随時更新 戯曲 アルデバランの赤猫

一場ずつ書き上げたらここに置いていきます。
不可逆性の儚さについて

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アルデバランの赤猫

               西岡サヤ



オッチ

アイト   

アルデバラン

ハーメルン

テイイチ











テレビに映るは猫の世界。次々にチャンネルが変わる。レトロな雰囲気。



「吾輩は星である。名前はまだ無い。どこで産まれたかとんと見当がつかぬ 」

ネコーネコーネコーネコーネコー にゃぁぁん 

ネコーネコーネコーネコーネコー にゃぁぁん 

僕は汚れたアルデバラン 

「次第に楽になってくる。苦しいのだかありがたいのか見当がつかない。」

どうもです笑 えーと、猫です。あっはい、名前はまだございません。お恥ずかしいながら、産まれた場所さえピンとこないもので笑 えぇ、ピンと来ることと言ったら、何でも、薄暗いジメジメした所で、にゃーにゃーにゃーにゃー泣いていたことくらいでございます。

今宵の夢は現実に

「水の中にいるのだか」

 主の大いなる恐るべき日が来る前に、日は暗く、月は血に変る。

「座敷の上にいるのだか」

月をたいらげ赤く染めるはアンゴルモアの恐怖の大王。

「どこにどうしていても差し支えはない」

 赤い住人は最期の時をただただ待つ。

「ただ楽である」

冬に輝くダイヤモンドは季節と共にきれいに消えた。

「否、楽そのものすらも感じえない」

粉々の涙が最後に残したのは赤。ただひたすらの赤。真っ赤。

「日月を切り落とし、天地を粉砕して不可思議の太平に入る」

その真っ赤な瞳が写すは豪炎かはたまた文明のアカネコか。

「吾輩は死ぬ」

にゃあ~お

「死んでこの太平を得る」

テトラッド。猫は気まぐれ。

「太平は死ななければ得られぬ」

月は全面、血のように。

「南無阿弥陀仏 南無阿弥陀仏」

マヤ ファティマ 旧約聖書 死海文書にテトラッド

「ありがたい ありがたい」

ノストラダムスの大予言

「ありがたい ありがたい」

(赤子の鳴き声)

 「今日はスーパーブラッドムーンです 」

猫 にゃァァん。 



2015 9 28  21:33



猫の声に呼応して起きるオッチ。部屋。夢うつつな様子で時計を見る。

オッチ にゃァァん。 …あら? …あら。 うわやっべ!



慌てて月を確認し望遠鏡を取り出す。ノートとペンも取り出ししばらくして観察を始める。ぶつぶつ呟きながら月の観察をする。

アイト登場。塾帰りの帰路を行く。どこからか猫が寄ってくる。赤い毛並みをした珍しい猫。気持ち悪いくらいに猫にデレデレじゃれつくが、猫はデレるどころか微動だにせずじっとアイトの瞳を見つめる。 何とかなつかせようと格闘するが微動だにしない。



アイト あは。なんだよう何しに来たんだよ~

アル  にゃあーお(アイトの手の元を離れ道の奥へ進む)

アイト あり。なに、もうバイバイ? …ふふ、かわいいなニャンコ。種類なんて言うんだろ



猫は振り返り月を見上げ、そしてもう一度アイトに向かって鳴いた。



アル  にゃあーお

アイト …こっち来い?



猫は度々アイトが付いてきてるか振り返り確認しながらどこかへと向かう。

途中アイトのスマホが鳴る。オッチからの電話だ。

アイトは猫をつけながらこの電話に応答する。



アイト よっす~オッチ~おちんちん~

オッチ おいおいおいおいおいおいおいおい見てるか月!月!月!でゅかい!でっかい!でっかあかい!

アイト おうおうおう見てる

オッチ ほんと?ほんとか?

アイト うんうんうんほんとめっちゃ赤いしでっかい

オッチ アイト今どこにいんの?家?家かお前の家から月見えたっけ。お前んち窓あったっけ

アイト 外だよ

オッチ 窓はあるか

アイト 外で猫と遊んでる

オッチ 猫?はぇ?

アイト あっ違う塾終わって!家帰ってるとこだよだからめっちゃ月見える超綺麗。

オッチ  はーお疲れさん。だべ?晴れてよかったよ

アイト  ねー。あっ ☆ねえ

オッチ ☆ねえ知ってるか。今日さ、このブラッドムーンさ、四回目なんだよ。四回目。

アイト うん。

オッチ 連続で皆既月食が四回目。普通月食っつったら部分月食ばっかだけど一切それ含まず去年のえっと4月から4回連続!

アイト すごいの?

オッチ すんごい。ほんとにめっちゃ凄い、このスーパーブラッドムーン自体が33年ぶりなんだよ。次が確か18年後。このテトラッドもな、この四回続いてるのをテトラッドっていうんやけど、47年ぶりなんだよ。前が1968年だから。

アイト あれ(見失う)

オッチ どした

アイト いや!だいじょぶ続けて

オッチ 分かったそれで、このテトラッド、前がたまたま間隔狭かっただけでここ2000年間でたった8回しか起きてないのよ! で! でな、最近起きた過去3回のテトラッド、最近っつっても何十年前何百年前だけど、面白いぜユダヤ関係の大事件が毎回起きてんのよ。498年はスペインによるユダヤ人追放だろ?949年はあれだよイスラエルができたろ。んで、前回68年は中東戦争でエルサレムを巡って戦った6日間戦争…さあさあさあさあ…

アイト 何かおきんの?

