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永遠に 第10話「自覚」

同棲を申し込まれて10日。
お付き合いを始めてもそんなには経っていない。
私は、『あなたのことが好きかどうか分からない』と伝えてあって、だから彼は『これからあなたを口説く予定だ」といっていたはず。
なのに、もう同棲の話。

私は、当たり前に自宅へと帰宅している。
放っておけばこのマンションの解約手続きまで進んでしまいそうで怖くなり、実はあの後、佑貴さんとおもいっきり喧嘩をした。
いや、喧嘩じゃないかな。私が一方的に思いをぶつけて、今は連絡もとっていない。

はじめのうちは、電話にメッセージにとひっきりなしにかかってきていて。
謝罪の言葉が並べられていた。
自宅へと来ることもあった。
だけど、どれも『今は受け入れられない』と話し、突っぱねている。

さすがに10日間もこの状況が続けば、私の頭も冷静になってきて。
一方的過ぎたかな?と反省はしつつも、連絡をするきっかけが掴めずに。
今となっては、彼からの連絡もほとんど来なくなっていた。

お付き合いしている人と思いっきり喧嘩をしたのはこれが初めて。
カナ兄とは、何度もあるけれど。
これまでお付き合いしてきた人とは、一方的に欲求を言われてきただけで、私にそれが出来ないなら別れるというパターンばかり。
だから、彼氏とのけんかを始めて経験して、どうしたらいいのか分からないという状況で。

仕事もうまく手につかず。
「岡山くんがこんなミスは珍しいね」
課長にそう言われるまで気付かなかったのだけど、思いっきりミスを重ねて、いつも以上に残業する羽目になってしまった。
自分の責任だと分かっていても、なんだかやるせない。

終電さえも逃して、こんな時にタクシーで帰宅するだけの、資金的余裕は私にはない。
だから、タクシーで帰るわけにもいかず、いつもならカナ兄に連絡をするのだけど。
彼の顔がチラついた。いまさらどの顔下げて彼女面するのか?そうも思いながら。
こういう時、彼女としての甘え方が分からなくて。結局、カナ兄に連絡をして、送ってもらう事になった。

カナ兄のマンションまで会社から徒歩で良い運動になるぐらいの距離。
その間に、彼と出会った場所があって、この道にはすでに佑貴さんとの思い出の場所になりつつあった。
そんな道を通るのだから、考えないわけにはいかずに、どうしたもんかと頭を悩ませながら歩いていると、前方に見覚えのある車が見えた。
佑貴さんの車だった。

でも、この日はこれまでの良い思い出とはちょっと違った。
助手席から降りてきたのは、とても美しい女性で。佑貴さんは、私にするエスコートを彼女にも施す。
そこにある2人の空気は、とても甘く感じられて。

私は、息をのんだ。
うまく呼吸が出来なくなって。

チラリと向けられる視線。
当たり前に交わされた私と彼の視線。
はっきりと目が合ったのだけど、彼は目の前の彼女に視線を戻し、彼女の手を取ってホテルへと入っていった。

私と共に過ごしたホテルに。

心臓のドキドキが止まらなくて。
心がボロボロにされた感覚。

しばらくそこに立ち尽くし、動けなかった。

ピリリリリリ

スマホの着信音でようやく我に返った私は、カナ兄が待っていることを思い出した。
着信の相手は、カナ兄。
「もうすぐ着くから」
そう言い残してすぐに通話を終えて、カナ兄のマンションへと急いだ。

気付けば、涙を流しながら。

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