私に宛てた注意書き
随分、昔に、知人の家に泊めてもらった時だ。お風呂を借りたら、浴室の壁に張り紙がしてあった。「蓋を濡らしたままにしない」とか、そんなようなことだったと思う。その注意書きはどう見ても紙に書かれており、浴槽にも近い水に濡れそうな場所にわざわざ貼るほど、蓋が濡れることで困っているのだろうか、でも家族なんだから口頭で注意すればいいのでは、いやそれでは直らないのかもしれない……などといろいろ考えてしまった。
少し前に、父から注意を受けた。「浴槽の蓋の上が水浸しだとヌルヌルになるから、蓋から水分を落とすように」。おや? 昔に知人の家で見た注意書きと同じことを言われているではないか。そうか、蓋を濡らしたままにすると、ヌルヌルするからいけないのだな……とあの注意書きの理由が何年か越しで解明した。
そして私はまさかの可能性に気付いてしまった。知人宅の注意書きは、私に向けて書かれていたのではないか。家族ではない私には言いづらい。でも蓋がヌルヌルになるのは困る。だから紙に書いて貼ったのだ。
今頃気付いても遅い。知人宅のお風呂を使わせてもらった私が、蓋からちゃんと水分を落としてきたか、そこまでは記憶にない。私のせいで蓋がヌルヌルになっていたらどうしたらいいんだろう。いまさら確認もできない。「あの、私が泊まった時、だいぶ前なんだけど、お風呂借りて、その後、浴槽の蓋、ヌルヌルしてなかった?」「はあ?」である。
今の私にできるのは、せめて家の浴槽の蓋はヌルヌルにしないように、しっかりと水分を落とすことだけだ。
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