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ぐるぐるまわる

「今日新宿で飲み会するから!」

休日15時過ぎに突然送られてきたメッセージ。いつだってこの人たちは突然すぎるし雑なんだけど、なんだかんだそこに救われてきた自分がいる。

メッセージと一緒に送られた画像は、2分後に私の最寄り駅初の時刻表。新幹線使って3時間強。いや無理無理無理。てか私今実家に帰省中なんだけど。
そんな返信をしたら「どゆこと」って書いてあるスタンプが送られてきた。こっちが「どゆこと」だ。


学生を卒業してから2年と少しが経った。大学時代を過ごした土地を離れた私は、彼らと会う頻度は必然的に減ってしまったけど、なんだかんだぼちぼち連絡は取っている。

わかってて社畜になりにいってるのに、珍しく最近心が折れかけてるあいつ。
ひま電のノリで、お互いの中間地点あたりに研修で来るって言うから、私と近くで働いてる後輩と遠出したんだけど、日にち1週間ずれてて結局会えなかった彼。
配属が遠方でわりと近かったのに、東京に異動で戻ったことで後輩から裏切りだと言われてしまっている彼。
明日から連休明けで仕事なのに、結局いつもの流れで帰るのに失敗して二次会に連れてこられたあの子。

ただの同じ学校だったら、ただの同じクラスだったら、絶対仲良くならないだろう、絶対このメンバーで集まらないだろう人たち。仲良いかって聞かれたら答えに迷うけど、笑ったり怒ったり泣いたりしながら、私はこの人たちと活動してきた。




今の会社に入って3年目。
3年目っていうと3年間働いたみたいに聞こえてあまり好きじゃなくて、正確には2年と半年未満だ。当たり前かもしれないけど、会社という組織とこれまでの学生生活は全然違っていて。まだ慣れないことの方が多い気がする。

慕っていた先輩が退職した。
誰しもが認めるベテラン社員さんが退職した。
一番大きい異動で部署のベテランとこれまでのリーダー層がごっそり抜けて、謎に私が部署歴だけは長いメンバーになった。
一番尊敬している先輩が昇進して、別の部署に異動になった。
ひとつの部署が解体されて、別の新しい部署が立ち上がった。
完全未経験で入ってきたスポーツやってた社員が、ぐんぐん成長してムードメーカー的存在になった。
今年新卒で入ってきた新入社員が、辞めたいって泣いた。
今は力合わせて頑張ろうって言ってる先輩が、実は数ヶ月前まで辞めるって上に断言してたことを知った。
入社時からの教育担当だった先輩が、他部署の助っ人で異動したと思ったら、もうすぐ転職で退職するらしい。


部活だってサークルだって学部だって、辞めていく人もいれば、新しく入ってくる人もいる。でもなんかこれまでの学生生活とは全然違うように感じる。
やりがい、給料、福利厚生、精神的安定、組織との相性、判断基準は人それぞれだけど、何かが違うと思った時に、学生みたいに縛られず、意外とあっさりと変わってしまうことに、私はまだ慣れていない。

転職ありきで就職した。今はそういう時代だって誰より思ってたはずだった。どこかで、私の方が先に辞めると思っていた。決してマイナスな理由ばかりではないにしろ、いろんなところで簡単に人が入れ替わっていく流れが少しショックだった。




新卒の子は、外面が良い子だった。しっかりしているように見える子だったし、そう見せられる子だった。「頑張ります」「大丈夫です」と言ってしまう子だった。自分で言うのもおこがましいけど、なんとなく私も似ているところがある子だった。もっと見てあげなきゃいけなかった。
ある日、その子の糸が切れてしまった。


大きな異動のバタバタで入ってきてしまったから。丁寧に教えられなかったから。引き継ぎが疎かすぎたんだ。周りもみんな余裕がない時期だった。でも上ももっと異動の時期は配慮できたんじゃないか。環境が違えばもっと頑張れる子だった。もっと本音の部分を聞き出せたらよかった。でもあの時のあの環境下だとああするしかなかった。

いろんな人と話して、いろんな人がいろんなことを言った。たくさんぐるぐる考えた。
なんて言えばよかったのかな。力強い言葉で引っ張っていけたらよかったのかな。全て優しく受け止めて肯定できたらよかったのかな。無理にでも仕事の内容を一から十まで確認してたらよかったのかな。
仕事をしてると、大変なことも嫌なことも出てくる。絶対に乗り越えなきゃいけない壁も山も谷もある。時には厳しいことも言わなきゃいけないし、でもフォローもしなきゃいけない。
時に厳しく時に優しくなんて言うけれど、いろんな役割を一人でこなすなんてどうやったらできるだろう。進んで嫌われ役を買ったならば、信頼と安心はどうやって示せばいいんだろう。
こちらが乗り越えられると思った山を乗り越えられなかった時、そこで糸が切れてしまった時、一度きりで、もう元には戻れないんだろうか。何を言ってももう効かないんだろうか。

