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永遠に 第7話「思い出の場所」

「記事についてきちんと説明させてください。」

「記者がそちらに行かないように手配しました。もう、安心してください。」

「ご迷惑をかけて、嫌われてしまっただろうか?」

佑貴さんからは、連日、このようなメッセージが届いていた。
私は、そのどのメッセージにも返信が出来ずに、既読するだけで精一杯だった。

本当は、聞きたいことがあった。
でも、今はそれよりもカナ兄の様子のほうが気になった。

カナ兄は、私を自分の実家に連れてきてから、姿を見せてはいない。
私が、仕事へと出掛けている間に、必要なものを家へと運んでくれたみたいで。でもそれ以降、嵐くんも連絡取っていないと言っていた。

こんなこと、これまでになかった。

カナ兄が姿を見せてくれて泣いたことはいくらでもある。
小さい時に、学生の時に、父が亡くなったときに。
いつも、そばにいてくれた人。
彼氏よりも、好きになる人よりも、それ以上に大切な人。

いつだったか友達が、「カナ兄のことを好きにならないのか?」と聞いてきた人がいたのだけど。
私にとっては「兄」であり、「ヒーロー」であり、いつ別れが来てもおかしくないそんな存在よりも、大事な人であることを話したことがある。
その子には「変だ」と言われたっけな。家族以上に家族だったカナ兄を失う事はまるで考えられなかったから・・・

佑貴さんからの連絡通り、記者の人に付きまとわれたのは、あの日だけだった。そもそも、その話題もそんなに世間を騒がすことなく、次の話題へと移り変わっていたから。
日常は、何も変わりなく毎日が過ぎていた。

なのに・・・落ち着かない日々が続いた。

とりあえず、危険は無さそうだから家に帰ろうかとも思ったのだけど、今はカナ兄との約束を守る以外に、カナ兄との関係を守るすべが分からなかった。

呆れられたのだろうか。こんなに簡単に男の人についていく私に。
結局は私も、私が嫌うあの人と同じじゃないかと・・・
そう思って、こんな自分を誰よりも自分自身が嫌いだった。

あの日から1週間。
佑貴さんからの連絡は、短いながらに毎日。
最初は、少し慌てた様子のメッセージだったのが、徐々に少し不安や寂しさを垣間見せる内容に変わってきていた。
連絡をしたい気持ちはあった。
でも、カナ兄からの連絡を待つしか、私には出来なかった。

カナ兄からの連絡は、この1週間何もなかった。
そういう私も、カナ兄に何も連絡が出来なかった。
毎日のように、なにかに集中しているとき以外は、スマホを見る癖がついた。
連絡が来ていないか気にしてばかりいた。

身体や心の疲れに気付けないままに・・・

普段は残業だらけの私だけど、休日出勤はほぼない。
休日出勤はあまり良い顔をされない事もあって、残業でどうにかしているからなんだけど。
だからこの週末をどう過ごそうかと思っていた時に、ようやく待ちに待った連絡が入った。

「あの人と話した。愛梨に話したいことがある。」

場所と時間が書かれてあった。
その場所は、カナ兄との思い出の場所だった。

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