幕末三姉妹11

ラジオドラマ脚本・第十一話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
誘拐された凛姫の身に危険がせまる!
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十一話「凛姫危機一髪!」(1863年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)

幾松

立花慎之介

芹沢鴨

勤皇の志士

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

星姫 大変よ、父上!
弓姫 大変なの!

  日和見藩の京都藩邸に、星姫と弓姫が駆け込んでくる。

M  (緊急)~BG

日和見 どうした、二人とも。
星姫 凛姫が…
弓姫 いないの!
日和見 なに? ま、また脱藩か?
弓姫 ううん、そうじゃなく。
星姫 私たち、京都に来てる勝先生のとこへ向かったでしょ?
日和見 ああ、そういって出かけたな。
星姫 途中、寄り道したらしく、
弓姫 凛姫お姉様が遅れて、
星姫 私たちが戻ってみると、
弓姫 もうそこにはいなくて、
星姫 道に、これが落ちてたの。
日和見 ……そ、それは凛姫のかんざし!
星姫 きっと誰かに連れ去られたんだわ。
日和見 大変だ! すぐに、みんなで手分けして捜すんじゃ!
星姫・弓姫 はい!
日和見 ……といっても、京都のことはよくわからんぞ。ああ、どこをどう捜せばいいのやら!
弓姫 困ったわ。
星姫 う~ん、どうすれば……あ、そうだ! 

M   ブリッジ

幾松 それで、うっとこへ?
星姫 ええ。幾松さんは、京に詳しいでしょ?

   星姫は、三本木の芸妓(げいこ)・幾松の元にやってきたのだ。

SE  うすく三味の音と、時々おこる宴席のざわめき~BG

星姫 もう私、心配で心配で…。凛姫、大丈夫かしら? 
幾松 たしかにいま京はぶっそうですけど、さすがに女に刃物はふるいまへん。
星姫 命の危険はないってことね。よかった。…でも、どこに?
幾松 さあ、それやけど…あ、捜すのんにええ方法がある!
星姫 なんですか?
幾松 星姫様、じゃあまず、お着物を脱いで。
星姫 え、ええっ?
幾松 さ、さ、脱いで、脱いで…。

  わけがわからないまま星姫は、幾松によって、芸妓の着物に着替えさせられた。

幾松 やっぱり、ようお似合いや。これやったら、立派な京都の芸妓や。
星姫 ちょ、ちょっと待って。なんで私がこんな格好に?
幾松 これからお座敷がおます。そこに集まる志士のみなさんは、毎日いろんな噂とか情報を交換しおうてます。そこで凛姫様の行方を探ってみるんどす。
星姫 あ、なるほど。それはいい方法ね!
幾松 星姫様は、うちの妹芸妓として、一緒にお座敷に出まひょ。名前は…そう、星松というのは?
星姫 いいわね。「星松、どすええ」
幾松 ああ、そんな京都弁使うたら、いっぺんでばれてしまうわ。
星姫 じゃ、どうすれば?
幾松 そうやな…ほな、京の芸妓らしい言葉を、三つだけ覚えまひょ。
まず、最初のあいさつで、「おこしやす」。
星姫 (下手なアクセントで)「おこしやす」。
幾松 そうやなく、「おこしやす」。
星姫 (うまく)「おこしやす」。
幾松 ああ、ええ感じどす。
それから、あやまる時は、「かんにんえ」。
星姫 「かんにんえ」
幾松 うまいうまい。嫌いやいう時は、「すかんたこ」。
星姫 「スカンタコ」?(←変な風に)
幾松 いえ、そうやなく、「すかんたこ」。
星姫 (以下、いろんなイントネーションで)「かんたこ」?…「すんたこ」?…「すこ」?…「すかんたこ」?…
幾松 違う、違う、そうやなくて、「すかんたこ」(←星姫に引きづられて変なイントネーションになっている)…あれ? 「かんた」?…「すんたこ」?…(と、同様にいろんなイントネーションで正解を探そうとする)…ああ、なんやこっちまで、どれがホンマかわからんようになってしもたわあ!
星姫 もう…、「すかんたこ」(←正しく)。
幾松 あ、それや。

  凛姫を捜したい気持ちがあまりに強く、星姫の行動は、なんだかこんがらかってきている。
その凛姫は…

SE 大太鼓ドン

  壬生にいた。
当時、壬生は京都の西のはずれ。ここから先は田んぼが広がっているような場所。

凛姫 …う、う~ん…。ここは?
芹沢 気がついたか。
凛姫 あ、あなたは?
芹沢 水戸脱藩浪士・芹沢鴨! …といっても誰も知らんだろうがな。

  芹沢、近藤、土方、沖田など、このころ壬生浪士は、まだ二十人ほどだった。

芹沢 さっきから手酌で飲んでおったが…(杯で酒を飲んで)…、どうも味気ない。女、酌をしろ。
凛姫 …………。
芹沢 そこに徳利がある。ほれ…。
凛姫 ……お断りします。
芹沢 なにィ!

