餃子の博物館
「今どこにいる?」
「遅くなってごめんねー!もうすぐ着くよ!」
今日は友達のマリアさんとテーマパークに遊びに行く約束の日。最近連絡を取ることが多く、一緒に遊びに行くことも多い。
彼女は27歳独身。ギャルのような清楚なような、よくわからないが明るい、そんな人だ。
今日もいつも通り10分程遅れるらしい。
「ごめん、おまたせー!結構待ったよね?」
「いや、全然待ってないよ。じゃ、行こうか。」
僕も5分程遅刻したのは内緒にしておいた。
「ねーねー!どこから行くー?」
「そういえば入り口のところで子供向けの仮○ライダーショーがやってたよ。小さい頃は見に行ってたなー。」
「じゃあ最初にそれ行こ!!見たい!!」
「うん、いいよ。」
「本当に?」とか「仮○ライダー好きなの?」とか、いろいろと聞きたいことが浮かんできたが、素直に彼女に従うことにした。
まわりには小学生にも上がっていないくらいの子どもたちと、そのお母さんお父さんたちばかりだった。僕も小さい頃はこんな感じだったんだろうなー、としみじみと感じていると
「いけー!がんばれー!」
27歳のマリアさんは誰よりもショーを楽しんでいた。
「いやー!なかなか楽しかったね!」
仮○ライダーショーで満足してくれる27歳女性という貴重な存在を確認できて、僕も楽しかった。
「じゃあ次はアレ行こ!!」
マリアさんが指をさした先には
”餃子の博物館”
と書いてある看板があった。
「あれは何?」
「餃子の博物館じゃんー!」
「それはわかるんだけど…マリアさん知ってるの?」
「知らないけど面白そうじゃん!行こ!」
百聞は一見に如かず。とにかく行ってみることにした。
重々しい雰囲気の餃子の博物館の扉を開くと、僕たちの他にお客さんはいないようだった。中に入ってみると意外と普通の博物館のように見えた。
ただ一つ、違ったのは展示物が全て”餃子”だった。
広い博物館の中に、ポツリポツリと餃子が展示されている。しかもご丁寧に湯気まで立てて、できたてホカホカだった。
「すごいねー!餃子の博物館なんて初めてだよー!」
「僕も初めて。なんかすごいところだね。」
数千万円する絵画のように、何万年も昔の歴史的な土器のように、静寂の中に堂々と鎮座する餃子があった。
「見て!納豆入り餃子だってー!美味しいのかな?」
「どうなんだろ。食べれないことは無いと思うけ…」
僕が言い終わらないうちに彼女の手と口が動いていた。
「んー。美味しいっていう程ではないかな!」
「あー。やっぱり?」
僕は済んでしまったことに対してとやかく言わない主義だ。目の前で、できたての餃子が湯気を立たせて、ご丁寧にお箸まで置いてあったら誰だって食べてしまうに違いない。そう思うことにした。
その後、彼女は”納豆入り餃子””チーズ入り餃子”など博物館内の気に入った餃子を次々と試食していった。意外と美味しかったものも多く、お腹も膨れて満足気な表情をしていた。
「あれで最後だね。」
「アンコ入り餃子?スイーツみたいな感じかな??」
「どうだろ。あれはさすがに美味しくないんじゃないかな?」
「あれで最後だし、食べてみよーっと!」
アンコ入り餃子を口に入れた瞬間、彼女は眉間にしわを寄せて涙目になりながら、どれだけまずいかを訴えてきた。
「近くにゴミ箱もトイレもないし、飲み込むしかないよ。頑張って!」
僕がマリアさんより優位に立てた最初で最後の瞬間だった。
「最後のアンコ入り餃子めっちゃまずかった!あと、サヤマくんもひどかった!助けて欲しかったのに!」
博物館を出てから文句を言われたが気にしない。自業自得だ。
「あれ?もう夕方じゃん!餃子の博物館でゆっくりしすぎたねー!」
切り替えが早いのも彼女の良いところだ。
「意外と時間経ってたんだね。今日は仮○ライダーショーと餃子の博物館しか行けなかったね。」
「でも仮○ライダーショーは楽しかったし、餃子も美味しいのもあったし、楽しかったよ!」
「それは良かった。じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
「うん!」
帰り道、仮○ライダーショーがどれだけ楽しかったか、どの餃子が美味しかったか、最後のアンコ入り餃子がどれだけまずかったか、彼女は楽しそうに話してくれた。
「また、行きたいね!餃子の博物館!」
そう言った彼女の表情は、夕日と重なってよく見えなかったが、きっと笑っていただろう。
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