幕末三姉妹8
ラジオドラマ脚本・第八話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
今回は、勝海舟に加えて、ついにあの男が登場!
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第八話「生麦、生米、生脱藩」(1861~62年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
勝海舟
お奈津
キャスター(男)
アシスタント(女)
坂本龍馬
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル・クレジット」
(リピート)
じい た、た、たいへんでございますう、殿!
日和見 どうした、じい、朝から騒がしいぞ。
星姫 朝起きたら、凛姫がいないの!
弓姫 そして、こんな置手紙が!
日和見 な、な、なにィ?
SE 紙(和紙)を開く
凛姫(エコー)凛姫です。私、脱藩します。
全員 えーーー!?
N 「脱藩」は、別名「亡命」「逐電」とも呼ばれるほど、本来は重~い罪。本人はもちろん、その家族も処罰される。
しかし、大名のお姫様の場合はどうなるんでしょうね? 処罰する方もされる方も同じという、ややこしいことになってしまう。
じい あわわわ…、凛姫様、どこへ行ってしまわれたんでしょうかぁ!
日和見 凛姫…、凛姫…。(←うわごとのように)
じい 殿、お気をたしかに。
日和見 り、凛姫!(←「わ、わかった」)
じい まだ、そう遠くへは行ってないでしょう。
日和見 凛姫、凛姫(←「そうか、そうか」)
じい 殿はご心配のあまり、凛姫様のお名前しか出てこないんでございますな。
弓姫 父上、心配しないで。凛姫お姉さまは薙刀が得意だから、きっと大丈夫よ。
星姫 でも、そういうのが危ないのよ。少し腕に自信があると、かえって危険な目にあう。
日和見 凛姫っ!(←「大丈夫かっ!」)
じい あの「桜田門外の変」以来、江戸の町には浪士がうろついてて、人斬りも多いですからな。
日和見 り、り、凛姫~~~!(←倒れる)
じい ああ、殿、しっかりしてください!
星姫 父上!
弓姫 大丈夫!?
N 心配のあまり倒れてしまった日和見忠典を寝かしつけ、三人は…
星姫 とにかく、いそいで凛姫を捜しましょう!
弓姫 捜しましょう!
じい しかし、捜すといっても、いったいどこを?
星姫 え~と……、あ、そうだ。お奈津よ!
弓姫 そう、お奈津ね。
じい お奈津? 腰元の?
星姫 ええ。
じい お奈津が凛姫様の行方を知ってるんですか?
星姫 たぶん。
じい では、すぐにお奈津を問い詰めて…
弓姫 あ、ちょっと待って、じい。
じい なんです、弓姫様。
弓姫 その前に、約束して欲しいの。
じい 約束?
弓姫 絶対に、お奈津を怒らないって。
じい …は?
弓姫 約束して。お願いっ!
じい ま、まあ、いいでしょう。
M CI~BG
N と、腰元・お奈津の部屋へやってきた。
お奈津 あらまあ、星姫様、弓姫様お揃いで。
星姫 ねえ、お奈津。凛姫が来なかった?
お奈津 ええ。今朝がた早くに。
弓姫 やっぱり!
お奈津 いつものように、私の着物を貸してくれと。きっとまた、お一人でお出かけになるんだろうなと…
じい(OFF)なにいィ!?
お奈津 え? あ、ご家老・頼母(たのも)様!?
じい(→ON)お奈津、いまなんと申した!? いつものように着物を貸すぅ? 一人で出かけるぅ?
お奈津 あ、あ、あ……。(詰め寄られて、たじたじ)
星姫 待って、じい!
弓姫 約束、約束!
じい へ?
弓姫 絶対にお奈津を怒らないって。
星姫 約束したでしょ?
じい ……し、しました。たしかに。
N これまで凛姫は、ちょくちょく一人で江戸の町に出ていた。それはいつも、この腰元・お奈津の着物を借りて町娘に変装していたのだが、そんなこと初耳のじいが驚くのは当然で…
じい それで、凛姫様は、どこへ行くか言ってなかったのか?
お奈津 はい。
じい お奈津、どうして聞いておかん! お前という女は…!
お奈津 ひいい~!
弓姫 じい、約束でしょ!
じい …あ、どうもいかん。
星姫 お奈津、凛は脱藩したのよ。
お奈津 脱藩!?
星姫 あの子のことだから、たぶんカッとなって飛び出したんだと思うけど…
じい 大ごとになる前に、連れ戻したいのじゃ。
弓姫 どこへ行ったか、心当たりはない?
お奈津 ……いえ、ありません。
じい ガックリ。
星姫 駄目かあ。
弓姫 残念。
じい ああ、凛姫様、今ごろはどこでどうしていらっしゃるやら…
星姫 一人で心細いでしょうねえ…
弓姫 かわいそうに…
じい ああ、どうすれば…
(三人でメソメソおろおろ、「困ったわね」「どうしよう」「どうすれば」…など)
お奈津 しっかりしなっ! あんたたちがオロオロしてどうすんだいっ!
(M ~CO)
じい・星姫・弓姫 「ひっ!」「わっ!」「えっ!」
お奈津 一刻も早く、凛姫様を捜し出すんだよっ!
弓姫 お奈津、怖っ…。
お奈津 …あ、ゴ、ゴメンなさい。つい、昔のくせで。
星姫 昔のクセ?
お奈津 私が浅草生まれというのはご存知ですよね?
