【小説】民俗学者秋山弓華とSF、そして怪異

〜あらすじ〜
民俗学者秋山弓華が出会った怪異、”おけとうさま”。
友人である発明家、アンドロイド、霊能者の協力を得て、弓華は呪いに立ち向かう!
勝つのは怪異か、SFか。

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「好きな夢を、見たいとはお思いになりませんか」
 長い黒髪にロングスカートのワンピース、白いエプロンをつけた、いわゆるメイド服姿の女だった。
 夜、人気のない路地裏で彼女の前に立つ男は、どこか心ここにあらずといった表情で彼女から何かを受け取ろうとした。
「見つけたわよ」
 彼女の動きがピタリと止まる。男はハッと我に帰ったかのように、何事か口にしながら足早に去っていった。
 女がゆっくりとこちらを振り向く。
 その瞳は深い青にうっすらと光っていた。
「あ! 何よ、あんたが夢魔の正体だったわけ?」
「……何のことでしょうか」
「はぁ……今回の調査はハズレね。それも大ハズレ。世間は狭い……」
 私の言葉に彼女は黙って小首を傾げた。
「夏帆子のところへ案内しなさい」
「かしこまりました」
 彼女はスカートの裾を持ち上げて優雅にお辞儀してみせた。

「いやぁ傑作だ! まさかうちのA-07が都市伝説になっていたとはねぇ」
「いい迷惑よ。こっちは真剣に調査してるのに」
 白衣の女性、安斎《あんざい》夏帆子《かほこ》はケラケラと笑っていた。
「まあ正体が知ってるものだとわかっただけいいじゃないか」
「はぁ……知り合いからのドッキリにあった気分だわ」
「失礼します。お茶をお持ちいたしました」
 先ほどのメイド服の女性が紅茶のカップを置いてくれる。
「ありがと、エレナちゃん」
 A-07、通称“エレナ”は、安斎博士の開発したメイド型アンドロイドだ。
 一見すると人間と変わらないほど精巧なアンドロイドの彼女は、ロボット工学以外にも様々なことに関心を持つ安斎博士の実験に日々協力している。
「今回は夢魔の調査だったか? まさか私の開発した“好きな夢を見る装置”のモニター募集活動が、そんな風に解釈されるとはね」
 夢魔。夜な夜な男の夢に現れては惑わし、精気を吸うサキュバスに近い存在。
 私が聞いていた都市伝説というのは、ここ最近になってこの街で囁かれ始めたものだ。
 路地裏で黒髪のメイド服姿の女性と出会うと、夜な夜なその女性が夢に現れて淫靡なことをしてくれる。その様子を女性は報告するように言う。そして出会うたびに少しずつ狂ってしまう——。
「その真相が科学の実験だなんて、誰がわかるのよ」
「無事君が突き止めたじゃないか。弓華」
 私の名前は秋山《あきやま》弓華《ゆみか》。民俗学者だ。
 専門は都市伝説を中心とする、現代の怪異。
 今回は自分の住んでいる街でリアルタイムで都市伝説が生まれたとあってワクワクしていたのだが、まさか正体が知り合いだったとは。
 まあこの精度のアンドロイドを誰にも発表せず開発して動かしている夏帆子とエレナの存在も、十分都市伝説みたいなものだが。
「どうだい、最近は。何か面白い怪異とは出会えたかい?」
「ま、“本物”とは滅多にね。この前の“出られない部屋”以降は特に何にも」
「ああ、あれは面白かった。“セックスしないと出られない部屋”に男子高校生と閉じ込められたが、正体は縁結びの神社の変容したものだったというやつだな」
「そ。実際に体験できて最高だったわ」
 形としてはもう残っていない、この街の古い氏神。それを祀る神社には、かつて若い男女を閉じ込めて強引に契りを結ばせる風習があった。
 その神社はもう新しい勢力の神社に信仰を奪われる形で潰されてしまったが、縁結びの神社としての性質と男女を閉じ込める風習が変容し、いわゆる“セックスしないと出られない部屋”という創作の存在と結びついて、実際に顕現するようになったのだ。
「形としてはもう残っていない神社だが、聖域としての性質を保ったまま、この街で男女のいる密室に顕現する。システムとしてなかなかに興味深い。何かに応用が効きそうだ」
「怪異に対してシステムって言い方は夏帆子らしいわね。でも結構しっくり来る言い方ではある。実際あの部屋には、顕現するための条件がいくつかあるみたいだから」
「ほう」
「まずこの街のどこかであること。元は土地神だから、この街にしか顕現しない。鍵のかかる部屋があること。そして想いを寄せた男女がそこに入ること。おそらくこの三つが出現条件よ」
「なるほど。しかしそれだとこの街のカップルは毎回みんな閉じ込められてしまうんじゃないか?」
「少し違うわ。この神社は元々縁結びの神社だから、まだ結ばれてない男女が対象になる。過去にこの街で起きた“男女閉じ込め事件”を調べてみた限り、まだセックスしたことのない男女が対象になっていたから」
「ふぅん。あくまで縁結びのために神社に閉じ込める、という在り方は保ったまま、今の形に変容したというわけか」
「そういうこと」
 エレナの淹れてくれた紅茶を一口飲む。
「え、おいしい。お茶淹れるの上手だね」
「最近知り合いの専門店で修行させてきたところさ」
「修行を経てエレナはアップグレードしましたので」
 エレナは無表情だったが、ちょっと得意気に見える気もした。
「それで、次の調査対象なんかはもう決まっているのかい」
「まあね。夢魔の次はこれ、って調べるつもりだったやつがあるわよ。今度はまあ、出張になるかな」
「ほう。どこまでだい」
「ちょっと海の方にね」
 私は紅茶のカップを机に置くと、話し始めた。
「ねえ夏帆子、“おけとうさま”って知ってる?」
 夏帆子は首を傾げた。エレナの動きにそっくりだった。もしかしたらエレナのモデルは夏帆子なのかもしれない。
「おけとうさま。知らないね。民間信仰の類でありそうな名前だが」
「鋭いわね。海沿いのとある漁村で信仰されている土地神よ。漁村だから、豊漁の神様のような扱いをされているけど……どうもそれだけじゃないみたい」
「というと?」
「行方不明者が出てるみたいなのよね。毎年」
「ふぅん。穏やかじゃないね」
 夏帆子は紅茶を一口啜ると、一呼吸置いて言った。
「私も危ない橋は何度か渡ってきているが、毎回危ないとわかった上で準備をして乗り越えてきている。だから危ないかどうかの嗅覚というのはあるつもりでね」
「……」
「気をつけるんだよ、弓華。この件、どうも嫌な予感がする」
「だから夏帆子に話したのよ。私に万が一があったら、その村があやしいと思って欲しいの」
「おいおいおい、私に弓華を助け出せって言うのかい?」
「そこまでは言ってないわ。警察に言うくらいでいいわよ」
「そのくらいなら構わないけどね。そのくらいで済む話だといいんだが」
 夏帆子が心配していることはわかる。
 行方不明者がなぜ毎年出ているのか。
 神の仕業か、それとも、人の仕業か。
 長年調査をしてきたからわかる。本物の怪異というのはそうそういない。その正体は人であることがほとんどなのだ。
 行方不明事件の正体が神隠しなどではなく、村人による殺人と隠蔽である可能性だって十分にある。
 そうだった場合はもう、民俗学者の領域ではない。警察の領域だ。
 夏帆子はそれを心配しているのだろう。
「ただまあ、今回のが人であるか、“本物”であるかは別にして……記録をつけさせてもらうのは面白いかもしれないね」
「記録?」
「せっかく怪異の調査の前に科学者のところに寄ったんだ。科学的な調査ならお手伝いしようじゃないか」
 彼女は立ち上がると、棚から小型の装置を取り出した。
「小型のカメラを渡しておこう。それを常につけておいてくれれば、うちの研究所に動画データが送信される。何かに巻き込まれそうになったときに多少は安心だろう?」
「うれしいけど、珍しいわね。夏帆子がそこまでしてくれるだなんて」
「こう見えて私は直感を信じるタイプでね。論理の積み重ねの先に、ここぞという場面で直感が役に立つと知っているんだ。だから今回の嫌な予感も、大真面目に対処するつもりだよ」
「助かるわ」

