混ざり合う匂いが好きだ
わたしはファミリー向け・世帯数多めのマンションに住んでいる。
郊外の住宅街の、そこかしこにあるようなそれ。
朝7時すぎ。
ゴミ捨てのついでにマンションのまわりを一周歩くことにした。
今日はものすごくあったかくて、まっすぐ戻るのがもったいないような気がして。
ゴミ捨て場を出ると、金木犀に似た匂いがした。
・・・・植物に詳しくないわたしでもわかるぞ。金木犀は秋のはずだ。
「何かはわからないけど金木犀に似てる香りだな〜。」「でも金木犀は秋だもんな〜?」とひとりでぼんやり考えて。普段なら即スマホを取り出すのに、今日はあまりにもポカポカだったから、調べる気にもならずそのまま歩き続ける。
ちょうどマンションを半分くらい回ったところで、どこかの家から焼き魚の匂いがした。
「朝から魚を焼くなんて、なんてきちんとした家なんだ!」
じぶんで朝から魚を焼くことは一切ないので、それだけで尊敬してしまう。
頭の中は一気に焼き魚でいっぱいになった。
「焼き魚は晴れの日に合うけど、煮魚ってあんまり晴れの日っぽくないよなー」「この匂いは鮭ではないよなー、何かなー」
なによりすごいのは、そのおいしそうな焼き魚のにおいというのは、ほんの数分前までとても貴重に感じていた植物のにおいを全部忘れさせてしまう、ということだ・・・。
匂いは混ざり合って、結果、ひとつの匂いが全てを飲み込んでしまう。
単純な匂いの強弱でこうなるのか、わたしが焼き魚好きだからあらゆる匂いを飲み込んでしまうのか。
学生の時に聞いたような、 "好きな人の声は遠くにいてもよく聞こえるから、近くにいる人の声が耳に入らなくなってしまう"とか、そんなことと同じなのかもしれない。
正確にいうなら、わたしが好きなのは "混ざり合うにおい" じゃなくて "混ざったあとに残ったにおい" なんだな。
通行人をうっとりさせるにおいの主に、わたしもなりたい。
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