幸せな時代

今年の新語流行語大賞のノミネート語30の中には、
「アレ(A.R.E)」…阪神タイガース
「憧れるのをやめましょう」…WBC
「ペッパーミル・パフォーマンス/ラーズ・ヌートバー」…WBC
と、野球関連語が3つある。
このイベントは、毎年「野球関連語の多さ」がオヤジっぽいことで有名だ。もう開き直って選んでいるんだと思う。

ちなみに去年(2022年)は、
大賞「村神様」と、「青春って、すごく密なので」「大谷ルール」「きつねダンス」「令和の怪物」「BIGBOSS」で、30語中6つだった。
これに比べれば、今年は半減なのだが。

さらにちなみに、2021年の大賞は「リアル二刀流/ショータイム」だった。今年もし大賞が「アレ(A.R.E)」だったら、三年連続野球関連語になる。

いや、この企画はしょせん一企業による話題作りなんだから、べつに野球関連語が多かろうとかまわない。
が、見渡してみれば、私たちの日常には野球がらみの言葉が多い。

「続投」
これは政治・経済でよく使われる。「党首は続投」とか「社長が続投」とか。あの人たちは別に「投げ」てはいない。留任とか再任とか、そういう言葉でいいのだが、なぜか野球のピッチャーにたとえて表現される。
もっとも、「途中で投げ出す」「放り投げる」タイプの人もいるから、「投」という言葉に多少の縁はある(意味は逆だが)。
あ。いま漢字変換で気がついたのだが、「党首は続投」というのは「投手は続投」の駄洒落だったのか?

「登板/降板」
これも政治・経済で使われるが、「主役を降板する」などエンタメ関連でもよく使われる。この「板」はピッチャーズプレートのことだと思うが、舞台の「板」にかかっているのかもしれない。

「四番」
シンプルだが、意外にこれも野球に興味がない人にはピンと来ない。「彼はウチの四番だから」と紹介された場合、「四番目の人より、一番目の人の方がいい」と思う方が自然ではないか?
似たようなものに「三割打者」もある。もちろん褒めた表現なのだが、「たった三割?」と思われてもしかたがない。
野球を抜きにしてみると、「四番で三割の人」は「そこそこの人」という感じになる。数字だけでみれば「一番で八割の人」の方がいいよなあ。

「外野は黙ってろ」
これは「部外者は口をはさむな」という意味で使われる。が、よく考えると、野球の外野というのは部外者ではない。チームメイトだ。
これは内野偏重主義ではないか? いいのか野球界?

「トップバッター」
一般社会では「一番手」という意味で使う。たいていの場合「打った」りはしないが、まあ、そこはいい。問題は、野球以外でのスポーツの場合だ。
たとえばサッカーのPK戦の時、つい「トップバッター」と言ってしまったりする。サッカーにバッターはいない。あれは蹴るスポーツなのだ。「トップキッカー」だよなあ。
サッカーやバスケなど大衆人気の歴史が浅いスポーツは、手持ちの言葉が少ない。アナウンサーですら「さあ、この大一番のトップバッターは…」など、相撲用語と野球用語で別のスポーツを表現してしまう。

……とまあ、あげつらっていけば、こういうのはいくらでも出てくる。
だが、このエッセーの主眼はそこではない。なぜこんなに、日常生活の中に野球用語が入り込んでいるのか?……ということを、先日、とある番組で後輩の放送作家と話したのだ。

ことわっておくが、私はとくに野球少年だったわけではない。むしろ、プロ野球にあまり関心がなかった。けれど、キャッチボールや草野球の経験はあるし、ルールもわかる。それが当時の普通の子供だった。
なにせ、セ・パ12球団の名前を憶えたのは高校生の時だ。しかも「どうやらまわりはみんな普通に知っているぞ。これは憶えなくては」と意識して記憶したぐらいだ。おそらく日本人の男の中では少数派。
(一方、後輩作家は大の野球好き)
こんな私でも、日常生活の中で普通に野球用語を使い、理解できるのはなぜだろう?…という話を二人でした。

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