 寂れた村だ。若者の姿がまったくない。
 海沿いの小さな漁村を訪れている私は、堤防で釣りをしている老人に話を聞いた。
「民俗学者の秋山弓華と申します。この村の伝承を調べているのですが、お話を伺えませんか?」
「ああ、あんた学者さんかい? 若いのに大層なこったねぇ」
「いえいえ。おけとうさま、について調べているんですが、何かご存知ですか?」
 老人はしばし沈黙した。視線が私の顔から下へ、全身を舐め回すように往復する。
「……おけとうさまはこの地域の守り神だよ。豊漁の神様だ。毎年お供物をして、豊漁を願ってる」
「そうなんですね。どういった姿の神様なのでしょうか」
「……猿だよ」
 老人はひとしきり悩んだ様子で沈黙してから言った。
「猿、ですか」
「金色の毛をした大猿だ。おけとうさまが荒ぶらないように、わしらはずっと昔から祀ってる」
「豊漁を願っている、という話でしたが。実際は鎮めるために祀っているということでしょうか。荒ぶるとどうなるのですか?」
「よくないことが起きる」
「……どういうことが起きるんでしょうか」
「よくないことだよ。わしは子供の頃からそう言い聞かされてきた。それ以上は知らん」
 老人はそれ以上語りたがらなかったが、十分に情報は得られた。
 私は老人にお礼を言って立ち去ると、今日の宿へと向かった。

