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LOVE ALL SERVE ALL

藤井風のセカンドアルバムが非常にいい。

人生は一度切りだし、命は大切なものだ。そういった当たり前の事実を大切にしながらも、自分なりに前に進んでいこうという人生観は前作から一貫している。今作ではそこに、日本的な自然の美しさが表現方法に取り入れられている。失うことすらも承諾し、出来事全てを受け入れる心をベースにした楽曲は、「すべてを愛し、すべてに役立つ」という力強いメッセージが決してチープにならない。

アルバムとして一貫したストーリーがあり、楽曲一つを抜き出して評価するのも憚られる。しかし、話したくて仕方がないのも事実である。

例えばオープニング曲の『きらり』、メジャーに受け入れられやすくキャッチーなサウンドだが、これだけ世間的に浸透した曲ですら、アルバムの雰囲気を乱さない。「動機は愛がいい」「私は君がいい」など、わたしが知る限りでは、藤井風が個人的な「愛」に関してわかりやすく歌っているのはこの曲が最初だと思う。そして続けて次の『まつり』では、「愛しか感じたくもない」と始まり、毎日が愛しい日々だと歌う。アルバムのオープニングとして、全体的なメッセージの筋道が明示されている。

その先も一貫したストーリーが展開される中で、面白いのが『damn』だ。サウンドだけ聞くと非常にノリが良く、アルバム中盤の盛り上がり曲くらいに思えてしまうが、歌詞はそれまでの藤井風と違い、非常に内生的な内容になる。『帰ろう』で歌った「全て流して帰ろう」、『きらり』で歌った「何もかも捨ててくよ」、『燃えよ』で歌った「明日なんか来ると思わずに」、これらの歌詞に対して、それで「どうした?」と問いただす。言うのは簡単だが、実際にできているのかという、自分への戒めであり、葛藤が伺える。タイトルにあげた強いメッセージを伝えても、実際にそう簡単には変わらない世界に「Damn it!」と言っているように聞こえる。

ラストは当然、『旅路』だ。これはファーストアルバムのラスト、『帰ろう』のアンサーソング的な位置付けになる。人生が「旅路」であれば、その終わりは家に「帰ろう」となるわけだ。初めて聞いた時は、なんでこんな軽い音をつけたのだろう? と好きになれなかったのだが、完全にわたしの誤解でスルメ曲だった。これはもううまく表現できなくてもどかしいが、とにかくいい。わたしの中で藤井風のお気に入りと言えば、この組曲とも呼べる2曲だったのだが、今作のアルバムで圧倒的に好きな曲が更新されてしまった。

それが『ガーデン』だ。とても美しい。アルバム全体を通して組み入れられていた自然なものを愛する姿勢が、この曲でも存分に組み入れられている。育つものと失うものが交わいながら時が流れ、その美しさを味わう人生の儚さ、尊さが、しみじみと感じられる。そんな歌詞の、メロディーへの乗り方が本当に心地いい。曲の作り自体は非常にシンプルだ。オルタナティブ邦ロックのような空気さえある。メインとなるメロディーはAメロとサビしかない。その2種も、導入のコードは同じだ。そのシンプルさが聞き手の感情と強くフィックスして、没入しやすくなる。そして、後半の盛り上がり。ここに藤井風のR&Bの手法と歌唱力が存分に活かされている。シンプルなのに飽きない。技術があるから展開も上品だ。一生聴き続けたい名曲だ。

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