幕末三姉妹15

ラジオドラマ脚本・第十五話(全二十話)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
今回は、神戸から長崎へと弓姫大活躍。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十五話「龍馬、からっぽ」(1865年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
立花慎之介

桂小五郎
西郷隆盛
坂本龍馬

グラバー

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

SE 港(現代)~BG

  港・神戸。ここもまた、横浜と並んで幕末の日本に登場する重要な港町…ではあるが、その事情は、横浜と違っていた。
「街の明かりがとてもきれいねヨコハマ」…はもちろん、大都市・江戸をにらんでの開港。
対する神戸は、京都・大坂をにらんでの開港。ところが、この京都の公家たちが、「そんな都に近い場所に夷人が来るんは、いやや」とゴネにゴネ、開港が延び延びになっていた。
すでに外国と条約を結んでいるので、開港しなきゃいけないのだが、朝廷との板ばさみで、幕府はまさに、泣きたい気分。
ああ…「神戸、泣いてどうなるのか」。
元治二年三月のこの日、その神戸を訪れたのは…

弓姫 わあ、ここが「海軍操練所」?
立花 はい。勝先生が将軍・家茂様をご案内し、「ぜひ、この地に」と進言して、出来上がったのです。

  日和見藩・三姉妹の末娘・弓姫と、同じく日和見藩の立花慎之介。慎之介は、この操練所の前身となる大坂の「勝塾」に入っていたので、そこらへんの事情はよく知っている。

弓姫 まだ建物も新しいのね。
立花 ええ、去年できたばかりですから。
弓姫 わぁ…、おおきな軍艦がある。
立花 「観光丸」です。あれは、長崎の伝習所でも使っていたもの。あと、もう一隻「黒龍丸」という船もあって、この二隻が練習船です。
弓姫 ずいぶん立派な施設なのね。
立花 ええ。この立派な施設と、二百名にも及ぶ修業生をたばねているのが…
坂本(OFF→)やあ、やあ、やあ、ひさしぶりぜよ。お元気そうじゃのう。

  坂本龍馬。勝海舟に言われて塾頭をつとめているのだ。
が、考えてみれば、その勝を斬ろうとしてやってきたのが、わずか二年と数ヶ月前。そんな男を信頼してすべてをまかせた勝も凄いが、図々しく引き受けた龍馬も、また凄い。

弓姫 龍馬さん、どうかしたの?
坂本 へ? わしの顔になんかついちょるかな?
弓姫 ううん。でも、なんか、いつもと違う。
坂本 違っとるか、立花さん?
立花 いいえ。
弓姫 いつもの龍馬さんは、明るくて、面白くて、無鉄砲で、無駄に元気で、いいかげんで、だらしなくて…
坂本 おいおい、途中から褒めてないぜよ。
弓姫 …だけど、今日の龍馬さんは元気がなくて、どこか空っぽな感じ。
坂本 う。
弓姫 なにかあったの?
坂本 ……は、ははは。さすが、弓姫様じゃのう。隠しきれん。
弓姫 やっぱり。
立花 坂本さん、なにがあったんですか?
坂本 実はな……、あ、その前に、弓姫様もどうされたんです?
弓姫 え?
坂本 いつもの弓姫様は、星姫様凛姫様と三人で、そりゃあ仲良く行動なさってるのに、今日はお一人。
弓姫 う。
坂本 なにかあったんですか?
弓姫 …さすが、龍馬さんね、隠しきれない。
坂本 やっぱり。
弓姫 それが、ここに相談に来た理由なの。
坂本 どうやら、お互い悩み事があるようじゃな。ここは修業生の目もある。あの桟橋の端の方にいくぜよ。

M  コーダ

SE (港の)波打ち際ちゃぷちゃぷ~BG

弓姫 廃止!?
立花 この「海軍操練所」が廃止されるんですか?
坂本 しっ! 声が大きいぜよ。まだ、ここの修業生には秘密じゃ。
弓姫 ご、ごめんなさい。
立花 だけど、ここ、できてからまだ一年も経ってないじゃないですか。
坂本 そうなんじゃ。
弓姫 なんでなの?