 入浴と夕食を済まし、敷かれていた布団の上に寝転んで手帳を眺める。
 今日の老人の話と、あらかじめ資料を当たって調べていた話を統合すると、どうも“おけとうさま”というのは“災いをもたらす猿”らしい。
 豊漁の神という触れ込みだったが、あの老人が内情をぽろっと口にしてくれたのは幸いだった。
 もともと怪しいところはあった。豊漁の神という体裁をとっているが、毎年の捧げ物の時期がこの地域の漁の時期とズレ過ぎているのだ。
 普通捧げ物をする理由は、何かの利益をもたらしてくれるからだ。捧げ物をして、豊漁という神様のご利益がある。こういうパターン。
 しかしもうひとつパターンがある。
 “鎮めている”のだ。
 捧げ物を捧げないと、神が荒ぶるというパターンである。
 よくないことが起きる。その以上語りたがらなかった老人の言葉を思い出す。
 よくないことというのは、こういう伝承の場合は自然災害や疫病を指すことも多い。海沿いの村だし、津波なんかは特に怪しい。
 そういった自然災害を神の仕業と考え、鎮めるために捧げ物をし、祀る。それが民間信仰として自然な流れだ。
「あとは行方不明者、か」
 この村では若い女性ばかりが行方不明になっていた。そして今日見た限り、若者はもうほとんどいない寂れた村だ。
 もしも、もしも。
 捧げ物が、人であったなら。
「……考え過ぎか」
 今日はやけに疲れた。眠気がひどい。
 続きは明日考えよう。場合によっては早めに退散した方がいいかもしれない。
 そんなことを思いながら、いつしか眠りについていた。

 顔に硬い感触が当たっている。妙に緑の匂いがする。
 目を覚ますと、薄暗い部屋で私は横になっていた。
 ……電気、消したっけ?
 鼻をつく木の匂い。外からだろうか。窓を開けて寝た覚えはない。
 寝返りを打とうとして、後ろで両手が縛られていることに気づいた。
 口には布を噛まされている。
 寝起きの頭が、一気に冴えた。
 最悪だ。
 予想はしていたが、実行が早過ぎる。
 おけとうさまへの捧げ物が若い女性だとして、もうこの村には若者がいないとしたら。
 私しか居ないのだ。捧げ物にできる女は。
 だとしても、まさか来たその日に捧げ物にされるとは。
 こういうのは怪異とかじゃない。人間の手によるものだ。やはり行方不明事件は村人の手によるものだったのか?
 いや、ここに私を拉致したのが村人とは限らない。しかし恨みを買った覚えがあるとすれば、村人にだけだ。
 おけとうさまを嗅ぎ回る女を、始末するついでに捧げ物にする。筋は通っている。
 とりあえず真相は後回しだ。逃げなくては。
 縛られている手首をくっくっと何度か反らし、寝ている間もつけていた腕時計のサイドのボタンを手首で押す。シャッと音がして、短い刃が飛び出た。少し手間取ったが、それを使ってなんとか腕の縄を切断する。 
「ふぅ……」
 自由になった両手で口の猿轡を外し、そっとため息をつく。
 こんなこともあろうかと夏帆子に改造してもらった腕時計が役に立った。普段は面白そうな発明にしか興味を示さないのだが、“嫌な予感”のおかげで夏帆子は素直にこういうものでもつくってくれた。
 改めて部屋の中を見回す。簡素でボロい造りの部屋だった。部屋というより、狭い山小屋のような感じだ。
 一枚しかない扉に耳を当て、外の音を探る。風の音、草木の擦れる音、虫の音。よくわからない獣の声。おそらく山や森の中だ。
 人の気配はしないと判断して、そっと扉を数センチ開く。そこから外をうかがうと、街灯もない森が見えた。誰もいないようだ。
 慎重に扉の外へと出る。
 街灯はないが、月が明るい夜だった。外の様子はよく見える。
 振り返って見ると、私がいたのはどうやら山小屋ではなく、古い神社の祭殿のような建物だった。“捧げ物にされた”可能性が高い。
 とりあえず山を降りよう。念の為服の内ポケットに入れていたスマホは盗られていなかった。電波は届いている。地図アプリを使えばなんとかなりそうだ。
 ふと、視線を感じた。
 周りを見回しても人影はない。
 じっとりと、嫌な汗が吹き出してくる。
 なんだこの悪寒は。
 とりあえず地図アプリを見ながら歩き出すと、視線を後ろに感じる。
 振り返ると、祭殿の上に、うっすらと金色に光る人影があった。
 ——違う。人じゃない。
 全身に金色の毛が生えた、猿。 
『こえ、れ、ない、ず』
 低く掠れた声が耳元でした瞬間、私は一目散に走り出した。
「あああぁぁぁぁ!」
 祭殿とは反対の方向、林の中へ駆け込み、叫びながらとにかく走る。
「夏帆子! 起きて!」
「ちょうど君の叫び声で目を覚ましたところだよ」
 耳につけたままだったピアスから夏帆子の声が聞こえる。これも夏帆子から渡された、スピーカー、マイク、カメラがついた特製のピアスだ。
「弓華、状況は?」
「“猿”から逃げてる! 村もグル! どっちに逃げればいい!?」
「まっすぐそのまま走れ、県道に出る。今のスピードならちょうどトラックが一台通るはずだ。服を脱ぐなりなんなりしてでも絶対に止めろ。乗せてもらって逃げるんだ」
「ありがと!」
『こえ、れ、ない、ず』
 猿の低い声が再び耳元にまとわりつく。
 後ろを振り返る余裕はない。物音からして追ってきているのはわかる。声だけが耳元に届いているが、本体とは距離があるようだ。
「GPSは正常だ。神隠しならいわゆる“異界入り”だったのかもしれないが、人に捕まった証拠だよ。安心したまえ、そこは現世だよ」
「逃げ切るまで安心なんかできないわよ!」
「右耳のピアスを外して後ろに逃げろ。通信は左だけで可能だ。相手に目があるなら、足止めできるかもしれない」
「了解!」
 ピアスを片方外して後ろに放り投げると、瞬間、辺りを真っ白な光が満たした。閃光弾か。
 後ろから追ってきていた物音が止まる。“効いた”らしい。
 その時、木々の間を抜けて道路に出た。
「止まって!」
 ちょうど来ていたトラックの前に轢かれる覚悟で飛び出すと、けたたましいクラクションを鳴らしながらトラックが停まる。
「てめぇ何考えてんだ! 危ねぇだろ!」
「お願い! 乗せて! ストーカーに追われてる!」
 咄嗟についた嘘だったが、こんな山奥の道路に若い女が居たことと、私の必死な様子から信じたのか、すぐに運転手の彼は乗せてくれた。
「すぐ走って! どこでもいいから早く!」
「訳ありだな? いいぜ姉ちゃん!」
 すぐさま出発したトラックのサイドミラーを見ると、金色に光る猿は道路に出る直前のところで立ち止まっていた。
 青く輝く目が、カーブを曲がるまでずっと私を見ていた。
『こえ、れ、ない、ず』
 耳元に猿の低い声だけが、いつまでも残っていた。

