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【とあるクリスマス】



今日はクリスマスイヴ。

待ってましたと言わんばかりに街が騒がしい。
今日もOLとして自分の仕事を全うしてきた女は、家路を急いでいた。

部屋には愛しいあの人が…なんてことはない。彼とは先月、別れたばかり。子どもや動物が好きな優しい彼。こんな心優しい人に出会えた私、ラッキー!なんて幸せいっぱいだったけど、彼は仕事が忙しくて二人の時間を大切にできないって理由で女を振った。彼の仕事が忙しいことはわかっていたし、そんな彼を側で支えられたらな、なんて思っていたのだけど、ダメだったみたい。
だから今日も誰もいない部屋に帰るだけ。

平日の夜だというのにどこから集まってきたのか、商店街の中で馬鹿みたいにはしゃぎ、騒ぎ立てる人々の中を私は冷めた目でしばらく眺めたあと、自分の足元だけを見て、できるだけ誰とも顔を合わすことのないよう早足でその道をすり抜けてきた。都会の人混みを、誰にもぶつからず歩き抜くことはこの数年で培ったちょっとした特技かもしれない。

女は日付が変わるギリギリに家の最寄駅へと到着した。

「はぁ疲れた。晩ごはんどうしよう」

スーパーはとっくに閉まっている。テイクアウトもなんだか今日はかったるい。そもそもこんな時間だと牛丼屋くらいしか開いていない。その牛丼屋だって駅からは少し離れている。

「コンビニか…」

駅の近くのいつも立ち寄るコンビニに寄った。
いつもと変わらない店内…ではなく、おそらく今日の日のために先週くらいからちょっとした装飾をされた店内には、人がまばらに居た。
お弁当コーナーを眺めている、自分と同じように仕事帰りに立ち寄ったであろうサラリーマン、スイーツコーナーでどのスイーツを買うか迷いながら部屋着でいちゃついているカップル、「もしもーし?どんくらいいる?!氷ある?」お酒コーナーにて嘘みたいな量の缶をカゴに放り込む大学生。その顔は既に赤く、声もデカい。レジには、店からの指示で被らされているであろう赤い帽子を被った店員が眠たそうに接客をしていた。

女はそんな店内をサッと一周したあと、めちゃくちゃに売り出されていたチキンとケーキを一つずつ買って帰ることにした。二つずつじゃないことに若干の寂しさが過ったが、頭をぶんと一回振るとそんな気も一瞬で消えた。家に着くまでにぐちゃぐちゃにならないよう一応、大事に抱えた。







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由美子「以上です!」




一同拍手




早紀「由美子、その"女は"とかいう話し方なんなの?」


由美子「えー!だめ?

"クリスマスの日に誰が一番キュンとくるエピソード披露できるか"

私、みんなみたいな恋愛エピソード全然持ってないもん!ずっと女子校だったからさ、社会に出たらドラマみたいな恋するぞ〜!なんて妄想してたけどやっぱ現実は厳しいね。だからせめてもの小説喋りで挑んでみた。だって優勝者には豪華景品がかかってるんだよ?!気合い入っちゃうよ」


早紀「相変わらずあんたはガチだねえ。てかなに、昨日の話なの?(笑)いやまぁでも変わってなくて良かったよ。クリスマスの日に同窓会兼クリスマスパーティーって、最初はどうなのよって思ったけどさ、案外いいもんだね」


MC「えー、みなさん素敵なエピソードをご披露いただきありがとうございました。厳選なる審議の上、今回の優勝者は…山根優子さんとさせていただきます!!」



由美子「あーん。だめだったかぁ。優子ちゃんのエピソードよかったもんなぁ」

早紀「そうだねーあんたのエピソード、要約すると"クリスマスリア充を横目に失恋した女がコンビニでチキンとケーキ買って帰った人"だもんねぇ。まぁそんな日常が幸せ、みたいなところもあると思うけどさ」

由美子「えーん言わないでよぉフォローにもなってないしぃ」

早紀「ごめんごめん。さ、もうそういうのは置いておいてさ、今日は楽しもうよ!」

由美子「ん。そだね!じゃぁ改めて…」



メリークリスマス!!




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