N 大名屋敷に行儀見習いに来る奥女中・腰元というのは、町人の娘。給金は安いが、大名家で躾けられたという経歴は、その後、嫁入りするときに箔がつく。だから、みんな、こぞってやってくるのだ。お奈津も、そんな一人。
お奈津 ウチの近所に、私と大の仲良しの、お芳ちゃんという子がいたんです。その子のお父っつぁんが火消しの頭(かしら)で、私もまるで姉妹のように一緒に育てられました。それでこんな伝法な口調が身について…。すみません。
星姫 ああ、そうだったのね。
弓姫 お奈津、カッコいい!
お奈津 で、その頭に頼んで、凛姫様を捜してもらってはどうでしょう?
じい なぜじゃ?
お奈津 あまり大げさに捜しては、姫君脱藩の噂が広がってしまいます。
じい うむ、それはまずい。
お奈津 その点、頭は私の父親同然ですから、こっそり捜してくれるかと。
N 江戸の火消しは、粋でいなせで、庶民にはモテモテ。その頭ともなれば裏社会にも通じているから、八百八町のすみずみに人脈と情報網を持っている。
じい なるほど。で、その頭というのは?
お奈津 新門(しんもん)の辰五郎(たつごろう)といいます。
N 当時、新門辰五郎は浅草で十の組をたばねる火消しの頭であり、侠客の元締め。すでに齢六十を越し、江戸っ子の尊敬を集める存在だった。その辰五郎に急いで使者を出し、事情を伝え、凛姫の人相と、貸した着物の柄を教える。
するとえらいもんで、夕方には、凛姫らしき人物の情報が届いた。
SE 虫の音(秋じゃないけど)~BG
じい ここら、ですかな?
お奈津 本氷川坂下(もとひかわざかした)っていうと、このへんだけど。
N 赤坂の、氷川神社の裏手にあたるその場所に、じいとお奈津がこっそりやってきた。二人が覗く、その屋敷にいるのは…
勝 オイラは江戸っ子だから気が早えぇクチだが、あんたもそうだな。
N あれ、勝海舟さんじゃないですか?
勝 脱藩もいいが…いや、よかぁねえが、それがなんでオイラのところへ?
凛姫 私、勢い込んで出てきたものの、よく考えると行く場所がないことに気がついて…。
勝 ハハハ。そいつぁいいや。
凛姫 しばらく江戸の町をあちこち歩いて、どうすればいいいか考え、とりあえず大先生である勝さんの所に行ってみようと。
N こりゃ「脱藩」というより、ちょっとした「家出」。いわば「プチ脱藩」ですね。
M CI~BG
凛姫 ご迷惑をおかけして、すみません。
勝 まあ、迷惑じゃねえといえば嘘になるが、しかし、無事ウチに来てくれてよかった。なにしろ今、江戸の町はいろいろ物騒だからな。
凛姫 そうなんですか?
勝 いろんな国から脱藩してきた浪士どもが、「攘夷」を叫んでダンビラを振り回してる。凛姫も知ってるだろ? 去年の暮れ、麻布善福寺でアメリカ公使の通訳ヒュースケンが襲われたのを。
凛姫 ええ。なんでも襲ったのは、薩摩の脱藩浪士とか。
勝 あの事件だけじゃねえ、「攘夷だ」「天誅だ」と叫んで、夷人斬りを企てる連中があとをたたねえんだ。ったく、単純なやつらだ。
あいつら、そんなことをやればやるほど日本の立場が悪くなるってことに気がつかねえんだからな。
凛姫 私も、夷人斬りはよくないと思います。だけど、攘夷もいけないことなんですか?
勝 そこだよな。この国を、異人の好き勝手にさせるわけにはいかねえ。その気持ちはオイラも一緒だ。
凛姫 よかった。
勝 だが、そのために外国人を一人一人斬ってみても、きりがねえぜ。
凛姫 そうですね。
勝 まず開国をして、外国の技術や兵力を取り入れ、それから日本が一丸となって外国に文句を言う。どうしても「攘夷」をやるなら、それからだって遅くはねえ。…というか、それしか方法がねえんだよ。わかるかい?
凛姫 はあ…。わかったような、わかんないような…。
勝 ……ところで、凛姫はオイラのことを大先生って呼ぶよな。
凛姫 はい。
勝 てことは、オイラの弟子だ。
凛姫 はい。
勝 弟子なら、師匠の言うことに従うべきだ。
凛姫 もちろんです。
勝 じゃあ、いまオイラが言ったことが理解できるようになるまで、脱藩はなしだ。大先生であるオイラが禁止する。いいな?
凛姫 え…あ、はい。
勝 早く、日和見藩のお屋敷に帰んな。
凛姫 で、でも、私、手紙を残して出てきちゃったから…
勝 大丈夫だよ。ほら、庭の植え込みのかげに、迎えが来てる。
凛姫 え?
(M ~CO)
じい(OFF→ON)凛姫さまぁ!
お奈津(同)凛姫様、よくご無事で!
凛姫 じい!? お奈津!? ど、どうしてここが?
じい そりゃ、もう、新門の辰五郎さんのおかげで。すぐにわかりました。
勝 ほう。噂に聞く、新門辰五郎かい。
お奈津 ええ。私の父親同然なんです。
勝 あ、そうかい。…なあ、じゃ今度、オイラに紹介してくれねえか。
お奈津 え、ええ。いいですけど。
N のち、勝海舟が新門辰五郎にある頼みごとをするキッカケはここにあった。
凛姫 私、脱藩はやめます。
勝 ああ、それがいい。
凛姫 でも、これから時々、大先生のところに教えを受けに来てもいいですか?
勝 いつでもいいぜ。
N こうして、凛姫はじめ三姉妹は、勝海舟の家に出入りするようになる。そしてやがて、この屋敷である人物と出会うことになるのだが…、その前に。
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