幕末三姉妹7

ラジオドラマ脚本・第七話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマ。
今回は、有名な「桜田門外の変」。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第七話「雪の桜田門」(1860年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)

勝海舟

中居屋重兵衛

報道記者

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

  「安政」も七年目に入った二月。三姉妹は、横浜を訪れていた。この地に、「銅御殿(あかがねごてん)」と呼ばれる大きな屋敷を抱えた、巨大売込商・中居屋重兵衛がいた。
しかし、どうもただの商人ではないようで…

弓姫(鼻をくんくんして)これは、なにかしら……、そう。花火をした時の…
凛姫  火薬の匂い?
中居屋 ほほう。弓姫様、よい鼻をしてらっしゃいますな。私の体に、染み付いてるんですかな。
星姫  生糸の商人が、なぜ火薬の匂いを?
中居屋 姫様方、少しお話したいことがあります。座敷へ、どうぞ。

M   コーダ

SE  コーヒーカップカチャカチャ~BG

星姫  なんですか、この黒いの?
中居屋 西洋人が飲むお茶で、「コオヒイ」といいます。
凛姫  コオヒイ…凄い色ね。
弓姫  でも、香りはこうばしいわ。
中居屋 こんなふうに…、砂糖をたっぷり入れて飲みます。(飲んで)…う~ん、うまい。さ、みなさんもどうぞ。
凛姫  う、うう……。
星姫  どうぞって言われても…。
弓姫  私、飲んでみる。(カップ、カチャカチャいわせて~飲む)
凛姫  どう?
星姫  弓、おいしい?
弓姫  …うえ~~~! にが~い!
中居屋 はははは…。お口に合いませんでしたか。(手をパンパンとたたき、奥に)おーい、コオヒイをさげて、普通のお茶を持ってきておくれ。
星姫  すみません。せっかく珍しいものを用意していただいたのに。
中居屋 いえ、いいんですよ。誰だって最初はこうなります。
弓姫  だったらはじめから言ってよね(怒!)。
凛姫  で、私たちにお話というのは?

M    CI~BG

中居屋 私は…、上州の生まれでして、十代の頃から佐久間象山先生について鉄砲射撃を教わりました。
凛姫  佐久間象山って、たしか吉田寅次郎さんの先生。
中居屋 ほう、松陰殿をご存知で?
凛姫  一度だけ会いました。
弓姫  フーテンの寅次郎ね!
星姫  でも、去年、処刑されてしまったとか。お可哀想に。
凛姫  象山さんの奥さんは、勝海舟先生の妹さんだって聞いたわ。
中居屋 なんと、勝海舟もご存知で?
弓姫  私たちの大先生よ!
中居屋 そうでしたか。日和見藩は姫様方もずいぶん開明的なんですな。
星姫  それで?
中居屋 上州で、わが家は薬種薬草を取り扱ってました。その秘伝を使って、私は火薬の製造を開始したのです。
弓姫  ああ、それで体に火薬の匂いがしみついてたのね。
中居屋 それから江戸に出て、練兵館の斉藤弥九郎(やくろう)先生の下で神道無念流(しんとうむねんりゅう)を学び、江川太郎左衛門、高島秋帆といった方々とも知り合いました。そして薬と本を扱う商売を始めたのです。
星姫  ちょ、ちょっと待って。中居屋さんって、商人なの、学者なの、武士なの?
中居屋 さあ…。自分でもよくわからないですなあ。

   幕末のざわついた空気の中、武士だけでなく百姓・町人も剣術を習うことが流行った。商人も西洋の知識を得て、政治や外交に意見を持つようになる。さながら大きな鍋でじわじわと熱せられるように、人々の気持ちはしだいに沸騰していた。

中居屋 以前、私は、芝・金杉に店を構えていました。
凛姫  日和見藩の藩邸に近いですね。
中居屋 ですから、時折、評判の美人三姉妹のお姿を見かけていたんです。
星姫  まあ、美人三姉妹だなんて! やだわ、正直な方ね。
中居屋 今はこの横浜に移って生糸の輸出を行い、おかげさまで繁盛しています。
弓姫  この銅御殿だもんね。
中居屋 貿易というのは輸出と輸入で成り立ちます。生糸を輸出して、代わりに私が何を買い入れているかというと…

SE  木箱をゴトゴト開け~BG

中居屋 アメリカ商館のホールという商人から、今日届いた品です。

SE  拳銃をゴトリと置く

星姫  これは!
凛姫  ……ピストル!
(※弾装を回す音をBGに)
中居屋 これはリボルバーという最新式で、弾を五発込めることができます。
星姫  物騒な品ね。
中居屋 たしかに。しかし、日本のために使うのなら、物騒も役に立つ。
凛姫  日本のためって?
中居屋 存じ上げておりますよ。先の将軍継承問題で、日和見藩は一橋慶喜派に立ち、おかげでいまは大老・井伊直弼の粛清に身を小さくしているとか。
凛姫  そ、それがどうしたというんですか。
中居屋 西洋のことわざに、「目には目を」というものがあるそうです。
凛姫  目には目を…?
中居屋 ことわざが正しいなら、間もなく大老に怯えることもなくなるでしょう。それをお伝えしておきたくてね。ふふふ…。

