永遠に 第5話「落ちていくように」
「あの・・・食べないんですか?」
彼はとにかく私に気を使い、いろいろと差し出すけれど。自分の目の前に置かれた食事には手を付けない。
少しずつ打ち解けられてきて、ようやく上着を脱いで、食事を始めたのはいいけれども。
こんな風に、かいがいしく世話を焼かれた事なんてなくて。
正直に戸惑っていた。
どちらかといえばこれまでは、私が男の人に手を焼く方だった。
「ブスなんだから、これぐらいはして、俺に尽くせ!」
そんなことを言うやつまでいた。
まぁ、さすがにそんな男とは、私から離れたんだけど。
佑貴さんは、食べていない言い訳を
「あなたがいる事が嬉しくて。」
と言うのだけど、ちょっと違う気がした。
たぶん、好みの食事ではないのか。食べれないわけではないけれども・・・そんな雰囲気を感じた。
言い訳をする佑貴さんをジッと見つめる。
そうすると観念したのか、本当の理由を話してくれる。
「実は、仕事柄こういうところで取る食事が多いのですが、なんというか嫌いではないのですが、飽きてしまって・・・」
確かに。豪華な食事は、たまには嬉しいけれども。こればかりだと、しんどいかもしれないと思った。
上品に食べなければいけない食事。
楽しめる食事という印象はあまりなくて。
その上、接待中の食事という印象の残るものが、彼をこういう食事から遠ざけるのだろう。
「でも、食べないと・・・」
「心配してくれるのですか?嬉しいですね。」
この人は、私がする事、成す事、とにかく褒めたり、喜んだりして忙しい。
そんな風にされて、私だって嬉しいに決まっているじゃない。
でも、なんだか翻弄されっぱなしでいるのが悔しくて、ちょっとだけ仕掛けてみた。
「じゃ、私が食べさせてあげましょうか?」
「え?」
佑貴さんの目の前にあるお皿から、彼の口へと食事を運ぶ。
「はい。あ~ん。」
「え、あ、あ~ん。」
戸惑いながらも食べた様子がなんだかおかしくて。
私は笑い出してしまった。
ふふふふふふ・・・あはははは
そんな私の様子を見た佑貴さんも、おかしくなったのか一緒に声を出して笑った。
「これだったらいくらでも食べれそうです。」
「じゃ、最後までやりましょう!」
「いいんですか?大変では?」
「ごちそうになっているお礼です。」
どこのバカップルだろうか。
誰かが見たら、鼻で笑われそうな光景を、純粋に楽しんだ。
食事の時間がこんなに楽しく。それでいてちょっと甘酸っぱい。
佑貴さんと過ごす時間にどこか現実味がなくて。
私は、いつの間にか気を許してしまっていたのだと思う。
非現実的だからこそ楽しめる時間。
だってここは、自分の家でもない。会社でもない。
あり得ないスペックで私を口説く男。たぶん、夢。
それならば、思いっきり楽しまなければ。
いつ何があって、どうなるのか分からないのが人生だから。
これがいつもの悪い癖。
でも、これが私だと腹をくくり、この時間を楽しんでいた。
食事も終わりが見えてきたころ・・・
佑貴さんが、今度は自分が質問をしたいと話を切り出した。
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