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ビリギャルがまたビリになった日

現在、ニューヨークは金曜日の夕方である。夫が、夕飯の支度をしてくれている。渡米直前の送別会ラッシュで大量の茅の舎の出汁をいただいたのだが、こちらで手に入る野菜や肉が繊細な味つけを想定して生産されていないのか、うまく使いこなせないでいる。結果、大量のサラダと低温調理でふわふわに火を通した鶏むね肉とゆでたまごという、筋肉マンが毎日食べていそうなメニューに我々も落ち着いている。アメリカ留学が終わる頃には体質改善を遂げ、健康的な身体になって帰国することをせっかくなので目指してみている。

私がダントツで英語ができない世界

ニューヨークに来て、早くも一ヶ月が経とうとしている。やっと生活に必要な最低限のものも揃えられて、新生活にも慣れてきた。7月11日から始まった6週間の言語プログラムも、今日で3週目が終わった。私のクラスは15人で、うち11人が中国人、2人がコロンビア人、私を含めて2人が日本人という構成だ。他にもいくつかクラスがあるようだが、そちらはもう全員中国人の様子。聞いてはいたが、予想以上の中国人の多さに驚いている。

最初の授業で、一人ひとり簡単な自己紹介をした。そして私は悟ったのである。あれ、英語できないの、私だけじゃん、と。この言語プログラムは、英語がまだ堪能でない外国人向けのプログラムなはずだ。なのに、私以外みんな英語がもうすでにびっくりするくらいできるのである。今回が初めての留学なのは、私ともうひとりの日本人の男性だけだった。他のクラスメイトは、全員すでに海外留学経験者であり、中には中国でインターナショナルスクールに通っていたので子どものときから英語を話していた、という子もいた。「なぜ、もうすでに英語が上手なあなたがこのプログラムにいるの?」ときいたら、「この言語プログラムに参加することが大学院の合格の条件だったんだ」と中国人はみんな口を揃えて言う。僕たちだって、もう英語は十分できるのになぜこのプログラムに参加しなければいけないのか?と大学側に抗議したけど、参加しないなら合格は出せない、と言われて仕方なく来ている、というのだ。学費は、決して安くない(いやむしろびっくりするくらい高い..さすがアイビーリーグが運営する語学学校である)。ちょっと変な話だ。真相はよくわからないが、とにかくそんなわけで中国人がとても多いプログラムに参加している。ちなみに、わたしは条件つき合格ではなかったので、自ら志願してこのプログラムに参加している。やっぱりすこし、変な話だ。

みんながなぜ笑っているか、わからない

クラスではどんなことをしているかというと、毎週テーマが設定されており、そのテーマを軸に考えを深めていきつつ、プレゼンなどのタスクをこなしていきながらスキルを磨いていける設計になっている。指定のTEDTalkを各自見てきて、スピーカーの意見と自分の意見をまとめておいてクラスに持っていく。クラスでは、基本的には他のクラスメイトと意見を交換したり、一緒にプレゼンに取り組んだりと他者とのコラボレーションがクラスの基本となる。

ある日、リスニングの授業でみんないっしょにネイティブスピーカーが話している音声をきいた。そのあとで、スピーカーが何を話していたのかをまとめて、と先生から指示があった。私は、正直ほとんど理解できなかった。なにについて話していたかも、よくわからないほどだった。

そういうときに限って、当てられる。「Sayaka, what did the speaker say?」私は、半ばパニックで思考停止しながらも、なんとか拾えた単語を無理やりつなぎ合わせて話をつくって、なにかを答えた。すると、クラス全員が困惑して笑い出した。私は、消えたかった。みんなが何を笑っているのかがわからないのだ。こういう感覚、久しぶりだ。恥ずかしくて、情けなくて、消えたかった。

恥をかくこと、失敗することに慣れてきた

そんなかんじで情けない姿を一回りも下の子達に晒しながら、一週間が過ぎた頃、私は、自分の中の変化を感じ始めていた。「もうどうなってもいいや、できねえものはできねえのだ」と開き直ったのである。失敗から学べば良いのだ。笑われることにも慣れた。私も、なんかわかんないけど一緒に笑っている。誰も、私に期待などしていない。だったらこの環境、最高じゃないか、と捉え直した。失敗して当たり前、ちょっとうまく言えたら、「お、あいつ成長してきたな」と認めてもらえる。そうだ、わかんなくてもどんどん積極的に発言して、このくそ高い学費のもとをとってやるぞ、と燃え始めた私である。