「ふぅん。よく撮れているねぇ」
 翌朝、夏帆子の研究所に避難した私は夏帆子と一緒に昨夜の映像を見返していた。
「カメラに映っている、しかも霊感なんて縁のない私にも見えているということは、実体があるということだね。毛の色が変なだけの猿かもしれない」
「その可能性もないとは言い切れないけど、状況証拠的に“実体を持つくらい力の強い怪異”の線が濃厚ね」
「まさか科学者をやっている身で怪異なんてものが実際に見られるとはなぁ! 結構テンションが上がっているよ、私は」
「それどころじゃないんだって。逃げ切れたとは思えないし」
「おいおいおい、まずいんじゃあないか? “呪われてる”ってやつだろう、それ」
「そうだと思う。夏帆子のノリに救われてるわよ、ほんとに。気が狂いそう」
「果たしてどう対処したものか……相手が猿なら、苦手な犬でもぶつけてみるかい?」
「そのくらいでなんとかなるといいんだけど。でも多分あれ、猿じゃないのよね」
「ほう?」
 夏帆子が首を傾げる。
「猿でないなら?」
「“鬼”よ」
 ここからは村にあった記録を元に立てた推論だ。
「大昔、猿の伝承が登場するより少し前に、鬼の話が出てくるの。鬼が海から流れ着き、村の人間を殺して回ったんだって」
「ふぅむ。化け物に恵まれた村だね」
「それが鬼という災害に巻き込まれた、とはちょっと違うみたいなのよ。どうも鬼には妻が居たらしくて、村人が妻を殺しちゃったみたいなのよね。先に」
「ほう。それはいかにも呪われそうだ」
 夏帆子は顎に手を当てて思案する。
「しかし変じゃないか? 鬼の妻ということは、妻も鬼だろう? 人が殺せるものなのかい?」
「それが鬼の正体よ」
 私はエレナの淹れてくれたお茶を一口飲んで、気持ちを落ち着かせた。
「人に殺せるもの。つまり、“鬼も人だった”」
「なるほどな。鬼の伝承は、蓋を開けてみれば人間通しのいさかいだったというわけだ」
「そう。鬼っていうのは、人。もっと言うと、“外国人”よ」
「外国人? 海に漂着した海外の人が、鬼だと思われたわけかい」
「そう。これなら“おけとうさま”って言葉が伝わっているのも理解できる。“けとう”っていうのは、古い言葉で外国人のことなの。毛の色が唐、つまり唐のような外国の人だ、っていうのが語源ね。今では差別用語だけど」
「ふぅん。なんだか繋がってきたね」
「そうでしょ? 大昔、金髪の外国人夫婦が漁村へと漂着し、金髪で大柄な外国人を人間でないもの、鬼だと思った村の人間が二人を殺そうとした。男は抵抗したけれど、妻は殺されてしまった。怒り狂った男は村人を殺し、山へと逃げた」
「それが鬼の始まりというわけか。しかし猿とどう繋がる?」
「信仰による変容よ。鬼を鎮めるために、村では毎年若い女を生贄に差し出すことにした。殺してしまった妻の代わりにね。そういう風に、毎年の捧げ物と信仰を与えてしまった。つまり“神として扱った”。それがまずかったの」
「鬼が猿になったと?」
「そう。神として長年扱われたものは、それだけ力を持ってしまう。そういう存在は、人が願った通りになってしまうから。鬼として扱われた男は、やがて山にいるうちに獣性を帯び、猿へと変貌した。金髪という部分だけが残って、全身金色の毛の大猿にね。目が青いのもそういう人種だからよ」
「人のなれの果てか。神というのは人によって生み出されるんだな」
「今回のケースはね。ただ毎年の捧げ物とは別に、カモフラージュで豊漁の神としても扱ってたみたいなのよね。だから性質的には、土地神が一番近いかな」
「その土地を担当する神様というわけか。まあでも、それなら担当の土地から出られないんじゃないか? ここまでは追ってこない気もするが」
「そう。土地神というのは普通、自分の土地から出られない。土地に神性を支えられてるからね。だから私も、この街に帰れば大丈夫だろうと思ってたんだけど……そうもいかないみたい」
「というと?」
「いるの。そこの窓の外に。猿が見える」
 金髪の大猿が、無感情な青い目を見開いて、窓の外の木から私たちを見下ろしていた。

