幕末三姉妹20(最終回)
ラジオドラマ脚本・第二十話(最終回)。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマ。
ついに明治維新にたどりつきます。
振り返ってみれば、ペリー来航から、たった(とあえていいます)15年なのです。世の中が大きく変わる時は、あれよあれよという速さ。そのスピードに、取り残される人、うまく乗っていく人、巻き込まれて揉みくちゃにされる人、(いい方向にも、悪い方向にも)変わっていく人…など、さまざま。そこに、人間のドラマが生まれます。
こういう時代の大きな転換期は何度かあります。幕末とは限らず、いま現在の私たちもそうなのではないでしょうか?
私は歴史について書いた本が多いのですが、歴史を知るというのはそういうことだと思って、いつも書いています。歴史は、古い時代の出来事の羅列ではなく、いま生きている私たちの世界に共通する何かを知ること。
だって、人間が考えることやることなんて、昔も今もそう変わらないのです。過去にうまくいったことは真似る。うまくいかなかったことはそこに気をつけ、同じ間違いをしないようにする。…なにせ人間ってのは、同じ間違いをしでかしやすいのでね。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第二十話(最終回)「扉を開けた三姉妹」(1868年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
立花慎之介
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
天璋院(篤姫)
勝海舟
西郷隆盛
お奈津
新門辰五郎
街の声1~3
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル・クレジット」
N 江戸、高輪台の日和見藩藩邸に、三姉妹と立花慎之介が帰ってきた。それを待っていたかのように現われたのが…
天璋院 凛姫。久しぶりねえ!
凛姫 あ、あなたは篤姫様…ではなく、今は天璋院様!?
N 今は亡き、十三代将軍・徳川家定の正室だ。そのお輿入れの前、凛姫とは一度会っている。
天璋院 実は今日、お願いがあってやってきたの。
凛姫 お願い?
天璋院 いま、官軍が江戸に向かっていますね?
立花 はい。東海道を攻め上ってきた軍隊は、現在、駿府・静岡にいます。
星姫 たしか、総大将は有栖川宮(ありすがわのみや)で、
弓姫 参謀が、西郷さんね。
SE 戦争ドンパチ~BG
N 官軍は、東海道、東山道、北陸道、三つのルートで江戸に向かっていた。その兵力、合計五万。「鳥羽・伏見」で戦闘が始まった時からわずか二ヶ月で、十倍に膨れ上がっている。「幕府から朝廷へ」―という政権交代の大きな、波であった。
では、それを歓迎する、街の声を聞いてみましょう。
SE 現代の街頭インタビュー(あえて荒く編集)~BG
街の声1 やっぱり、前の政権が長すぎましたからねぇ…。/腐敗しますよ、そりゃ。/いいんじゃないすか、政権交代! 期待してます。
街の声2(女)二世・三世っていうのが、多すぎますよね。/新しい人材に頑張ってもらいたいわ。/日本をよくしてほしい。
街の声3 政権交代すりゃこの国がよくなると思ってたんだけどねえ。/どっちもどっちだよ、民主党も、自民党も。この不景気に消費税を上げようとは…
N あ、失礼。これは、別の政権交代についての、街の声でした。
SE 大太鼓ドン
天璋院 慶喜様は朝廷に逆らわず、ひたすら恭順しています。けれど…
凛姫 けれど?
天璋院 幕府内には、徹底して戦うという人たちもいます。
N 慶喜の思いとは別に、幕府軍の「伝習隊(でんしゅうたい)」や「彰義隊」は、やる気まんまん。江戸湾には榎本武揚(えのもとたけあき)率いる軍艦も待機し、「官軍め、返り討ちにしてやる」という空気が漂っていた。
凛姫 ひょっとしたら、その中のどこかに…
星姫 脱藩した父上とじいがいるかもしれない。
天璋院 脱藩!? 藩主なのに?
