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偽彼氏にプロポーズ★ プロローグ

「お前と結婚なんて考えられない」

彼からの言葉。
なら、このままの関係が続くってこと?
朝帰りの彼に何も言わずコーヒーを出しながら、情報番組からの話題でそんな話になった。
彼は、今のままの関係が続く方がいいという。
そこで私の彼への思いがぷつんと途切れた。

ごめん。それは、私が無理。

いつかはちゃんとしてくれるんだろうそう思ってたから。
浮気してるのも知ってたし。
大切にされていない事も分かっていたけれど。
それでいいって見逃してきたんだ。

もうこの年になって新しく何かを探すのは難しいから。
だから、このまま我慢してればいいと思って・・・

そっか。無理になっていたのは、本当は自分の方だったんだな。

5年付き合った彼氏と別れて1ヶ月。
あんな彼氏でも、いなくなったことで心に空いた穴は大きくて。

「お前、最近元気ないよな」

話しかけてきたのは、同僚の小山くん。
営業部の今やエースと呼ばれる存在。
地味な私に、話しかけづらいと言われる私に、そんなことお構いなしに話しかけてくる貴重な人。

「美山さん。次の会議の資料をお願いできますか?」

直属の上司の羽村課長。
いつも丁寧に仕事を教えてくれて、今の私は彼ともう一人の上司のサポートが仕事。事務的サポートがメイン。

「そっち終わったら、こっちね。俺のも終わるまで今日は帰るなよ!」

湯村主任は、すごく俺様で苦手なタイプ。
本来、彼の仕事は私の後輩である都築さんの仕事なのだけど。

都築さんは、もうそれなりに勤続年数は長くなっているはずなのに、いつまでも仕事が出来ない後輩で。手がかかるけど、可愛い女子は許されるからうらやましい。

湯村主任の仕事まで終わらせて、帰宅時間は21時をまわっていた。
仕事が忙しいのが今は救いで。
こうやって一人になったときにどうしても寂しさを感じてしまうから。

家に帰りぽつんと一人になるのが寂しくて。
最近では、少しだけ近くの居酒屋に入る頻度が増えていた。

「千奈津ちゃん、いらっしゃい。最初はいつものでいい?」

この居酒屋の店長は、いつも気さくに話しかけてくれるお父さんのように温かい人。

「お前、また来たの?」

そんな店長の癒しを求めてこの居酒屋に通っていたのに、最近余計なのが増えた。幼馴染の3つ年上の智之兄ちゃん。

「お兄ちゃんこそ、いつもここで飲んでるよね?」

「そりゃ、弟の様子が気になるからな~」

「違うでしょ。幸也兄ちゃんがいるとおまけしてくれるからでしょう?」

「お前も同じような理由の癖に」

幸也兄ちゃんも幼馴染。1つ年上の優しい兄ちゃん。
昼間は喫茶店でバイト、夜はこの居酒屋でバイトしてて、いつか自分の店を持ちたいと夢見て頑張ってる人。

いつも智兄、幸兄とばかり私は遊んでいた。
暗くなって遅くなるまで。

智兄は、海外に留学し、そのままそこで就職した。
日本の会社に移動になったらしく、最近こっちに戻ってきたというわけ。

智兄は、いつも私を揶揄って、虐めの対象にしてきた。
地味女で、ブス女で、散々私を罵ってきた男の一人。

そんな私をゆいつ可愛いと言い続けてくれたのが、幸兄。
だから、店長に癒されに来ているのは本当。
でも、幸兄にも無性に会いたくなる時がある。
特に落ち込んでいるときなんか。

「千奈津、そのぐらいにしておけよ?」

優しい幸兄に諭されて、今日はほろ酔い気分で帰宅した。

家に帰ればまた一人。
でも、お酒にそんなに強くない私は、少し飲めばすぐ眠くなる。
帰宅後のルーチンをこなしてベッドにダイブ。
こうじゃなければよく眠れなくて。
よく眠れないと、未だに夢を見るんだ。
彼に、あのセリフを言われた夢を。

「おはようございます。今日は元気ないですね」

会社の近くのカフェによって朝食をとることがある。
そこでよく一緒になる、どこかの会社の人。
川野さんはいつもビシッとしたスーツ。
タブレット端末で何やら常に仕事をしている人。
私よりもちょっと年上かなと思う雰囲気。

「昨日、少し飲みすぎちゃったみたいで」

「それはいけません。薬、飲みますか?」

「あ、持ってるんで大丈夫です」

よく会うからと言って、仲良くなれる事は基本ないと思うほどのイケメン男性に、あるきっかけがあって話すようになった。
その男性目当てに通ってるんだろうなと思う女性たちに鋭く睨まれるのはいつもの事。
彼とは朝からたわいもない会話をするだけ。
仕事に向かう前のちょっとしたひと時。

「あ、おはようございます。美山さん、ちょっとお尋ねなんですけど・・・」

小山くんのところに配属された若い男の子が一人。
私の出社を待っていた。

「どうしたの?」

「この資料なんですけど。いくら探してもなくて・・・」

「あ~・・・それなら」

彼、佐倉くんは小山くんに次ぐエリートと言われているけれど。
小山くんの隙の無さに比べると、朗らかで可愛らしく話しやすい。
私を待たなくても、他の人に聞いても分かる質問も、必ず私に聞いてくるから可愛いなと思う後輩の一人。