 猿の発した「こえ、れ、ない、ず」という意味のない言葉のような何か。
 それは夏帆子の研究所についてからも、耳元で一定間隔で聞こえていた。
「こういう仕事をしててなんだけど、私はなんでもかんでも信じる方じゃないの。学者だからね。まずは疑う。だからその上で、なんだけど……彼女は“本物”よ」
 この街で一番大きな神社、そのお賽銭箱の前で、私は言った。
「千久美《ちぐに》神社はこの地域で一番大きい神社よ。昔セックスしないと出られない神社に信仰の奪い合いで勝って、この地域一帯を今では護ってる。私はこの神社とも縁を持っているから、この街にいる間、猿は私に手が出せないはず」
「なるほどねぇ。まあ私には見えなくなってしまったからなんとも言えないが」
 猿の姿は夏帆子には見えていないようだった。おそらく土地を出て別の土地神の地にまで追ってきたせいで、力が弱っているのだろう。
「私もお参りした方がいいでしょうか?」
 一緒に来ていたエレナがそう言った。
「一応しておけ。お前くらい精巧だと、神様も人と間違えるかもしれん」
 エレナは小銭を賽銭箱に投げ入れて手を合わせていた。
「ま、そうは言っても弓華、呪われてるのは間違い無いんだろう。要するにお祓いということかい? ここで」
「そういうこと。ただ相手がちょっとした霊とかじゃなくて土地神クラスだから、簡単に済むかはわからないわ。とにかくここには本物の霊能者、“久屋燈子”が居る。彼女を頼るわ」
「お呼びですか」
 後ろから若い女の声がした。
 振り向くと、巫女服を着た女が箒を持って立っている。
「燈子さん。今日は燈子さんに用事があって来たの」
「そうでしたか。こちらの方は?」
「安斎夏帆子だ。弓華の知り合いだよ。こっちはメイドのエレナ」
「それはどうも。どういうご用件かは察しがつきます。妙なものを拾ってきましたね」
 燈子はなんとなく私の背後に何かを透かして見ているような感じだった。
「やっぱりわかるのね。どう見えてる?」
「……獣、でしょうか。獣の気配ではありますが……人の気配も感じます。猿が一番近いですね。“憑かれて”いてもあまり良い影響は期待できません」
「すごいな。彼女には何の情報も与えていないはずなのに。これはさすがの私も信じたくなってきたよ」
 夏帆子が面白そうに燈子を眺めていた。
「だから言ったでしょ。彼女は“本物”よ。それで燈子さん、お願いなんだけど……率直に言うわ。助けて欲しい」
「もちろんです。我が神社と深い縁を結んだあなたを放っておくわけにはまいりません」
「え、いいの? あなたにメリットなんてないから、どう頼み込もうかと思ってたんだけど」
 意外な反応だった。彼女は自分の神社の信仰を守ること以外に興味がないと思っていたのだが。
「この街は我が神社の庇護下にあります。通常でしたら、この町の中まで入り込める“悪意を持った超常のもの”はおりません。しかし猿は、あなたさまの近くまで来ています。この街の中まで。危害を加えるほどの力はないようですし、さすがに神社の敷地内であるここまでは入り込めないようですが……ここまで侵入を許した以上、千久美神社の巫女として動かないわけにはまいりません」
「助かるわ。それで、私たちはどうしたらいい?」
 彼女は表情を変えないまま、しばし沈黙した。
「……少し難儀ですね。通常の霊を除霊するのとはわけが違います。除霊ならば未練を特定して成仏させることもできますが、相手は変容したとはいえ土地神です。よその土地神を“祓う”というのは無理があります」
「うーん、やっぱりそうよね……祓うのが無理となると……」
「鎮めるしかありません。帰っていただくのです」
「鎮める、か。でも村の若い女を生贄にして鎮めてた存在を、私たちがどうやって鎮めればいいのかしら」
「そうですね。ただでさえ猿は、生贄に捧げられたはずのあなたが逃げ出したことに怒っています。なんとかやり方を見つけないと」
「なぁ君たち、素人質問で恐縮なんだが」
 ふと、黙って話を聞いていた夏帆子が口を開いた。
「今の話だと、除霊というものの基本は未練を満たしてあげることなんだろう? やっぱり鎮めるというからには、鬼の未練を特定した方がいいんじゃないか? もとは人なんだし」
「鬼の未練、か……」
 夏帆子の言葉は的を射ていた。燈子も頷いている。
 私は思考を巡らせる。
 猿の未練。それは妻を殺されたことから始まったはずだ。
 ふと、猿が発していた意味不明な言葉が脳裏に蘇る。
「“こえ、れ、ない、ず”……」
「はい、なんでしょうか」
 エレナが返事をした。
「エレナ、今のは文字列にエレナの名前が含まれていただけだよ」
「そうでしたか。失礼しました」
 その時、脳裏に閃くものがあった。
「——そっか! “こえれないず”って、そういうことか!」
「ん? それって確か、猿がずっと言っている言葉だろう? 意味があったのか?」
「うん。ずっと繰り返してるから、順番が違って聞こえてたんだよ。魚ってたくさん言ってたら、“なさか”にだんだん聞こえてくるでしょう? 猿の言葉も、それだったのよ」
「ほう。アナグラムか」
「“えれないずこ”。これを繰り返すと、“こえ、れ、ない、ず”になる。猿が言ってたのは、“エレナ何処”だったのよ」
「私《わたくし》のことでしょうか?」
 エレナが首を傾げる。
「違うよエレナ。今のエレナというのは……ん? そういうことかい?」
 夏帆子が私の方を見た。
「そう。エレナだったのよ。“鬼の妻の名前”は」
 鬼の伝承。猿の求めるもの。私たちにできること。
 すべてがつながっていく。
「鬼は妻であるエレナが殺された恨みで暴れていた。村人も原因には気づいていて、だから妻の代わりに若い女を生贄に捧げていた。でも鬼は満足しなかった。だって生贄の女は、エレナではない違う女だから。でも」
 私はエレナの方を見る。
「“エレナ本人”を捧げたら」
「私の愛称は確かにエレナですが、その名称は型番A-07をもじったに過ぎません。鬼の妻との同一性は名称のみです」
「そこが大事なのよ。燈子さん、降霊術ってできる?」
「降霊術ですか? 適切な依代があれば、可能です」
「夏帆子、ごめん。エレナちゃん、貸してくれない?」
「ん? ……ああ、そういうことか。面白いじゃないか」
 私のアイデアを察した夏帆子がニヤリと笑う。
「その勝負、“乗った”」
「ありがと」
 人に限りなく近いアンドロイド。
 つまり魂を持たず、名前はエレナ。
 これ以上ない“依代”だ。
「どうやら私《わたくし》の性能を見せつけるときが来たようですね」

