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AIの未来について学ぼう講座 開催レポート

2024年8月24日土曜日、愛知県豊田市にてAIをテーマに、中学生のみんなと一緒にAIの未来を学ぶ、考える講座「AIの未来について学ぼう講座」を豊田市科学技術教育振興会主催のもと開催しました。講師として、私、大学院1年生の土橋と、学部4年生の江刺、飯田が参加しました。



「AIの未来について学ぼう講座」の進行を行っている土橋

今の時代、どんどんAI技術が発展していく中で、「AIはどんなところがすごいの?」「AIって人の仕事を奪っちゃうの?」など”AI”という単語を色々なところで多く聞くようになったとともに、さまざまな想像がされていると思います。そんなAIについて、1人1人が当事者意識を持ってAIと関わってもらえるようになることを目的とし、生成AIを用いたポスター生成や、オリジナルカードゲームを使用したAIの未来を想像するゲームなど、さまざまなコンテンツを一緒に楽しみながら学んでいくことのできる講座を行いました。
講座には豊田市の中学生25人(午前:13人、午後:12人)が参加し、全体通して活気あふれる会になりました!
この開催レポートでは、どんなことを中学生のみんなとやったのか、どういった考え、気持ちを持ってこの講座を行ったのかなどをお話ししていければと思っています。まずは、講座の始まりであるアイスブレイクからお話ししていきます。

好きなSF作品は何ですか? 我々はドラえもんをつくっています。

講座を開始するにあたり、まずはこの会に参加しているみんなで一緒に勉強をしていくんだという気持ちを作っていくために、「好きなSF作品は何ですか?」をテーマとしたアイスブレイクを5分ほどグループに分かれて行いました。

「映画とか見ないからあまりわからないけど・・・ドラえもんは好き!」

アイスブレイクを各机ごとに行っている様子

そう伝えてくれた中学生のAさん。映画は普段あまり見ないし、ゲームも普段からそこまでしないためSF作品について非常に悩んでいる様子だったのですが、ふと思い出したかのように「ドラえもんは好き!」と笑顔で伝えてきてくれました。さすがドラえもん、人気度は最強クラス・・・
今回好きなSF作品を聞いた目的としては、みんなの好きな世界観や将来の姿は何なのかを知るとともに、一緒に未来を想像していくための準備として、SF作品の話をすることで想像力を一緒にはたらかせていきました。そして、目的はもちろん次の話をするためでもあったのです。

「我々、ドラえもんをつくっているんです」

中学生たちの反応を見ている土橋

そう、大澤研究室のテーマでもある、ドラえもんをつくる。講座が始まり、グループワークである程度場がほぐれてきた中で放った、満を持しての一言でした。
果たして中学生たちの反応は?

中学生たち「・・・ん?」

はい。そういった反応になりますよね。知っていました。急に言われても訳わかんないですよね笑
今回の講義の中で扱っていくテーマであるAIですが、今回はAIの凄さ、AIの有能さをただ伝えたいわけではありません。AIの技術が将来もっと発展していった先に、みんなはAIとどう生活をしていくのか。この講座の時間は、近い未来の楽しい想像をしてほしい。そのために、ここで”ドラえもんをつくっている”ことを伝えることで、みんなの思考の矢印を整えたかったのです。その後詳しく伝えるとみんなはにっこり。よかった。

ここまでで、講座の空気感はだんだんと出来上がってきました。参加者みんなで楽しく未来の想像をしていくための環境づくりは完了です。 では、未来の想像をするために現在のAI技術はどんなものなのか、そもそもまずAIって何なのか、基本的なお話を土橋と江刺がとある”形式”で説明していきます。

AIってそもそも何? AIの技術をみんなで学ぶ。

AIができることについて、例を用いて説明している土橋と江刺

未来の想像をするには、まずは現在のAIについてのお話を聞いてもらわなければいけません。ただ、”講義形式”で淡々と説明していくのは、今回の講座にそぐわない。そう考えた私たちは、土橋と江刺がそれぞれ質問や感想を言い合いながらAIの説明を進めていくという”トーク形式”で行うことにしました。
AIって何ができるの? そんな疑問を解消すべく、さまざまな場面の活用例をお話ししました。また、今回は愛知県豊田市での開催だったため、豊田市で実際に活用されている例も紹介しました。「自分の住んでいる街にも実際にAI技術が活用されているんだ!」と感じてもらうことで、AIとの心の距離を近くして欲しかったのです。ねらい通り、中学生たちは真剣かつ笑顔で時折うなずきながらしっかりお話を聞いてくれました。よかった。