そうだ、ビリギャルのときだって同じだった。坪田先生に「君はスポンジみたいな脳みそしてるね!」と言われ、「は?なにそれ狂牛病ってこと!?」と意味不明な返しをしていた当時のわたしは、誰にも期待などされていなかったし、わたし自身がへんなプライドを持っていなかったから強かったんだ、と思い出した。

「ちがうよ、空っぽだから、吸収力が半端ないってこと」

15年前に坪田先生に言われた言葉が、ニューヨークで必死に英語を頑張る34歳の私の、お守りになっている。

中国人の若いクラスメイトたち

そして、教育者の目線から、この環境で学ぶことはとても多い。「ほう、中国の若い子たちはそんなことを考えているのか」など、彼らの言動を見ているだけでも学びは深まるばかりである。同じ中国人でも、自国に対する見解が異なっているのも面白い。考えてみればそりゃそうか、なのだが、なにせ今まで中国人とまともに話したことがなかったので、こうして毎日のように会い、同じテーマについて意見を交換してみて初めて、中国に対する具体的なイメージがつかめてきている気がしている。次に中国に行くときは、また違った目線でいろんなものを興味深く見られる気がする。積極的に知ろうともせず、当事者と話もせずに持っていた勝手なイメージなど、なんの価値もないなと思った。

ニューヨークに来て、初めて出来た友だち

コロンビア人のふたりとは年も比較的近いこともあり、とても仲良くなった。ランチを一緒に食べたり、今度トリプルデート(久しぶりに言った)をする約束までした。コロンビアは南米にある国で、スペイン語を母国語としていて、とっても明るい人が多いという。幸福度も高い国だといわれてる。授業中は、ほとんどこのふたりが積極的に発言している。この二人の発言で、クラスでの議論が深まることも多い。イギリスに留学していたことがあるというふたりも、もうすでに英語に堪能だが、もっとうまくなりたい!と勉強熱心だ。彼女たちから学ぶことが、とても多い。先生も、あなたたちはよく発言して大好きだわ!と言っている。結局この国では、「発言する人」がより高く評価される。

彼女たちが、私がニューヨークに来て初めての友だちだ。いつも前向きで、失敗することに恐れがなく、常に進歩していてとてもいい影響を受けている。シンプルに、彼女たちのようになりたい。growth mindset を持って、どんどん成長していきたい。

「さやかがいてくれるおかげで、私達も英語を練習できるからありがたいよ!二人でいるとついスペイン語で話しちゃうから。英語で喋るの疲れるよね、わかる。でもがんばろうね!」と言ってくれる。

総じて、留学体験はきっと宝物になる

留学に来て、本当に良かった。辛いこともたくさんだし、日本が恋しくなることもある。でも、当たり前だけど、日本にいたら出会えない人たちに出会える。日本にいたらわからないままだったことに気づける。なにより、いままで知らなかった、自分の中の可能性を感じている。久しぶりに、「成長してるなぁ」と感じている。この時間、未来への大きな投資になる確信がある。

テクノロジーでどんなことも体験できたり覗けたり、情報が手に入る時代だけれど、「知っている」のと「体験した」のでは、雲泥の差である。体験して初めて、「知っている」というべきなのかもしれない。

よく言われることだけど、日本の素晴らしさも、一度外に出てみないとわからない。私は、ニューヨークに来て、日本の凄さを毎日目の当たりにしている。私が当たり前だと思っていたことは、全く当たり前ではなかった。感謝しなきゃいけないことが、たくさんあったし、他の国では真似できないことが、山ほどある。でも、悲しいのは多くの日本人がそれを認識していないことである。この点については、次の記事で書きたいと思う。

今週末は、どこに行こうかな。平日はコロンビア大学の周りにしかいないので、毎週末ニューヨークを夫と探検するのが楽しみである。引き続き、ニューヨークでの発見を勝手にレポートしていく。

最後まで読んでくれて、ありがとうございます!
それではまた、次の記事で。


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