オッチ んーいや、どーだろ。起きるかもしれないし起きないかもしれない。つうか起きなかった…ユダヤとか飛び越えてもっとやべえこと起きるかもしれん。

アイト んえ?どゆこと?

オッチ 今回のはまた今までのテトラッドとまた違うのよ。期間中に2回も日食が起きてしかも今日はただの皆既月食じゃなくてスーパーブラッドムーン。アイト旧約聖書ってわかるか?

アイト え?おん。

オッチ じゃあそん中のヨエル書にな

アイト なにそれ

オッチ ヨエル書ってのがあんだよその中に、「主の大いなる恐るべき日が来る前に、日は暗く、月は血に変わる」ってのが出てくる。最後の審判はブラッドムーンの日にやってくるってこっちゃ。 …さっき何も起きなかったって言ったろ? 予言通りなら何か起きるはずだった例えばボロボロの神殿が立て直されて完全復活とか、戦争とか、イスラエルで何も起きなかった。なあアイト俺はどうにもさ、何かおきる気がしてしょうがない。

アイト なんか起きるの?

オッチ うんだからさぁ、例えばさぁ凄いぞわぞわするんだけど。もしほんとに最後の審判がくるとしたらさあ

アル  にゃあーお(唐突に後ろに現れる)

アイト うわあああお!!

オッチ 今日で地球が終わるかもしれん



赤い月の光が放物線を描くように光度を増しついには世界が真っ赤に包まれた。

ほんの数秒間の奇怪な現象を、アイトは驚きざまの眩暈か何かだとしか

認識せず、何の気なしに生活を続けるのだ。



オッチ は…

アイト ビッックリしたなんだよお前どこ行って

アル  にゃあお(再びどこかへ向かって歩き始める)

アイト ちょっ、おま待てって! 目、シバシバする おい! な~にゃんこ~ どこ行くんだよ~ 

アル  にゃあ~お(アイトと目を合わせると月を見上げる)

アイト え?(月を見上げると目の焦点が合わず2つに、目の前の赤猫と被る)



アイトがぼーっとしていると猫は見知らぬ小さな小さな神社へ入っていった。

虚ろなまま神社の鳥居をくぐる。小山の頂上にそびえる小さな祠。

祠までの参道に連なる稲荷の鳥居。赤猫が祠の上に乗っかり

じっと、アイトを待ち構えている。荘厳。



アイト 神社…?…やっば。にゃんこ…なあ何なんだよ。どここ…こ。



固唾をのんで階段を上っていく。祠を前に急に緊張感が走る。

どこからかしこ猫の鳴き声が転々と聞こえてくる。ついに赤猫と同じ目線で対峙する。



アル にゃお(祠を開けろと言っているよう)

アイト …これって開けられるの



恐る恐る開けるアイトの目に映ったのは真っ黒な大きな丸石。異常に冷ややかな雰囲気。

そしてその下に挟まった紙切れを見つける。



アイト (せき込む)うわけっむ…これ?

アル  にゃう

アイト ん~駄目だ暗いっていうか煤けて読めないよなんて書いてあるか…



微かに見えた「オッチ」という単語に反射して

無意識にしまっていたスマホを取り出し耳に当てる。



アイト  っっっっっえ あっ…あっ、オッチもしもしゴメン…あ…あー



電話は切れていた。オッチに謝罪の連絡を取ろうとするが、

オッチの連絡先がなかなか見つからない。焦る。



アイト なんで…ちょっと待ってえぇ…なんで…(赤猫をふと見つめ、ひと撫で)

    …にゃんこ、これ読めるとこまで行っていいかな。ちょっと暗いや

アル  …

アイト …ばい…ばい?(赤猫の顔をうかがいながら慎重に去ろうとする)

アル  にゃぁああああああああああお

アイト っ!!(恐怖のあまりその場に腰をついてしまう)

    わあかった!わかったから何なんだよもうここで読みます読むから!

もぉぉ…なんでオッチ…(スマホのライトで手紙を照らしその場で読む)

…オッチ…2015年9月28日…記録…気づくと草原にいた…知らない場所…何もない…はぁ? 遠くで音がする…(裏側を見る) どうも。突然の事で困惑している所でしょうが、もしこの文の筆者に心当たりがあれば、こちら連絡先を載せておきますので、ご連絡頂けると幸いです。 …ここだけ違う人?

…ねえ、なにこれ(振り返ると猫がいない)…えっえちょっ、えっ…えニャンコ?!にゃんこー!



電話が鳴る。



アイト母 もしもーしアイトー?ご飯食べないのー遅いよー

アイト  あーはーい今帰ってる!もうちょっとー。ちょっと猫と遊んでちゃった

アイト母 へ~~…じゃあねーばっばーい車気を付けなよー

アイト  はーい…



電話が切れると神社を後にし少し急ぎ目に帰路につく。



アイト はぁぁ なにこれ…



急に恐怖が沸き立ち支配されたアイトは、
ダッシュで自宅へ向かった。


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