幕末三姉妹12
ラジオドラマ脚本・第十二話。
(脚本が苦手な方はスルーしてください!)
幕末の流れを面白くわかりやすく、を目指したドラマです。
ペリー来航から十年。今回は星姫のサービスシーンもあります。
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痛快、愉快! 奇想天外時代劇!
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幕末三姉妹
第十二話「薩長、両てんびん」(1863年)
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【登場人物】
(日和見藩)
星姫
凛姫
弓姫
日和見忠典(ひよりみ・ただのり)
じい(左右田頼母)(そうだ・たのも)
立花慎之介
アナウンサー
N(ナレーション)
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TM CI~BG
N 「タイトル・クレジット」
N 「祝・十周年!」
SE 打ち上げ花火がパンパンはじける
SE 大拍手
N ペリー来航からちょうど十年。文久三年のこの年には、いろんなことがおきている。
将軍・家茂が京都に入り、
将軍後見職の一橋慶喜も京都に入り、
三姉妹も京都に入る。
幕府のハケン集団「浪士隊」が京都にやってきて、
その片割れの「壬生浪士」に凛姫が誘拐され、
それを救うため立花慎之介が現われ……
……ということがワチャワチャとありながらも、季節は、まだ五月。
「ペリー来航・十周年記念イヤー」のイベントは、さらに続く。
SE 大太鼓ドン
N 日和見藩の京都藩邸には、家老・左右田頼母(そうだたのも)が来ていた。
じい 殿。江戸でやきもき待ってるのは我慢できず、やってきてしまいました。
日和見 くるしゅうないぞ、じい。
N あ。じいって、そんな大層な名前だったんですね。
日和見 ときに、じい。あー、今日は何日だったかな?
じい えー、五月十日でございます。
日和見 ほう。五月十日か。
じい はい。五月の十日ですな。
日和見 それは、つまり…五月であって、しかも十日だと?
じい 十日であって、しかも五月だとも言えます。
日和見 ということは、五月十日、かもしれんな。
じい つまり、考えようによっては、五月十日で…
弓姫 もう、二人ともさっきからなに言ってるの!
じい あわわ、弓姫様。
弓姫 おんなじこと繰り返してるだけじゃない。
日和見 いや、そうなんじゃがな。
じい この日付けが、大事なんでございます。
M CI~BG
N 京都に呼びつけられた将軍・家茂と一橋慶喜は、朝廷側に、
「攘夷の約束はどうなった? いつや? いつ決行するんや?」
と、せっつかれていた。頭にきた一橋慶喜はついに、
「では、五月十日に」
と約束。
しかし…その日は、四月十九日。期日まで、たった二十日しかないのだ。
日和見 攘夷を行えば、そのまま諸外国と戦争状態に入る。
弓姫 大変じゃない!
じい 大変なのです。
日和見 朝廷から、全国に、そのお触れが出た。
じい 軍事責任者の慶喜様は江戸に下ったのですが…
N 船ではなく、東海道をゆっくり、ゆっくりと下り、江戸に着いたのは五月八日の夜。明けて、九日。のんびりと江戸城に登城して、
「明日から攘夷だからね。よろしく」
と言って、さっさと家に帰ってしまった。これでは、大名たちも攘夷を行えるはずがない。
ま、慶喜の本音は、
「どうせできっこない約束だ。日付けなんていつだっていい」
ということだったのだ。
(M ~FO)
SE(OFF) 犬の遠吠え
日和見 その五月十日も、もう暮れようとしている。
じい はい、暮れますなあ。
弓姫 いいの? 攘夷の約束守らなくて?
日和見 見くびるでない! わが藩は日和見藩だぞ。他が動けばうちも動く、他がじーっとしてれば、うちもじーっとしてるのだ。
N これぞ、日和見藩の、日和見たるゆえん。
じい で、こうして、じーっとしているのでございます。
二人 じ~~~~~~~~~。
N たしかに全国のどの藩も、「五月十日、攘夷決行」という約束を守らなかった。たった一つを除いては…
日和見 ところで、凛姫はどこへいった?
弓姫 物見台に上っています。
じい 物見台?
弓姫 慎之介と一緒に。
M コーダ
SE 風~BG
凛姫 きれいな星空。
立花 ほんとですね。
N 季節は…、現在の暦でいうと六月の終わり。二人の頭上には、満天の夏の夜空が広がっていた。凛姫救出で脱藩を許された立花慎之介は、ふたたび、姫君たちの教育係となっていたのだ。
慎之介は、小さな機械を取り出す。
立花 これは、六分儀といいます。
凛姫 六分儀?
立花 西洋の航海術で使います。これさえあれば、大海原の中でも、自分の船がどこにいるのかが、たちどころにわかります。
凛姫 へえ。西洋の文明って凄いんですね。
N これ、いわば現在のGPS。
凛姫 あ、流れ星!
立花 え? どこに?
凛姫 ほら、あっち。西の方。
立花 西? どこに?
凛姫 気のせいかしら? 西の方で、なにか光ったように見えたんだけど…。
N いくらなんでも見えるはずはないのだが、たしかにこの日、京都のは~るか西。本州と九州をへだてる下関の関門海峡で、ハデなドンパチがあった。
SE 大砲ドン、ドン!~BG
N 「攘夷決行」を、日本でただ一つだけ実行に移しちゃったのが、長州藩。この日、関門海峡を通るアメリカ船「ペムブローク号」を攻撃したのだ。
続いて、二十三日にはフランスの船「キンシャン号」を、二十六日には、オランダの船「メデューサ号」を、攻撃。狭い関門海峡の海は、揺れに揺れた!
SE (CFして)お風呂の水がちゃぷちゃぷ揺れる~BG
(以下、星姫はずっとお風呂エコー)
星姫 あ~、いい気持ち…。
N と揺れているこれは、関門海峡ではなく、お風呂のお湯。このとき星姫は、藩邸のお風呂に入っていた。
星姫 京都は水が名物っていうけど、そういえば、なんか柔らかい気がするわね。う~ん、お肌も、すべすべになるような…
(お湯の音チャポチャポをBGに)
N 長州藩は尊皇攘夷の急先鋒。ずっと京都の公家たちを焚きつけてきたから、他がやらなくても、単独攘夷という無茶な行動に出たのだ。
しかし、その一方で、実はコッソリ、井上馨・伊藤博文たち、五人の秘密留学 生をイギリスに送るという離れ業もやってのけているのだが…
星姫 あ、ちょっと待って。
N え?
星姫 その長州藩の説明と、いま私がお風呂に入ってることって、何か関係があるの?
N いえ。別に。
星姫 じゃ、なんで?
N まぁその…、由美かおるさんというか、ドラえもんの「しずかちゃん」というか。
星姫 は? なんのこと?
N お風呂シーンは、聞いてる方へのサービスでして。
星姫 いやらしい~。見ないで! ダメっ、あっち行って!
SE お湯、ばしゃばしゃとかける。
N あちちっ!
…ま、少しは楽しんだところで、こちらは、さきほどの物見台。
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