こんな感じで、毎日は当たり前に過ぎていく。

結婚がどうしてもしたいというわけではない。
ただ、お付き合いしている人とその延長線上に結婚があればいいなと思っていた程度だけど。

「千奈津? 別れたんなら、私と一緒に婚活しない? 結婚相談所に登録しようよ。私たちももう若くないんだから。少しは焦らないと!」

友達の美樹は、いつも私の心配をしてくれるお姉さん的存在。
でも、少しオタク入ってて、少しミーハーなのが、彼氏が離れていく理由らしい。

「こんな私でも受け入れてくれる人を探すの!」

彼女の可愛らしさを見れば、私が男だったら嫌でも食いついて離さないと思うのだけど。
美樹に彼氏がいなくて結婚も出来ていないんなら、私にも出来るはずがないかと思っていたりする。

そんな彼女に連れられて強引に、1度だけ参加した婚活パーティー。
このパーティーは、結婚相談所への勧誘を兼ねているらしい。

そこで出会ったイケメン優月さんも、友達に連れられてきたという私と同じような理由で参加していた。
仕事はどこかの社長さんらしい。
そういう人には、そういう世界のお嬢様なんかが相手として似合いそうだけど。

優月さんは、自分で起業した会社の社長をしているのだという。だから、そういうコネづくりのようなものは初めからないのだとか。
そもそも結婚してパートナーを得ること自体も必要はないと思っていたらしいけど・・・

「この年になると周りがうるさくて」

優月さんは、智兄と同じ年齢。
確かに、このイケメン度で会社社長となると、周りは黙っておかないだろう。

そんなモテ男に何故かなつかれて。
その日はそのまま女除けの役目を担った。
お礼にと連絡先までいただいて。
どうしてこれがお礼になるのか分からないけれど。

日々は慌ただしく過ぎていく。
夏が過ぎ、秋が深まって・・・少しずつ寒くなっていく季節。
人恋しい季節に、久しぶりのおひとりさま。

いや、付き合っている時だって一人でいる事のほうが多くて。
まぁ、いつもと変わらない寒い季節がやってくると言う事だよね。
そう思おうとするのだけど。
彼氏がいるというのは、私にとって大きな支えになってくれていたらしい。

私でも好きだと言ってくれた人がいる安心感。

彼氏がいないからといって、32歳の女の生活なんて変わらずに過ぎていく。
はずだったんだけど・・・

「失礼します。私に何か・・・」

普段なら話すこともない社長からの呼び出し。
それなりに大きな会社に勤める私は、社長に顔を覚えられている自信なんてない。
それなのに、名指しで呼び出されて、何が起きるのだろうかと不安いっぱいに社長室へと足を運んだ。

「君に見合いの話が来ている」

「私にお見合いですか?」

「先方が、君が良いと言っていてね。どうだね?」

そうやって見せられた写真の私のお見合い相手は・・・
自分の親ぐらいの年齢の厳格そうな男性だった。

社長が言うには、うちの会社は今かなり経営が傾き厳しい状況で。
合併の話が持ち上がっているらしい。
そこの社長さんがこの人で。
うちに来ていた時にどこかで私を見かけたらしい。

「ひとめぼれだと仰っていたよ」

「はあ・・・」

そう言われても・・・が、本音。
だから、お断りしたいことをお伝えすれば。

「会社は破綻。君もここにいる社員も、みんなが路頭に迷うかもしれない」

なんて言うから驚いた。
ただの一社員の私に、どんな責任を押し付けるのか。

「他の案を出させるためには、君に相手がいる事だと思うけど・・・見た感じ、君に彼氏がいるとは思えないねぇ」

ジロジロと不躾な視線。
社長とは言え、これはセクハラではないのだろうか?

「それは、彼氏がいればお見合いはしなくてもいいってことですか?」

「彼氏がいるのかね?」

「います! 出来たばかりですけど・・・」

逃げるために嘘を吐いた。
彼氏が出来たばかりだと言えば、そういう相手がいなさそうなのも納得が出来るだろうし。
会社が救われた後で、別れたことにすればいい。
今はこの話から逃げるのが先決だと思って。

「なら、3ヶ月後。社長が日本に帰ってくる。その時に、お見合いをと言われていたんだけれど。その席に、彼氏もつれてくるのが条件だ! 社長も相手がいるのを見れば引き下がるだろう。厳格な人で、相手のいる人に手を出すという事をとても嫌うのでね」

というわけで。
3ヶ月、猶予は出来たけれど。
その間に、嫌でも彼氏を作らなくてはいけなくなった。

頭を抱える私を美樹が慰めてくれるけれども。
その言葉が頭に入ることはなくて。

私はこれからどうすればいいの?

あんな禿親父と結婚するなんていや!

そんな私の救世主となってくれたのは、あの人だった。


※※

新ストーリーです
今回は、乙女ゲーム風にいろんなパターンで恋愛模様をかえたらいいなと、プロローグの時点で登場人物が多くなってます。
それも、かなり強引な展開(^_^;)
こういうのが好きな方に楽しんでもらえたらうれしいです(#^.^#)



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