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離婚式 34
深呼吸をして心を整えた。
この一夜で、罪をいくつ積み上げるのか。
この一夜で、無垢の命をいくつ奪うのか。
初めは些細な理由だった。
標的として調査を進めていた佐伯のスマホに細工をするためだった。自分のスマホにはSRAMにハックウィルスを仕込まれている。神崎の職域に類するものだと思う。佐伯は薬物で眠らせて、彼のスマホにウィルスを感染させた。ここで引いて置けばよかった。
一石を投じてしまったのは寧々だった。
何故か、いやそれは分かっている。ボクのスマホには彼女がスパイウェアを仕込んでいた。ロックを外して彼女に渡したことが、一度だけあった。
その二つの生命は、あのラブホテルの床に沈んでいる。
発見はこの早朝になるだろう。急がないといけない。
下着のままでこの部屋にいる。
椅子に緊縛した肉体がある。
目隠しをして口を塞いでいる。
拘束具の玉を咥えているのだ。
唇の端から泡立った唾液を垂らしている。
ボクの立ち居を肌で捉えて、怯えている。
ベッドには四肢を拡げらえて昏睡している女がいる。
手首、足首をベッドの足にきつく結んでいる。彼女にも、一糸も纏うことは許していない。
このふたつの命もこの掌のなかにある。
オーブンから湯気を散らしている金串を持っていく。金属の焦げた匂いがする。神崎が椅子の上で藻掻き始めている。それが何だということを理解しているし、想像もしているだろう。
「あら、お元気ね」と普段通りの声音で優しく語った。
「ボクもね、これ以上の血は見たくないのよ。食傷しているの」
金串でそっと肩に触れてやる。
電撃でも受けたように激しく動いた。
視界を塞がれているので苦痛が心理的に拡張されている。
「話してくれるかしら」
脂汗を垂らしながら頭部を何度も振り続ける。
それはすっかりと弛緩して斜めに横たわっている。それを指先で摘まむと更に激しく頷きを繰り返す。それを串刺しにされるともで思ったのだろう。
「じゃあまずYes,No,で回答できる2択から始めるわ」
口を切った。
「貴方はθの職員ね」にはYesの回答。
「ここはθのセーフハウスなの?」の回答はNo。
「じゃあ自前なのね、セキュリティに関しては弱いのね」
「ボクがここから逃げる方法を知りたいなあ・・・」
と視線を向ける。反応は画一で分かりにくい。
「方法はあるの?」がくがくと首を振る。
「じゃあ喋れるようにするけど、声をあげるとまた酷いことをするかもね」
後頭部のベルトを緩めて、拘束具に余裕を持たせた。玉を含ませて喰いしばれない程度に。舌を噛み切れない程度に。
「タブレットを起動させて欲しい。それでこの近隣のPCは全てホワイトアウトする。その間隙をつけばいい」
動きの悪い舌を縺れさせながら、彼は必死に答えた。
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