幕末三姉妹16
ラジオドラマ脚本・第十六話(全二十話)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
この回は薩長同盟の真実(?)があきらかになります。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十六話「ついでに、同盟」(1865~66年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
立花慎之介
桂小五郎
西郷隆盛
坂本龍馬
グラバー
イギリス人
フランス人
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル・クレジット」
N 時は慶応元年。ではありますが、ここで…
SE 歯車がギリギリと~BG
N 時計の針を、ギリギリと七年ほど戻してみると…。安政五年に、「日米修好通商条約」を結びましたね。そう。朝廷の許しを得てなかったことで、その後もずっとゴタゴタの元になっているアレ。アメリカを皮切りに、都合五つの国と条約を結び、これをまとめて「安政の五カ国条約」と呼ぶ。
五カ国とは…、アメリカ、イギリス、フランス、ロシア、オランダ。
このうちアメリカは、「南北戦争」という国内事情で脱落。ロシアも、同じ頃におきたクリミア戦争で負け、日本にかまってる余力がない。オランダは、すでにヨーロッパでの地位が低くなっている。
すると、残るは二カ国。
M(イギリス国歌)~BG
N イギリスは、「薩英戦争」と「四ヶ国連合下関砲撃」とで、それぞれ、かえって薩摩藩、長州藩との仲が深くなった。
イギリス人 幕府ニハ、薩摩ヤ長州ヲ支配する力がないノダ!
N と見透かされてしまったんですね。だからせっせと両藩に肩入れし、グラバーなどを通じて軍艦や武器も売る。もちろんそれは、
イギリス人(囁く)幕府なんか倒してしまいなさい。
N というメッセージだ。一方、フランスは、
M(フランス国歌)~BG
N イギリスへの対抗上、幕府に肩入れする。今に残る徳川慶喜将軍の写真がフランス風軍服を着ているのは、そのせい。フランスの公使・ロッシュは、
フランス人 ボンジュール! 幕府のタメニ、軍艦とお金をお貸ししますデスよ!
N とまで提案。こっちは、
フランス人(囁く)薩長なんかつぶしてしまいなさい。
N というメッセージ。
もっともこれは、のちに勝海舟が、「フランスが親切心だけでそんなことをするわけがない。あとで必ず代償を要求され、えらい目にあわされるぜ」と断らせているが。
ともかくこの時点で、日本は、イギリスとフランスの代理戦争の場になりつつあった。
SE 大太鼓ドン
N 時計の針を元に戻して、慶応元年の長崎。そのイギリスの代理人ともいえる武器商人「グラバー商会」の前で…
坂本 わしはついに、作ったんじゃ。その名は…「亀山社中」ぜよ!
N と宣言したのは、坂本龍馬。
弓姫 「亀山」って?
坂本 この場所の名前じゃ。
立花 「社中」って?
坂本 同じ志を持った連中の集まりのことじゃ。
弓姫 「ぜよ」って?
坂本 …ぜ…、そ、それは口癖だから、気にしなくていい……ぜよ。
弓姫 ああ。
坂本 とにかく、神戸の海軍操練所を追い出されたみんなを、ここに入れる。
立花 入れてどうするんです?
坂本 みんな、船を操る技術を持ってるぜよ。亀山社中が船を持てば、いろんな藩の物資を運ぶ商売ができる。
N いわば、「海軍操練所」という国立組織のリストラにあった連中が、身につけたスキルを生かすため、共同で立ち上げた「ベンチャー企業」のようなもの。
しかし、弓姫と立花慎之介は感心しながらも、いま一つ腑に落ちない。
立花 そんなことを発表するために、私たちをわざわざ長崎に?
坂本 いや。これは大きな声では言えんが…
(囁く)亀山社中は、ただ商売をするだけじゃないぜよ。
立花 どういうことです?
坂本 こういうことじゃ。ちくと見といてくれ。
M FI~BG
坂本 おい、グラバーさんよ。ミニエー銃はあるかい?
グラバー はい。一挺十八両でーす。
坂本 じゃ、それを四千三百ほど。
立花 すごいな。あれは、最新式だから、以前のゲベール銃が一発撃つ間に、十発は撃てると聞いてます。
坂本 その旧式のゲベール銃は?
