sepia colored
不思議なことに。
別居離婚をして。
僅かな眠りを拾うように集めていて。
それでも朝がまんじりと明るくなっていくのを、腹立たしく思っていた頃。街が眠りから醒めようとしていても、身体にはやるせない衝動が血管を流れていて覚醒したままだった。
その頃は、妻の夢は殆ど見なかった。
不思議と小学生からの、掠れてしまった記憶が順番に蘇るのを体験した。脳内で気遣っているのか、半生を追体験するように、辛くて生々しい感情には触れないように、きちんと迂回を果たしてくれた。
幼き頃の古写真はすっかりとセピアに色褪せてしまい、正確な色味はないけれど。夢で見る光景は現実そのままの再現だった。
夢の中で。
ちっぽけな初恋を掴み出して。
初めて触れた桜色は柔らかく。
ぎょっとした瞬間に目覚める。
背中を濡らしている汗を拭う。
ああ。
同心円のトラックを白線に沿って、まだ懸命に走っているだけなのかと判る。
ゴールなんて、遠く遠く。
霧の向こうで、気配だけ。
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