M   FI~BG

坂本 勝先生の考えで、ここは門地(もんち)を問わず、入門者を募集した。
立花 つまり、家柄・格式に関係なく、やる気のある若者、ということですね?
坂本 ああ。しかし、なにせ、塾頭がこの土佐脱藩浪士の坂本じゃ。「あんな男の下につけるか!」と思われてもしかたがない。
弓姫 たしかに!
立花 弓姫様、失礼ですよ。
坂本 いやいや、それが普通の考えぜよ。それでいいんじゃ。むしろ、本当にやる気のある下級武士や脱藩浪士が集まってきた。みんな、熱い連中ぜよ。ところが、ちょっと熱すぎたんじゃな。
弓姫 どういうこと?
坂本 ほら、去年、京で「池田屋事件」があったじゃろ? あの時、新撰組に斬られた望月亀弥太は、元ここの修業生じゃ。
弓姫 そうだったんですか。
坂本 それから、「蛤御門の変」のとき長州軍にいた安岡金馬も、ここ出身じゃ。ま、こっちは死んではおらんがな。
立花 なるほど。そういうことですか。

  「神戸の海軍操練所には、過激分子が巣食っている」と幕府が目をつけたのだ。それでなくても、勝海舟の進歩的な発言と行動を、目障りに思っている連中は多い。
「勝は、脱藩浪士たちを集めて、なにかたくらんでいる」
という邪推から、すでに職を解かれ、江戸に送り返されていた。

坂本 そして今日、正式に廃止が決定したぜよ。
立花 そうだったんですか。
弓姫 それで、元気のない顔を。
坂本 わしはいいんじゃ。また一介の浪士に戻ればええだけじゃからな。しかし、ここに集まった仲間たちの、行き先がなくなってしまう。それが悩みの種なんじゃ。
弓姫 なるほどねえ。
坂本 で、弓姫様の方の相談とは?
弓姫 実は、凛姫お姉様が…

M   (凛姫)~BG

  この時期、西郷隆盛は、京都、大坂、鹿児島の間を行ったり来たりしている。京都にきた時には、凛姫がたびたび訪ねていた。

西郷 いやぁ、凛姫様のおかげでごわす。
凛姫 いえ、そんな。
西郷 教えられた通り、親藩・会津との関係を絶って、「薩摩は薩摩、独自の道をいく」と示したところ、人気が回復しもした。
凛姫 よかったですね。
西郷 凛姫様の紹介で勝海舟殿にお会いしてから、幕府のこともだいぶわかってきたでごわす。

  この時、勝は「幕府の内情はすっかり腐りきってて、駄目だよ」と、政府の秘密事項を暴露しているのだ。
ああ、「ウィキ・リークス」!
「親譲りの格式に甘んじてる連中は駄目だ」と、勝は一刀両断。
ああ、「二世・三世批判」!
「雄藩の連合で改革をやろうとしても、幕閣がなんだかんだと理由をつけてうやむやにするよ。無駄なものは切っていかなきゃ」と、役人批判。
ああ、「事業仕分け」!
ま、もっとも、自分が始めた「神戸海軍操練所」は、その役人によって仕分けされちゃったわけですが。

西郷 最近、我が藩は、イギリスとずいぶん仲がよくなってなア。
凛姫 イギリス!? 一昨年、薩英戦争でお国を攻めてきた相手でしょ?
西郷 ハハハ…! 「昨日の敵は今日の友」でごわす。このへんの「日和見力」も、凛姫様の藩に学びもした。
凛姫 はあ…。
西郷 薩摩はあン敗戦のおかげで「攘夷はどだい無理なこと」と思い知りもした。いま、我が藩は「開国」のために戦う、と方針がハッキリしもした。だからイギリスから、いろいろと武器を購入しているとでごわす。
凛姫 その武器は…
西郷 ん?
凛姫 …どこに対して使うんですか?
西郷 さあ、どこですかな。いつまでも「攘夷、攘夷」と叫んでおる長州!…か、それとも、どこか他の所か……。

M   ~FO

弓姫 いつもどんな話をしてるのか教えてくれないけど、凛姫お姉様、すっかり薩摩びいきになってるの。
坂本 そうか、西郷さんに。
弓姫 知ってるの?
坂本 ああ、勝先生の紹介で会ったことがあるぜよ。
立花 どうでした?
坂本 う~ん、小さく叩けば小さく響き…

SE 小さい鐘を、コ~ン

坂本 大きく叩けば大きく響く。

SE 大きい鐘、ゴ~~~~ン!

坂本 もしバカなら大バカで、利口なら大利口じゃろうなあ。
弓姫 で、どっちなの?
坂本 わからん。しかし、別に西郷さんに会うくらい、いいじゃないか。
立花 そうなんですよ。私もそう思うんです。
弓姫 うん。でもね、一方で、星姫お姉様が…

M  (星姫)~BG

  一方星姫は、これまた、たびたび、但馬(たじま)の国・出石(いずし)に通っていた。こっちの相手は、荒物屋の幸助と名前を変えて潜伏中の、長州・桂小五郎。

  先日、村田蔵六から手紙が来た。
星姫 村田…蔵六、さん?
  まあ、知らないだろうな。

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