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(劇評)自分で、誰かと、やってみる

数寄屋道楽『あたらしき離婚』の劇評です。
2019年5月11日(土)14:00 金沢市民芸術村 ドラマ工房

 ネットで検索すれば、簡単なことならすぐわかる。どこかで見つけた誰かの情報を、いつの間にか自分の情報だと思って使っている。そんな態度の人々が増えてきているように思う。だが、『あたらしき離婚』(演出・井口時次郎、作・西田愛)に登場する江藤路実夫(間宮一輝)と江藤樹里(舟木香織)の夫婦は、そのような行動は取らない。データから算出される結果は重要視するが、元となるデータは自分達の体験によって集めていくのである。彼らがその身をもって集めたデータ、それは「結婚」のメリットとデメリットであった。

 旅館には、路実夫と樹里、それぞれの家族が集っていた。路実夫の父、門田九太郎(長山裕紀)とその5番目の妻、門田都(吉野佳子)と彼らの赤子。樹里の父母、江藤清元(新保正)と妻、江藤きわ(所村佳子)。部屋の世話は、門田の古い友人である富本文(市川幸子)が担当している。路実夫と樹里、二人の結婚から一年。見守ってくれた感謝の気持ちという趣旨での、温泉旅行らしい。だが、二人には、家族達に伝えなければならないことがあった。それは二人が「離婚」することである。もちろん、家族達にはその発表は受け入れられない。路実夫と樹里は説明を始める。
 話は二人の出会いである、婚活パーティにまでさかのぼる。婚活パーティに疑問を感じていた二人は意気投合し、結婚について二人で考えるようになる。物事を数値化して考える路実夫は、結婚についても、メリットとデメリットを集めて比較することで、理解ができると考えていた。次第に集まっていくデータ。だが、それらは全て、結婚をしていない者による推測でしかなかった。実体験を伴うデータではないのだ。では、実際に結婚をしてみればいいのではないだろうか。それが二人の出した答えである。一年という期限付きで。
 一年を経て集まったデータは、メリット2398点、デメリット2736点。デメリットが上回る。ならば結婚という形態を取る必要はない。だから離婚となるわけである。ただ、離婚をするが、二人は別れを選ぶわけではないのである。

 好きな者同士が一緒にいる権利を保障する結婚であるが、その制度には様々なしがらみがある。その大きなものは「家族関係」だ。家の制度に結婚という制度は組み込まれてしまう。それを重荷に思う者があり、結婚を選ばないとしてもおかしな話ではない。しかし、互いが安心して側にいるために、結婚という制度を利用したいカップルも多くいる。結婚したくてもできないというカップルから見れば、この二人の出した結論はどう思えるのだろうか。このように複雑な思いを抱くカップルをなくすために、結婚という制度の見直しを図るべきなのではないか、と考えさせられた。結婚にまつわる重さが少しでも減れば、事実婚をはじめ、パートナーシップ制度など、好きな者同士がお互いに最も良い、共に生きる形を選べるようになるのではないか。
 
 「結婚という制度」はこの物語のテーマの一つであるが、それに並んで重要なテーマは、「自身で体験することの尊さ」並びに「それに付き合ってくれる人がいる喜び」だろう。ちょっと変わった性格の路実夫だが、理解者を得たことでよりいきいきと体験を重ねていくことができる。樹里も自分らしく行動していくことができる。器用ではないかもしれないが、まっすぐである二人を、間宮と舟木が好演していた。何事も、やってみないとわからない。やらないで出した結果より、やって出した結果のほうが、納得がいくものだ。

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