グラバー 一挺五両です。
弓姫 こっちはずいぶん安いのね。
立花 アメリカの南北戦争が二ヶ月前に終わりましたからね、いま市場にあふれて値崩れしてるんです。
坂本 じゃあ、それも三千ばかり。
グラバー はい。
坂本 あと、軍艦を一隻。
グラバー 上海に「ユニオン号」という出物がありまーす。三万七千七百両でーす。
坂本 締めて、いくらになるぜよ?
グラバー 締めて…
弓姫 十三万とんで百両!
坂本 弓姫様、暗算早いのう。
弓姫 うん。インド式なの。
グラバー OK。百両はベンキョーして、十三万両では?
坂本 よし、買った。
弓姫 龍馬さん、お金持ちなのね。
坂本 いや、わしが払うわけじゃないきに。
立花 では、誰が?
坂本 長州じゃ。
グラバー オー、ノー!!
N この頃、「長州に再び不穏な空気あり」ということで、幕府は、第二次長州征伐を発表していた。もう一度やられれば、長州は間違いなく滅びる。藩の実権を握った高杉晋作と、出石(いずし)から帰国した桂小五郎を中心に長州藩は牡蠣のように、殻を閉じて息をひそめていた。
幕府の攻撃に立ち向かうには、最新の武器が必要。しかし、日本中から爪弾きにされている長州は、外国から武器を買うことができないのだった。
グラバー 長州に売ったとバレれば、他でショーバイができませーん。残念ですが、お売りできませーん。
坂本 しかし、亀山社中になら売れるだろ?
グラバー もちろん。大歓迎でーす! では、領収書の宛名はどうします?
坂本 「上様」で。それから、二枚に分けて、日付けは月末にして…
グラバー ノー、ノー! そういうの、幕府の目がうるさいんデース。
坂本 亀山社中は薩摩の出資でできとるんじゃ。だから、「薩摩藩」なら?
グラバー なんの問題もありませーん!
坂本 ということで、薩摩藩の名義でウチが買って、その武器を長州に渡す。
弓姫 あ、そうか。龍馬さん、トンネルを作るって言ってたのは、そういうことだったのね?
N そう。「亀山社中」は日本初の商社にして、日本初の「トンネル会社」。そして、いざとなったら商船が軍艦に変わる「私設海軍」でもあった。物騒ですね。
この「亀山社中」と「土佐商会」が合併して、のちに「海援隊」となる。
坂本 亀山社中は、藩と藩との間をつなぐトンネルになるんじゃ。
立花 なるほど。
坂本 そしてわしは、人と人の間をつなぐトンネルになる。弓姫様?
弓姫 はい?
坂本 星姫様と凛姫様のケンカも、これでおさまるきに。心配はいらんぜよ。
弓姫 ほんとう?
M CI~BG
N こうして、亀山社中を通して、薩摩から長州に武器が流れ、一方、長州から薩摩へは兵糧米が流れ、犬猿の仲だった両藩の間は、少しずつ溝が埋まってきた。
当時、「薩摩と長州が結ぶべし」という考えは、誰の目にもあきらかだった。「薩長同盟」は龍馬の独創ではない。しかし、まだ「薩長同盟」は結ばれない。薩摩、長州とも、頭でわかっている事と人の心の動きとは、別物なのだった。
M ~FO
N 第二次長州征伐を、やるぞ、やるぞと言って、なかなか始まらないまま、年があけて、慶応二年、一月。
SE 大太鼓ドン
N 京都の薩摩藩邸を、長州から、ひそかに桂小五郎が訪れた。
西郷 遠路はるばる、ようこそおいでもした。おいどんが西郷隆盛でごわす。
桂 桂小五郎です。
西郷 歓迎の宴を用意したでごわす。さ、さ、どうぞ、遠慮なさらずに、おおいに飲んで、食ってください。
桂 ああ。
N 長州の人間が京都に入るだけで、命の危険にさらされる時だ。そんな中、桂はわざわざごちそうを食べるために来たわけではなかった。
(エコー)
坂本 去年、桂さんが下関で待っているところへ西郷さんが出向き、「薩長同盟」を結ぶはずじゃった。直前になって西郷さんが来なかったので、結局流れた。薩摩はそれを申し訳なく思っている。
今度は、桂さんの方から京都の西郷さんのとこへ出向いてはくれんかいの う? そうすりゃ、今度こそ、「薩長同盟」成立じゃ。
N と龍馬に口説かれ、決死の思いで出てきたのだ。しかし、接待はされたものの、その日は「同盟」の話が出るわけでもなく、一日が終わった。
SE 大太鼓ドン
N その翌日。
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