見出し画像

心のトゲを抜く前の穏やかな日常

映画を見た。わたしと同じ30歳の映画監督、中川龍太郎さんの「四月の永い夢」。恋人を亡くした27歳の女性、滝本初海の物語だ。



3年前に恋人を亡くした27歳の滝本初海。音楽教師を辞めたままの穏やかな日常は、亡くなった彼からの手紙をきっかけに動き出す。
元教え子との遭遇、染物工場で働く青年からの思いがけない告白。そして心の奥の小さな秘密。
――喪失感から緩やかに解放されていく初海の日々が紡がれる。
四月の永い夢 公式サイトより

初海の、落ち着いているのに幼さが抜けないところと、やわらかい笑顔なのに頑固さが見え隠れする表情が、ものすごくリアルだった。

周りから"恋人を亡くした" と見られている一方で、それとはやや異なる形で自分の心にトゲを持っている。その薄黒いものをごまかすように、穏やかに時間を過ごしている。

触れられたくないこと、わたしなら自分からは話さない。周りから「ちょっと事情があって大変そうな子」と思われているなら、それはそれでいいやと深追いしない。何かを隠したままでいようとしている。

言葉が悪いけど、「かわいそうな子」でいることはある意味楽なんだとおもう。そんなところは、ちょっと共感してしまった。

初海は花火を見た帰り道、好きなアーティストの曲を聞いて、浮き足立っていた。でも急に何かを思い出したように冷静になって、音楽を止め、歩みも止めてしまう。

ゆっくり歩き始めてからだんだん飛び跳ねるようになって、またスピードを緩めて足を止めるまでが長回しで映されている。とても印象的なシーンだ。


自分の中だけにある小さなトゲって、ものすごくパワーがある。何かの拍子に思い出して、楽しかったはずの時間がすっと消える。

それは、「こんな風に楽しんじゃいけない」って自分で罰を与えているような。もしくは、かわいそうな子のままでいようとしているような。どちらもあるような気がするなぁ。

映画の中で初海は、そのちいさな心のトゲを抜く。

その後、ぐんぐんと歩みを進めるシーンが前述の歩みを止めてしまうシーンと対比になってとてもよかった。薄ぼんやりした穏やかな日々は、また変わっていくんだろうなぁと思えるラスト。


ああ、30歳になった自分はいまも何かを誤魔化すように穏やかに生きているのかもしれない。トゲを抜く前の初海のようだ。わたしは彼女のように、トゲを抜けるのかな。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?