州(げいしゅう)口」では、幕府軍本体の彦根・紀州・大垣などの各藩を撃破。敵・大本営の広島は混乱状態に陥り、幕府軍総督の徳川茂承(もちつぐ)公が、辞表を出したとの噂あり。
藩の北の端「石州(せきしゅう)口」では、村田蔵六の作戦がことごとく的中。我が軍は一気に進軍し、浜田城を落とした。
藩の西の端・九州との境目である「小倉口」は、もっとも重要な戦線である。ここに我が軍主力の「奇兵隊」を配置、さらに坂本龍馬率いる亀山社中・軍艦の応援もあって、有利に作戦を展開中!

  長州は連戦連勝だった。なにしろ、幕府軍・各藩の装備は、先祖伝来の甲冑を身につけ、槍をかかえ、太鼓やほら貝を鳴らして進軍。鉄砲は、いまだに火縄銃。

SE(エコー)悠長にパーン!

  ほとんど、三百年前の「関ヶ原の戦い」当時と変わらないのだ。一方長州軍は、すでに四ヶ国連合軍にコテンパンな目にあわされ、近代戦とはどういうものかが、わかっている。だから農民に至るまでゲベール銃を持ち、さらには最新のミニエー銃も装備。

SE 連発(とはいえ、ミニエー銃は連射式ではない。あくまで一発撃ちで、早い)

  これに対して、

SE (再び)悠長にパーン!

SE なぜかカラスがカァ~と鳴いてバタバタ飛んでいく

  …ですからね。これじゃあ、勝負にならない。
こんな状況に加えて、七月。大坂城にて全軍の指揮をとっていた将軍・徳川家茂(いえもち)が、病気で急死したのだ。

M(悲しい)CI~BG

  覚えているだろうか。かつて、将軍の跡目争いで「一橋派」と争い、すったもんだのあげく、

(#5から)
慶福(十二歳)「余が、第十四代将軍・徳川家茂じゃ!」

  となった将軍。その後、公武合体のため和宮を妻に迎え、勝海舟を引き立てて神戸に海軍操練所を作ったりもしたが…、わずか二十年の生涯だった。当然、次は一橋慶喜……と思いきや、当の慶喜は、

慶喜(二十九歳)将軍職は継がない!

  とゴネるのだ。けれど、

慶喜 徳川家なら継いでもいいぞ。

  と、なんだか発言がぐらぐら。そして、一橋慶喜改め徳川慶喜になると、いきなり、

慶喜 長州へ、大討込(おおうちこみ)だ!

  と宣言した。「大討込み」とは、「大攻勢に出るぞ」…という意味。膠着している長州征伐に、自ら指揮をとって出かけるというのだ。
ところが、

SE 古いラジオのチューニング音~BG

アナウンサー(フィルター)大本営発表! 我が長州軍は、「小倉口」の戦いでも大勝利。幕府軍総督・小笠原長行(ながみち)は、大坂に逃げ帰った模様。

  と、幕府負け戦の知らせを聞いたとたん、

慶喜 大討込、中止だ!

  と宣言。その間、わずか九日間であった。もう、トップの発言、ブレまくり! まるで、現代の誰かみたい…。

SE 大太鼓ドン

じい  結局、長州征伐は中止になりました。
星姫  よかったわぁ。
日和見 しかし、これで幕府の威信は地に落ちたな。

   と、京都の日和見藩藩邸で。

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