幕末三姉妹6

ラジオドラマ脚本・第六話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
ドラマのラストで毎回、懐かしの宇宙戦艦ヤマトよろしく、
「幕府崩壊まであと*年」と煽っています。
ひとつの時代が終わるまで「あと数年」でも、そのとき生きている人にはわからない。だって今が幕「末」だなんて、誰も思っていないのですから。
現代の私たちもそうかもしれない……と思いながら。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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第六話「あやうし、日和見藩!」(1859~60年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
立花慎之介

井伊直弼
勝海舟

中居屋重兵衛

N(ナレーション)
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TM CI~BG

  「タイトル・クレジット」

  「安政」……とは名ばかりの、騒然とした世の中で、いま、一人の人間の手による嵐が、吹き荒れていた。

SE 暴風~BG

(※リピート・エコー)
井伊 「水戸・徳川斉昭、謹慎!」
   「一橋慶喜、隠居謹慎!」

  派閥抗争に勝った大老・井伊直弼による、徹底的な粛清人事だ。直弼は、にっくき水戸藩の人物を次々と処分。さらに、

(※リピート・エコー)
井伊 「小浜藩士・梅田雲浜、幕政批判のため、逮捕!」
   「越前藩士・橋本左内、将軍継承問題に介入したため、死罪!」
   「長州藩士・吉田松陰、公儀に対する不敬のため、死罪!」

  各藩にいる進歩派の人物、有能な志士も、片っ端から捕らえられた。世にいう「安政の大獄」だ。ここで処分された人々は、他にも…
福井藩主・松平春嶽
宇和島藩主・伊達宗城
土佐藩主・山内容堂
勘定奉行・川路聖謨(かわじ・としあきら)
作事奉行・岩瀬忠震(いわせ・ただなり)
儒学者・頼三樹三郎(らい・みきさぶろう)
…などなど。みんな、幕末時代劇ではおなじみのスタープレイヤーばかり。

他にも、月照(げっしょう)という勤皇の僧侶も追われ、その逃亡を助けたのが薩摩の西郷隆盛。西郷ドン、ついには「逃げ切れない」とみて、月照と共に自殺をはかった。一命はとりとめたものの、ひょっとしたら西郷隆盛は、このとき歴史の中に消えていたかもしれないのだ。
隠居、謹慎、左遷、死刑。追放、遠島、手鎖…と、犠牲者の数は八十人!

SE 暴風~UP

(※リピート・エコー)
井伊  わしのやり方に反対する奴は、片っ端から片付けてやる。あと一橋派に味方していた藩はどこだ? …ん? なんだ、この意見書は。「防災意見書」…日和見藩・立花慎之介? これは、幕政批判か?

   おっと、こりゃ大変なことになりそうですよ……

SE  大太鼓ドン

   嵐は、高輪台の日和見藩藩邸にも及んでいた。

じい  たいへん、たいへん、たいへんたいへんたいへん…殿、へんたいでございます!
日和見 それを言うなら「大変」じゃろ。
じい  そうでございます。
日和見 どうした?
じい  一橋慶喜派だった者は、ことごとく処分を受けております。
日和見 ふ~む、それはまずいな。
星姫  父上、わが藩もたしか一橋派では?
凛姫  私が篤姫様から聞いた情報で、そうなりました。
弓姫  うち、大丈夫なの?(不安)
日和見 大丈夫だとは思うが、一応、対策は講じておかなくては。

M    コミカル~BG

じい  殿、こういうのはどうでしょう? わが藩が支持していたのは…、慶喜、よしのぶ、よしのぶ…
日和見(途中から一緒に)…よしのぶ、よしのぶ、よしの*、よし**…
二人  …よしと*、よしとみ、よしとみ!
じい  実は、慶福様だった!
二人  バンザーイ! バンザーイ!
じい  …という風にごまかす。
日和見 うむ。それじゃ!
星姫  ダメでしょ、そんなの。
じい  では、こういうのはどうです? わが日和見藩は、実はみんな大の水戸嫌いだということを示す。
日和見 どう示すんじゃ?
じい  全員、納豆を食べない!
日和見 なるほど。水戸といえば納豆。よし! 「納豆禁止」のお触れを出せっ!
凛姫  やだ。私、納豆好きだもん。
日和見 う~む、そうか。
じい  殿、逆に、みんな大の彦根好きだと示すのは?
日和見 どう示すんじゃ?
じい  全員、鮒鮨を食べる!
日和見 なるほど。彦根といえば琵琶湖。琵琶湖といえば鮒鮨。よし! 「毎日鮒鮨」のお触れを出せっ!
弓姫  わたし、あれ苦手。
日和見 ああ、実はわしも苦手じゃ。やめよう。
じい  では、どうしましょう?
日和見 どうするかのう…。

M   ~FO

SE  寂しく吹く風~BG

   この年十月、江戸・伝馬町の獄で吉田松陰が処刑された。その遺体を小塚原・回向院に埋葬したのは、当時江戸にいた長州の桂小五郎、伊藤俊輔のちの博文たち。彼らは師の変わり果てた姿に、涙した。
数日前に江戸で松陰と会い、この時は萩に戻っていた高杉晋作は、
「松陰先生の仇をうつ」と決意した。
井伊直弼は、この弾圧によって「幕府政権の強さを見せつけた」…つもりだったのだろうが、実は、
「倒幕への導火線に火をつけてしまった」ことに、気がつかなかった。

M   (不安)CF~BG

弓姫(ささやく)ねえねえ、星姫お姉様。
星姫 どうしたの、弓姫。
弓姫(ささやく)しーっ! 静かに。
凛姫(同) なになに? なにがあったの?
弓姫(同) 凛姫お姉さまも聞いて。座敷で、父上とじいが、何か真剣に話してるの。
星姫(同) なんだろう? 聞きにいってみましょ。
凛姫(同) 駄目よ。盗み聞きなんて。
星姫(同) あら、じゃ凛はここに残れば。私たちは聞きに行くもん。ね?
弓姫(同) さ、行きましょ!
凛姫   ……あ、待って私も。
星姫・弓姫(ささやく)しーっ!
凛姫(同) 私も一緒に連れてって。

    いったいどんな話を…

三姉妹(ささやく)しーっ!
弓姫(同)ナレーションも静かに!

(ささやく)あ、すみません。…いったいどんな話をしているのか、三姉妹と一緒にこっそり聞いてみましょう。

じい   吉田松陰への処罰は、最初は「流罪」だったのです。
日和見  島流しじゃな。
じい   ところが、井伊大老自らが筆をとって、「死罪」に書き換えたと。
日和見  う~ん。幕府に意見するものは何者も許さないというわけか。
じい   そこで問題になってくるのが、「防災意見書」です。
日和見  わが藩の立花慎之介が出したものだな。
じい   現在の幕府のやり方を批判したものになっております。
日和見  しかし、あれは防災に限っての話だろう。
じい   そんな正論が、あの大老に通用するとお思いですか? わが藩は将軍継承問題では一橋派でした。その藩から「意見書」が出されているのです。取り締まるのに、これほど都合のいい理由はない。
日和見  う~ん、困ったのう。

星姫(ささやく)みんな、聞いた?
凛姫(同) 慎之介が危ないってこと?
弓姫(同) 慎之介、捕まっちゃうの?

  その時。

SE  門をドンドンドンと叩く(急を告げる)

(36)こちらに立花慎之介はいるか!
三姉妹 来た?!

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