「——こちら夏帆子。聞こえるか?」
「こちら弓華。聞こえてるわ」
 深夜、山奥の古びた社殿の前に、私と燈子、そして白い着物に着替えたエレナは集まっていた。
 夏帆子は近くの林に停めた車の中で待機している。
「燈子、確認するが、作戦に変更はあるか?」
「ありません。これからA-07さんに鬼の妻、エレナの霊を降ろします。依代であるA-07さん、鬼と縁を結んだ弓華さんが揃っているので、霊が迷うことはないでしょう。エレナの霊を降ろした後、千久美神社の結界を一時的に緩めます。そうしたら鬼がここまで来るはずです。あとは手筈通りに」
「よし。二人とも問題ないか?」
「大丈夫よ」
「お任せください」
「よし。A-07のカメラも異常なしだ。時間もちょうどいい頃だろう。弓華、始めるか?」
 条件は揃った。
 あとは計算通りに行くことを祈るだけだ。
 私は大きく深呼吸すると、返事をした。
「始めましょう」
「では」
 社殿の入り口に立った私たち。燈子が白い紙のついた棒を構え、A-07の前で何かを唱え始める。日本語のはずなのにうまく聞き取れない。
 やがてA-07の目の色が、変わった。
 深い青から、明るい緑へ。
「成功です」
 燈子の声に反応せず、エレナは私たちの背後に視線を向けた。
「……あなた」
 A-07ではない声で、彼女、鬼の妻エレナは言った。
「結界を緩めます」
 燈子が棒で横に薙ぐような動きをする。
 ぞわりと、背筋に悪寒がした。
 “来た”。
 燈子と私は背後に感じた視線に身構え、慎重に振り向いた。
 全身が金色の毛に覆われた大猿。
 私に憑いて来ている鬼が、すぐ近くの林からこちらを見ていた。
「エレナさん、もう一度結婚式を行いましょう」
 燈子がエレナに向かって語りかける。
「けっ、こん……?」
「神父の代わりは私が勤めます。社殿の中で執り行いますから、どうぞこちらへ」
 頷いたエレナは、社殿の中へゆっくりと歩いていく。
 その時だった。
「来たわよ!」
 鬼がこちらへと飛びかかってきた。
 私と燈子はとっさに二手に分かれて飛び退く。
 しかし鬼は私を狙っていないようだった。社殿の中へと奇声をあげながら飛び込んでいく。
「燈子さん!」
 私は力任せに社殿の扉を閉め、叫んだ。
「結界を張り直します!」
 燈子が棒を大きく振ると、凛とした緊張感を空気が帯びる。
 ここまではうまく行った。あとは祈るしかない。
「“条件は揃った”でしょ! “来い”!」
 扉に手をかけ、少し力を入れて開こうとする。が、開かない。
「やった! うまく行った!」
「逃げますよ!」
 私と燈子は走って近くの林へと駆け込む。夏帆子の乗った車へと乗り込み、肩で大きく息をしながら一息ついた。
「夏帆子、中の様子は!?」
「モニターに映ってる。どうだ燈子、これは成功か?」
「はい。賭けではありましたが、うまく行ったようです」
 モニターにはA-07の視界が映っていた。
 社殿の天井が見える。そして画面いっぱいの鬼の顔。押し倒されているのだ。
 エレナの白無垢が乱暴に剥ぎ取られていく。
「予想通りだったな。なかば猿のような獣に変容していた鬼が、数百年ぶりに会った好きな女を前にしてやることはひとつ。“抱こうとしている”ね」
「うまくいったみたいね」
 私は安堵から椅子に全身を預けてへたり込む。
「私が目をつけられている怪異は鬼だけじゃない。千久美神社の結界が緩んだ状態で、“条件”が揃った。この土地で、想いを寄せた男女が、密室に入った。私の近くで」
 “セックスしないと出られない部屋”。
 かつての縁結びの神社が変容した現代の怪異が出現する条件を、鬼とエレナが満たすように仕向けた。
 だから鬼とエレナは、セックスするまで社殿から出られない。
「A-07には、“セックスする機能がない”」
 アンドロイドであるA-07には、生殖器、あるいはそれに該当するパーツがない。正確には、元々はあったのだが、夏帆子が外したのだ。
「ふぅん。セックスができない女と、セックスするまで出られない部屋に閉じ込められたら、どうなるか? 思考実験のようなものではあるが……結果は容易に予想できる」
 鬼はもう、出られない。
 私たちが集まったこの社殿は、この街に残っていた最後の“出られない部屋”神社のものだった。千久美神社の侵攻によって力を弱めていたが、本来の力をもっとも発揮できるとしたらここだと思ったのだ。
 縁結びのために男女を閉じ込めた風習は、元々は神社の社殿に閉じ込めるものだった。“出られない部屋”が顕現するにはこれ以上の場所はない。
「あとは鬼を鎮めるために、祀り続けることです。元の漁村で信仰が続けば問題なく鎮まるでしょう。ただし若い女を生贄にするのはやめさせる必要があります。鬼はもうそれを望んでいないからです」
