永遠に 第12話「守るために」
この感覚には覚えがある。
いつも通りに仕事に向かい、会社について、地下へと階段で下りる。
私は何も変わっていない。
でも、周りは私を物珍しいものでも見るように、コソコソと噂話と共に注目を浴びていた。
あの時もそうだった。
そうあの時は、彼との事が週刊誌に載って、朝から噂の的になっていた。
嫌な予感がする。
また、同じように週刊誌に撮られたのかもしれない。
でも、その時とは明らかに感覚が違う。
「おはようございます」
課に入ってしまえばもう問題はない。
いつものように、ちょっとだけ先輩たちにからかわれて。
でも、結局何もなかったかように、いつもの日常に戻るだろう。
そう思っていた私が甘かった。
「あんた、これ、どういう事よ!」
先輩たちが集まっていたのはテレビの近く。
普段はあまり利用することのないテレビ。
お昼の時間帯に、たまに先輩たちが大好きなワイドショーを見るためについていることはあるけれど。
今日は朝からのワイドショーを課長も一緒になって眺めていた。
「どういう事って?」
正直テレビは見ない。
最近では、ニューストピックでいろんなことを知ることが出来るし。
でも、そういうサイトもフェイクであることも多いと感じる。
必要最低限のことは知っておいたほうが良いとは思うものの、日々の忙しさもあって最近のことにどんどん疎くなっている。
だから、もちろん、朝からテレビなんて見ていなくて。
テレビでは、ある高層ビルが映し出されていて、そのビルの入り口前にたくさんの報道陣がいる状況が流れていた。
「もう間もなくすると、斉藤社長が出てくるだろうと思われます。これから、会見会場へと向かい、新事業の説明と及び婚約者についての話がある模様です」
現場でマイクを持って話すアナウンサーの人の言葉を拾い、スタジオが湧きたつ。
テレビで映されているそこは、佑貴さんが社長を勤める会社の本社ビル。
だから、アナウンサーの人が話した斉藤社長というのは間違いなく彼のことだろう。
記者会見が行われる前に、会場へと向かう彼の様子を追うために、報道陣は本社前にスタンバイしているところらしい。
程なくすると、本当に佑貴さんが会社から出てきて、あっという間に報道の人たちに取り囲まれた。
まるで、芸能人のように扱われる彼を、どこか遠くの人に感じながら、私も彼に注目した。
「斉藤社長、突如婚約者のことも記者会見で話すというのはどういうことなのでしょうか?」
「もう、結婚が近いと思って間違いないですか?」
「話では、もともと婚約者と噂されていた人ではなく、別の方だという事ですが」
「ひとことお願いします!」
その様子はどこか二次元の世界に見えて。現実に起きている様子はまるで感じられない。
佑貴さんは、報道陣を避けながら用意されていた車のほうへと急いで歩く。
車の前に来たところで、報道陣を振り返った。
「すべては会場で話します」
それだけを告げて車に乗り込み、颯爽とその場から消えていった。
そんな様子を一緒に見ていた先輩方が、一斉に私のほうを向く。
まるで、私に関係がある事だというのが分かっているかのように。
「えっと・・・?」
分かっていないのはどうも私だけらしい。
いつもの怒り方とは違う雰囲気を感じて、ここにいると大変なことになりそうと察知したときに、もっと驚くことが起きた。
「失礼いたします。愛梨さま、お迎えに参りました」
受け付けの人を従えて課に入ってきたのは、佑貴さんの執事である相川さんだった。
「あ、課長さんですか? 突然失礼いたしますが、本日愛梨さまは有休ということでよろしくお願いします。これ、たいしたものではありませんが、みなさんでいただいてくださいね」
課長に何やら紙袋を渡して、相川さんは私を振り返る。
「さ、愛梨さま急ぎましょう。記者会見の時間が迫っていますので」
「え?え?」
驚きを隠せない私は、テレビの前から動けなくなっていた。
でも、相川さんは相変わらずそんな私の感情は無視して『愛梨さまの荷物は持ちました』とわざわざ私の荷物を抱えて、私の手を取る。
「急ぎますよ!」
この人の目の奥には、なにやら鋭いものがあると以前から思っていた。
その鋭さは、佑貴さんへの忠誠心を表すものなのだと思う。
私は、相川さんに手を引かれるままに会社を後にして、相川さんが運転する車に乗せられた。
「あの、どういうことですか? 私、何も聞いてなくて」
そう訴えるのだけど
「私は、佑貴さまにあなたを連れてくるようにいわれただけ。その質問は、佑貴さま本人に直接されてください」
そう返されて。
わけのわからぬまま、記者会見会場に入れられた。
たくさんの報道陣の中へと一緒に入り、相川さんに案内された席へと着く。
場違い甚だしい。
私はどう考えても異質な存在。
でも、誰もそんなことは構っていない。
今か今かと佑貴さんが現れるのを待っているようで。
その中で私もそわそわしていた。
何が行われるのか?
どうして私は、連れてこられたのか?
昨日の彼の言葉とその後の行動・・・
不安でいっぱいで涙まで出てきそう。
そんな事なんてお構いなしに、会場にアナウンスが入る。
そして、たくさんのフラッシュを浴びながら彼が姿を見せた。
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