SE 徳利、杯、小皿などひっくり返し、派手に割れる

凛姫 きゃ!
芹沢 ふ……、ふはははは! 気に入った。俺はそういう気の強い女が好きだ。ま、夜は長い。じっくり構えるとするか。ふふふ…。 

  酒乱で、乱暴、女好き…。凛姫も、とんでもない奴に気に入られてしまった…。

M  ブリッジ

  その頃、日和見忠典と弓姫も…

SE 木戸をドンドン叩く

弓姫  すみません、開けてください!
日和見 あやしい者ではござらん。
弓姫  お願いします。ちょっとお伺いしたいことがあるんです!

SE 引き戸がガラリと開く

弓姫  あのう、夕方、このあたりで何か騒ぎがなかったでしょうか?
日和見 不審な浪士を見たとか、女の悲鳴を聞いたとか?

  二人は、凛姫のかんざしが落ちていた付近の家を、一軒一軒聞いて廻っていた。

弓姫  心当たりはありませんか? 
日和見 せめてどっちの方向に行ったかだけでも教えて…

SE 話の途中で、戸がぴしっと閉まる

日和見 …あ……、(ため息)…また駄目か。
弓姫  みんな、知らないみたいね。
日和見 知っていても、かかわりあいになりたくないのかもしれん。
弓姫  そうかもね。
日和見 だが、諦めるわけにはいかん。弓姫、次の家で聞いてみよう!

   普通、殿様自らがこんなことはしないのだが、そこは娘を思う父親として、いても立ってもいられない。

SE  風~BG

弓姫  父上、風が出てきたわ。寒い。
日和見 凛姫も、寒いだろうなあ。
弓姫  凛姫お姉様、かわいそう…。
日和見 絶対に助け出してやるぞ。凛姫、待っていてくれ!

SE  ~UP~FO

   その頃、壬生では…

芹沢(遠くへ)おうい、誰かいないか。酒がきれたぞ。持って来い!

SE  お銚子の二、三本カチャカチャ倒して

凛姫 芹沢さん…と言いましたね。
芹沢 お? 酌をする気になったか?
凛姫 いいえ。
芹沢 ふふふ。その強気がいつまで持つかな。

M   (不安)SI~BG

凛姫 芹沢さんは、この京で何をしているんですか?
芹沢 俺は水戸・天狗党の出だ。勤皇に決まっておる。攘夷に決まっておる。反対する奴は、誰であろうと……斬る!
凛姫 本当に、攘夷ができると思っているんですか?
芹沢 なに?
凛姫 アメリカやイギリスの軍艦を相手に、攘夷ができると?
芹沢 ほう…。そんなことを言う女に、はじめて会ったな。
凛姫 国を思う心に、女も男も関係ありません。
芹沢 へっ。ならば、教えてやろう。俺は、国のことなんか思っていない。京の朝廷が天下を獲ろうと江戸の幕府がもう一度盛り返そうと、実はどっちだって構わんのだ。要は、ここで手柄をたてれば、旗本や大名に取り立てられるかもしれん、ということだ。

  この頃、勤皇だ佐幕だと騒ぐ浪士たちのほとんどは、似たようなもの。なにしろ、はるか昔のあの「関が原の戦い」で、大名・旗本・御家人の身分が決まり、以来二百六十年ずーーっとそのまま。そりゃ、下っ端はクサるってもんだ。
だが今は、およそ十世代に渡って固定されてきた格差社会が、ついにひっく り返る…かもしれない千載一遇のチャンスなのだから。

芹沢 女、見たところお前の身分は高いようだが…
凛姫 い、いえ。そんなことは…
芹沢 その着物、顔立ち、言葉遣い…隠せるもんか。お前みたいな苦労知らずには、俺たちのこの気持ちは、わからんだろうな。
(遠くに)おおい、酒はまだかっ!

M   ~UP~FO

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