「作戦がうまく行って、閉じ込められたのはいいけど……これって本当に大丈夫なのかしら。鬼が怒り狂ってひどいことになったりしない?」
 心配する私に、燈子が首を振る。
「おそらく大丈夫です。鬼は本来、ただ妻に会いたかっただけ。妻を殺された恨みを持った霊が、人の信仰と生贄が続いたことにより神へと変容した。であれば、妻ともう一度会えた以上、霊としては成仏に近い状態になります。しかし一度宿った神性は簡単に消えるものではありません。ですので、妻と穏やかに暮らしてもらえるよう、ごめんなさいとありがとうを繰り返すのです。それが祀るということです」
「なるほどね。あとは……夏帆子、本当にごめん!」
 モニターを眺める夏帆子に、私は両手を合わせて謝った。
「わかってるさ。A-07はもう、この部屋から出られない。A-07のボディを失ったのは本当に、本当に痛手だが……」
「う……えと、エレナちゃんって、つくるのにいくらかかるんだっけ?」
「億」
「億!」
 この方法しかなかったとはいえ、弁償すると思うと気が遠くなりそうだ。
「いや、弁償なんてのはいいんだよ。友人の危機だったんだ。後悔はない。それに私は私で面白いデータが手に入ったからね。おい、エレナ」
 夏帆子がスマホを取り出すと、スマホからエレナの声がした。
「はい」
「え、どういうこと?」
「バックアップだよ。エレナの人格データと記憶はボディにあったが、通信により同期することで、研究所のサーバーの中でエレナの人格は生きている。もっとも、ボディとの同期はそろそろ限界だろうがね」
 モニターが真っ暗になった。
「限界です。“乗っ取られ”ました」
「やはりか。もともと鬼の妻、エレナの霊を降ろした時点で、A-07の人格AIがかなり不安定になっていた。エレナの霊という人格と、A-07の人格AI、まあ魂みたいなものだな。魂が二つ同じボディに入るのは無理があったということらしい。で、ギリギリまで外部サーバーと同期してデータ収集し、今ちょうど同期が切れたというわけだ。まあ、ボディの乗り換えだよ。A-07の中身は無事だ」
「へーすごい……さすが高性能アンドロイド」
 夏帆子がA-07のボディを捨てることを許したのは、A-07の中身は無事だから、というのもあるだろう。あとは今回のデータだ。
「面白いデータが取れたっていうのはどういうこと?」
「鬼の映像だよ。それも十分な量だ。ここ数日の“鬼が憑いた”弓華との同行、そして今回の鬼との結婚式で、A-07のAIは“鬼がいる景色”を画像として見続けた。深層学習《ディープラーニング》だよ。つまりエレナは、鬼が見えるようになったのさ。本来見えないはずのね」
「また妙なものをつくって……知りませんよ。“怪異の見えるロボット”だなんて、どうなっても」
 燈子さんが呆れたように夏帆子に言った。夏帆子は楽しそうにニヤニヤしている。
 そうか。夏帆子が制作に億の金をつぎ込んだボディを捨ててでも欲しかったのは、AIに怪異を学習させるためのデータだったのだ。
「まあそんな機能があったところで、私の研究目的からするとあまり役に立つとは思えないが……科学的には、かなり面白いことになっているのは間違いない」
「ねえ、悪用しちゃダメだからね」
「悪用だなんてとんでもない。私はいつだって知的好奇心に素直なだけさ」
「うわ心配。まあいいけど……なんか変なことに巻き込まれたら、ちゃんと燈子さんにお祓いしてもらうんだよ」
「お布施の額次第では検討しましょう」
「おいおいおい、こいつの方がよっぽどあくどい性格してるんじゃないか? なあエレナ」
「どんぐりの背比べかと」
「うーん腹が立つAIだ! だが会話機能にも異常はないみたいだな」
「あ! ねえ、エレナちゃんを連れていけば、本物の怪異を探すのが簡単になるってこと!?」
「弓華ァ! エレナはお前のものじゃないんだぞ。もう一台つくるのにこっちはまたスポンサーから金をかき集めないといけないんだからな」
「次はどんな怪異と出会えるかしらね」
「懲りませんねぇ」
「あのなぁ……まあ、せめて金になりそうな怪異で頼むよ」
「おすすめの怪異を検索しますか?」
「エレナちゃんもうそんな機能が!? すごいじゃない!」
「エレナ! なんでお前も乗り気なんだよ」
「この怪異を見た方はこんな怪異も見ています」
「通販サイトみたいになってきてる。けどエレナちゃんってなんか……性格変わった? まだ体に霊が残ってるとか?」
「その気配はありません。こちらの人格AIとやらには、鬼の妻の霊は宿っていませんから」
「こいつは元からこうなんだ。結構冗談を言うタイプなんだよ」
 次の調査にはなんとかしてエレナちゃんを借りていこう。
 私は密かにそう決心したのだった。