弓姫 ええ。藩は官軍側につくけど、個人としては徳川の恩にむくいたいって。
天璋院 ああ。その気持ちはわかります。私も、薩摩から嫁いで来ましたけど、今は徳川の人間として、この状態をなんとかしたいと思っているのです。
星姫 なんとかって?
天璋院 もし、この江戸で幕府軍と官軍がぶつかったらどうなると思います?
弓姫 慎之介、どっちが勝つの?
立花 正直言って、勝敗はわかりません。ですが、いずれにせよ、江戸は壊滅的な被害をこうむるでしょう。
凛姫 ということは、武士だけでなく、町人も犠牲になりますね。罪もない女や子どもや、お年寄りたちも巻き込まれてしまう…。
天璋院 それだけは避けたいのです。だから、凛姫、協力して!
M ブリッジ
SE 鶯(あんまり鳴きすぎないように、時々)~BG
N 慶応四年、三月十三日。この日、高輪の日和見藩藩邸を訪れたのは、羽織袴姿の…
勝 おう、姫様たち、元気だったかい?
星姫 勝先生!
凛姫 久しぶりです。
弓姫 先生、やつれた?
勝 まあな。オイラも、いろいろとやることがあってさ。
N 勝海舟は、江戸幕府の幕引き役をまかされていた。そこで、幕府内のいきり立つ強硬派を首にしたり、なだめたり、おだてて江戸から遠くに送り出したり…という下準備で、ここのところ忙しかったのだ。
そして今日も、来るなり、すぐに…
勝 ところで、お奈津はいるかい?
N と腰元のお奈津を呼んで、なにやらヒソヒソと話しだした。
(ヒソヒソ)
勝 例の件はどうなってる?
お奈津 新門(しんもん)の辰五郎(たつごろう)さんですね。
勝 ああ。お前の父親代わりってことで、ずいぶん助けられたよ。
N 覚えているだろうか? 浅草生まれのお奈津は、かつて新門辰五郎を、勝海舟に紹介した。辰五郎は火消しの頭であり、侠客の元締め。それを見込んで、勝は慶喜の警護役を依頼。実は慶喜が京都・大坂にいる時、新門辰五郎率いる組の者たちが、ずっと身辺を守っていた。
そして今回、勝はさらにとんでもない頼みごとをしていたのだ。
辰五郎(六十八)(エコー)こちとら火を消すのが仕事だ。だから逆に、江戸の、どことどこに火をつけたら燃え上がるかは、わかってまさぁ。
お奈津 辰五郎おじさん、心配してました。「本当に江戸を燃やしてもいいのか?」って。
勝 よかあねえさ。しかし、万が一、交渉が決裂したら、そうする。おめえは知らねえだろうが、フランスにナポレオンって人がいてな。
お奈津 ナポレオン? それ、お酒の名前?
勝 いや。戦の天才の名前だ。ところが、この天才がロシアのモスクワに攻め入った時、街を焼かれて、ほうほうの体で逃げ出したことがある。
N ナポレオンの時代というのは、幕末の五十年ばかり前にすぎない。なので、当時、日本の知識人は、ナポレオンのことをよく知っていた。
お奈津 それと同じで、江戸に火を?
勝 官軍を倒すにゃ、この手しかねえ。もちろん、そんなことしたくはねえが、すべては相手の出方しだいだ。
お奈津、いざとなったら辰五郎の所へ走るんだ。
お奈津 はい。
N と言っているところへ、その「相手」がやってきた。
西郷(OFF→ON)いやあ、遅れて申し訳なか。失敬、失敬。
星姫 西郷さん、いらっしゃい。
凛姫 あ。それ、洋服ですね?
弓姫 よく似合ってるわ。
西郷 ハハハ。なんか、ちょいと窮屈でごわんがな。
N 官軍代表の西郷隆盛と、幕府代表の勝海舟。この二人を話しあわせたい。…というのが天璋院の願い。それを受けて、三姉妹が仲をとりもったのだ。
二人は座敷で、一対一になって向かい合った。
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