前に新人の子が3ヶ月でリタイアした時、以前の上司は私に気軽な相談役になっててほしかったんだと言った。同じことは繰り返さないと誓ったのに、なんでまたこうなっちゃうんだろう。
偉大な先輩たちが異動してもしっかり回せるようにと思うのに、がっかりさせたくないのに、顔向けできないなんてことにしたくないのに、正直全然回ってない。


そんななかでも自分の仕事は降り掛かってくるし、後輩が抜けた分の仕事だって負担しなきゃいけない。その子以外の後輩の面倒だって見なきゃいけないし、そもそも今の部署の基盤を作るのに精一杯。
私は大丈夫。だってそういう時期はもう乗り越えたから。私はこれくらいのことはもう一人でこなせる。そう思ってやってても、流石に1日にいろんなことが重なると、ふとしたことがとどめとなって感情が溢れ出して、気を張っていた自分に気づく。



部署がいっぱいいっぱいで、新人のことも今後の部署のことも考えなきゃいけなくて、でもやっぱり私は敷かれたレールより1から考えていく方が性に合っていて、愛着も湧いてきてた組織だから、より何とかしなくちゃって思って、
これまで働いてるなかで一番一生懸命で、やりがい感じて前向きに頑張れてて、気合が入ってることが嬉しくてすごく悲しくて複雑で。
「考えることをやめない」を「やめる」ことをやめれたことが、いいのか悪いのか、これかやめれたことになっているのかわからなくて。


ぐるぐる、ぐるぐるぐるぐる、自分の頭の中で考えて、相談はあくまで相談で、議論ではなくて、こんな時大学の時だったらどうしたっけなって思って。



あの時私たちは一枚岩だった。トラブルがあった時、一斉にメンバーが減った時、後輩の指導で悩んだ時、今後の組織をどうしていくか考えた時、ぶつかったし見栄もはったし泣いたりしながら、でもそれぞれが考えてることはなんとなく皆わかってた。そういう話なら、飲みながら何時間でもできた。

会社の人間関係にはものすごく恵まれている。皆いい人ばかりで、だからこそ愛着も湧いている。誰が悪いとかではなくて、ただ、働く人にとって当たり前にあるような変化を、自分ごととして捉えきれてなかったんだと思う。ずっとどこか他人事だったんだ。そしてまだその向き合い方を掴みきれていないんだと思う。




私たちの集まりも、今まだ繋がっているのがすごいことだと思う。てんでばらばらな土地にいるのに、誰かと誰かは連絡をとっている。

浅草のホッピー通りで飲んだ帰りにあいつが言ってたことがある。
「ストリップショーを初めて見た時に、何がすごいかはわからないんだけど、何でかすごく惹かれるものがあって、ただ終わるとやっぱり何が良かったのかわからなくて、でもわからないからやっぱりまた足を運んでしまう。この集まりも、何が良いのかわからないけど、なんか毎回来ちゃうんだよね。でもやっぱりなんでかわかんないんだよね。」
そんなこと言うから、笑いながら言ってやった。
「わかんないんだったら、次もあるね」




大事にしたいものは、自分から大事にしないといけないね。

無茶な2分後の時刻表を送りつけてくれる人たち。たまには私から誘ってみようか。
定期的にひま電くれるあの人。たわいもない話に正直救われているところもある。今度そんなこと言ったらびっくりしちゃうかな。
定期的にオンライン飲み会している友人。この前はこっちに来てくれたから、今度は私が会いに行こう。
久しぶりに会いたいって連絡くれた友人。なかなか予定は合わないけど、今度こっちから会いに行こう。
最後に会ってから1年経つ友人。そろそろいろいろ話したいんだけど、私から連絡とってみようか。
たくさんお世話になった恩師。相談したいことは山ほどある。懐かしいとか言う前に、会いたいと連絡してみよう。
いつも旅行を企画してくれる人たち。今度は私からここ行きたい!って言ってみようかな。


みんな環境が変わって、きっと人間関係も会いやすさも変わって、やっぱり会わなくなる人もいて、それでも大事にしたいものは自分から大事にしないと、どんどん離れていっちゃうもんね。



あたまのなかぐるぐるで、もうどこにいきつくのかわかんないな。

「憂の中より希望は芽吹く。多事多難を心せよ。」
久しぶりに引いたおみくじに書いてあった。大変なんだな、しんどいけど頑張ってみるか。
まだまだ未熟だけれど、まだもうちょっともがいてみようと思う。

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