 鬼と妻を閉じ込めた神社は、私たちでお金を出し合ってある程度外観を綺麗に直してもらった。
 その後は漁村の人たちもお参りに来るようになって、ちょっとした縁結びのパワースポットとして知られるようになった。まあその噂を広めたのは私なんだけど。
 漁村の人たちの生贄行為については、あとは警察に任せることにした。
 村人たちを突き動かしていたのは恐怖だ。
 鬼が去り、正しく鎮める方法がわかった以上、もう村人たちが生贄を捧げることはない。
 私は決して開かなくなった扉の前でお賽銭を投げ、手を合わせると、祈った。
 次も面白い怪異と出会えますように!

 終

【キャラクター紹介】
・秋山弓華(あきやま ゆみか)
28歳。160cm。黒髪ロングを巻いて結っていることが多い。
大学の助教授で、民俗学者。最近生まれた怪異、都市伝説を専門とする。興味のあることに一直線で、明るい性格。
自分の足で調べるタイプで、研究のためなら体を張る。
趣味はホラー映画鑑賞。
(初出「夏の魔物」)

・安斎夏帆子(あんざい かほこ)
28歳。171cm。肩までの黒髪ボブ。ほとんど外に出ないため、下着や薄いキャミに白衣を羽織っている。暑がり。
大きな洋館にメイド型アンドロイドと住む発明家で、工学博士。
最近の大きな発明は、家庭用健康管理アンドロイド217-S(ニーナ)とA-07(エレナ)。
技術屋でオタク気質、尊大な性格。
頭は切れるが、馬鹿馬鹿しいものが割と好きで、冗談をよく言う。そのせいか憎めない性格。
嫌いな食べ物は焼き魚、カニ。食べるのが面倒だから。
(初出「安斎研究所の罠」)

・A-07(エレナ)
安斎夏帆子の開発した家庭用健康管理アンドロイド。長い黒髪に深い青の瞳、西洋的な顔立ち。163cm。
型番が「A-07」で、愛称として「エレナ」と呼ばれている。
家事万能で、博士の世話や実験の助手、安斎研究所での雑用をすべて担当している。
幸薄そう、苦労人、などと言われるのをちょっと気にしている。
(初出「安斎研究所の罠」)

・久屋燈子(ひさや とうこ)
千久美《ちぐに》神社の巫女。年齢不詳。
有能な霊能者だが、千久美神社の拡大と維持を最優先に考えるため、常識人に見えて割と強引な性格。
(初出「すべての妖に乳首を狙われる男」)

いただいたサポートでえっちな作品を購入し、私の小説をよりえっちにします。