M  ブリッジ

  そして、三月。この日は朝から冷え込んでいた。高輪台の日和見藩邸では、弓姫が空を見上げている。

弓姫 見て。寒いと思ったら、雪が。
凛姫 あ、ほんとだ。三月に雪なんて珍しいわね。
星姫 しかも、今日は桃の節句だというのに。

  時ならぬ雪が、江戸の町から音を消し去っていた。しかし、そんな中…

SE ピストル(尾をひくエコー)

  一発の銃声を合図に、その事件はおきた。現場の様子を、報道の畑中さんに聞いてみましょう!

M  情報番組アタック

記者 こちらは、江戸城を望む桜田門外の現場です。さきほど、井伊掃部頭(かもんのかみ)様のお屋敷から…

  あ、ちょっと待ってください。わかりにくので、現在の地図でレポートをお願いできますか?

記者 了解しました。

SE 現代の日比谷通りノイズ~BG

記者 皇居のお堀に沿って走る内堀通り。ふだんはジョギングでにぎわう平和なこの場所で、惨劇がおこりました。
本日三月三日、午前八時過ぎ。国会議事堂の斜め前。憲政会館の場所にある井伊直弼のお屋敷から、登城のための大名行列が出発。行列が内堀通りを進み、警視庁前の桜田門から江戸城に入ろうとしたところ、一発の銃声と共に過激分子十八名が襲いかかり、井伊大老の首をはねるという事件がおこりました。

  犯人はどういう連中なんでしょうか?

記者 中心人物は水戸藩脱藩の関鉄之助(せき・てつのすけ)。犯行におよんだ十八名中、十七名は水戸の脱藩浪士であることがわかっています。
このところ、井伊大老は、水戸藩に対してたいへん厳しい粛清人事を行っています。それを恨んでの犯行ではないかと思われます。

  残りの一名は、誰なんでしょう?

記者 それがまだ身元確認できていません。ただ、実際に井伊大老の首をはねたのはその人物です。
目撃者情報によると、その男は井伊大老の首を抱え、内堀通りを日比谷の交差点に向かって進み、左折。丸の内警察、ニッポン放送を横に見ながら、日比谷通りを進みました。本人も相当深手を負っていたので、帝劇、東京會舘の前を通り、和田倉濠前の銀行協会ビルのあたりで力尽き、絶命しました。
白昼、政府の最高権力者がテロによって殺害されるという異常事態に、政府首脳・国民共に、大きなショックを受けています。
以上、現場から畑中がお送りしました。

   ありがとうございました。畑中さんでした。

M  締めアタック

日和見 なんということじゃ! 江戸の真ん中で大老が襲われるとは!
凛姫  井伊家は名門でしょ?
日和見 三十五万石の大藩ゆえ、供回りの人数も六十人はいるはずじゃ。
弓姫  それが、たった十八人の浪士に?
日和見 油断していたんだろうなあ。
星姫  襲ったのは水戸の脱藩浪士とか。
日和見 水戸藩は、特に、大老にひどい目にあわされているからな。気持ちはわからんでもない。やられた分はやりかえす、ということだろう。
凛姫  あっ!
日和見 どうした凛姫?
凛姫  父上、もう一度言ってください。
日和見 やられた分はやりかえす…。
凛姫  それよ! 星姫お姉様、弓姫、どこかで似たようなこと聞かなかった?
星姫  そういえば、聞いたような…
弓姫  あ。思い出した! たしか横浜で…

(回想エコー)
中居屋 西洋のことわざに、「目には目を」というものがあるそうです。

凛姫  ね。
弓姫  あっ! 私、もう一つ思い出しちゃった。
星姫  なに?
弓姫  父上、大老を襲った合図は?
日和見 ピストルの音だったという。大老が撃たれたという噂もある。

(回想エコー)
中居屋 これはリボルバーという最新式で、弾を五発込めることができます。

星姫  あ、あの時の!
弓姫  そうか。じゃ、中居屋さんが言ってたのは、このこと?
凛姫  駄目よ!

M    FI~BG

凛姫  それって間違ってるわ。
日和見 なにが?
凛姫  やられたらやりかえす。すると、そのやられた方はまた、やりかえす。そうしたら、またやられた方が…
弓姫  きりがないわね。
凛姫  だから、こんなことやってちゃ、何の解決にもならないのよ。

   「テロの連鎖」という言葉はまだないけれど、凛姫が心配しているのは、そういうこと。そしてもう一つ、心配なことが…

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