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“ウォン・カーウァイ(王家衛)”監督の映画その2 〜ブエノスアイレス〜



南米アルゼンチンの眩しい太陽
イグアスの滝の圧倒的なパワー
そしてブエノスアイレスの街。
響くバンドネオンの音。
タンゴを踊る人々。


主演はレスリー•チャンとトニー•レオン。
光と影をまとう2人の姿。
全編を彩るのはバンドネオンが奏でるアストル•ピアソラのエモーショナルなアルゼンチンタンゴの曲。


2人がキッチンで踊るアルゼンチンタンゴがとても綺麗だ。


恋愛がもたらす美しさ、優しさ、楽しさ、
そして愛する喜び、愛される幸せと
やがて終わりゆく恋愛がひっそりと醸し出す切なさ
綺麗なことだけではない生命力とエネルギー
それらの永遠と一瞬を切り取っている。

映像は南米の強い日差しの中、
光と影をはっきりと映し出しながらストーリーが少しずつすすんだりとまったり。


なめらかなハートにざらついた時間が、
小さな傷をつくりだしていく。
そんな悩みをかかえた日々。


直視したくない終わりかけの恋愛。

どこまでもすすんで行きやがてイグアスの滝にたどりついたように逃避行でもしたくなる気持ちがよくわかる。

もどってきたブエノスアイレス。


ほんの少しだけふと顔をのぞかせる恋の予感。

毎日の生活の中に息づくアルゼンチンタンゴ。




この映画で私はすっかりピアソラのアルゼンチンタンゴに魅了された。
いわゆる社交ダンスと言われるソシアルダンスやボールルームダンスでよくきくタンゴとは全然ちがう。
あの優雅な雰囲気とはまったくの別物だなと思った。


メインメロディの激しいほどの情熱と
ベースとして根底にある落ち着いた旋律
永遠と刹那。
美と醜悪。
生と死。

ピアソラが演奏するその姿は静。
情熱的なタンゴのリズムは動。

踊るその姿は静かに
2人のからむ目線は雄弁だ。


アストル•ピアソラのリベルタンゴはCMに起用されたりしたので聞き覚えのある人も多いかもしれない。




私はアルゼンチンタンゴしかり、フラメンコしかり、
ラテン系の国の音楽になぜか惹かれる。

ラテン系というか移民の歴史のある国とその人々といってもいいかもしれない。

悲しみのあとに湧きあがってくるようなゴスペルやブルースやソウル。
一度は禁止されてしまったハワイアンたちのフラやカヒコ。
流浪の民たちが夜な夜な踊りあかしているようなジプシー音楽。
アイリッシュたちのハーモニーとバランスのとれたメロディが美しいケルト音楽。


迫害される厳しい環境やきつい仕事が終わった夜に、
音楽を奏でることで、
ダンスを踊ることで、
歌を唄うことでなんとかその日を終わらせ明日を生きるパワーにかえてきた人々。



それらの音楽がもつパワーふれると
どうしようもなく心が惹かれ、体が自然とリズムを刻みだす。

音楽を体中で感じてこころのままに歌い踊る。
アルゼンチンタンゴでもフラメンコでもゴスペルでもソウルでもなんでもいい。



たまにはそんな夜を過ごしてみよう。


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