豊田市で活用されているAI

豊田市でのAIの活用例ですが、今回は2つの事例を紹介しました。
1つ目は「豊田市 AIチャットボット」です。AIを活用した総合案内サービス、「豊田市 AIチャットボット」は豊田市に関する質問、問い合わせを入力スペースに自由に入力することで、AIが自動的に質問の回答をしてくれるサービスです。
2つ目は「自動運転バス運行実証」です。豊田市では、自動運転バス運行実証の実施を行なっています。将来、自動運転レベル4(高度運転自動化)の実現に向けて、自動運転レベル2(部分運転自動化)での自動運転バスを、実際に乗客を乗せ運行をするテストを行なっています。
思ったより近いところで、たくさんAIの活用がされていることを一緒に学ぶことができたと思います。このほかにも、豊田市ではさまざまなICT活用をされており、とても素敵だなと今回の講座を企画していく中で感じることができました。
AIを活用した総合案内サービス(AIチャットボット)|豊田市
報道発表資料 自動運転バス運行実証実験の開始について|豊田市

みんなも知っている生成AI

AIのお話をしていく上で、やはり欠かせないのが生成AI。私たちは生成AIを使った研究を行なっていたり、そもそもChatGPTを普段から使うことが多いのですが、中学生って生成AIは知っているのだろうか・・・そんな不安を少し抱えながらこのテーマに入りましたが、そこはさすがの中学生たち。普段から利用している子たちも多く、生成AIの説明もスムーズに行うことができました。
生成AIを知っているかどうかについて、準備段階では正直想像がつきませんでした。なので今回は生成AIを知っていても、知らなくても、みんなで生成AIとの触れ合いを楽しく体験できるような、とあるワークショップを考えてきました。ワークショップでは一緒に行なった中学生たちはもちろんのこと、講座を見学している親御さんや豊田市の職員さんまでもが大盛り上がり。全員で楽しみ、そして学ぶといった今回の目的にとてもマッチしたワークショップでした。このワークショップは講座の準備を一緒にしてくれた江刺が考案してくれました。

ワークショップ1:生成AIに豊田市の魅力を表すイラストを描いてもらおう!and生成AIを応用している事例の紹介

豊田市の魅力を生成AIと一緒に

せっかくなので豊田市に関係したワークにしたいと思っていたところ、江刺がとても良いワークを考えてくれました。そのワークの内容とは「生成AIに豊田市の魅力を表すイラストを描いてもらおう!」でした。豊田市の魅力をグループワークにて話し合い、箇条書きでまとめていきます。その箇条書きでまとめたものを、用意していたプロンプトとともにChat GPTに投げることでイラストを出力してもらうといった内容です。どんな絵が出力されるのか、また出力された絵は豊田市っぽい絵になるのか、参加者全員で楽しみながら話し合いました。

講座時に使用したスライド①
講座時に使用したスライド②
講座時に使用したスライド③


すごい!ポスターみたい! ん?五平餅が・・・?

生成された画像を中学生とともに見ている場面

今回、グループを3つに分けてワークを行なったため、3つの絵がそれぞれ出力されました。各グループで豊田市の魅力を出し合いましたが、みんなどんどん出てくる!ここまで自分の住んでいる市の魅力を言えるのって素敵だなと心から感じました。どんな絵が出力されるのか一緒に考えていると、想像がつかない・・・と言いつつ、とても楽しみな表情のみんな。そして、運命の出力のお時間が来ます。

運命のお時間、絵が出力されるとみんなは大盛り上がり!中学生たちが、自分で考えた魅力が反映されている箇所がどこか探す姿が印象に残っています。

しかし、出力された絵に何か得体の知れないものが絵にはありました。何を出力しようとしてこうなったのか。箇条書きした魅力を見直してみると、なんと五平餅っぽい。五平餅がおかしい形で出力されたり、全く関係ないところにローマ字でGOHEIMOCHIと書かれていたり・・・
1つ1つ注目して絵を見てみるとおかしいところもある。今のAI技術はまだ完璧ではないと、ワークの中でみんなとともに理解することができた瞬間でした。

完璧でない生成AIだからこそ、人間とAIがともに行うことができる。

先ほど行ったワークショップの中で、やはり今の技術では完璧な絵を出力することはまだ難しいということがわかりました。ですが、そんな完璧ではない生成AIを応用している方たちがいます。生成AIをただ使うだけでなく、その先に自分のオリジナル性をどう表現していくのか、生成のその先にどう扱っていけばいいのか、今回の講座を受けてくれた中学生のみんなに生成だけで終わってしまわないように、生成AIの面白い使い方をしている方たちの紹介を行いました。

まず1つ目は、内山 琴子氏についてのご紹介です。内山さんは普段イラストレーターとして活動されている方です。そんな内山さんは生成AIに自分の絵を学習させることで自分の絵に似ている絵を出力してもらい、その絵を自分の手で描き直す、描き加えることを行なっています。生成された絵の少しおかしいところ、自分で少し直したい、工夫したいところを描き直すことで1枚の絵を描くことができます。生成AIの完璧でないところを人間のオリジナル性でプラスに変えていく。紹介している私たちも興味を引き立てられる素晴らしい活動だなと感じました。
そして2つ目。こちらは土橋が長期インターンで参加している株式会社アラヤのチームであるVisionary Labより、ExpAInterの紹介を行いました。このExpAInterは画家の真田 将太朗氏がこれまで描かれてきた絵をAIに学習させ、真田さんがキャンバスに描いていく絵を都度AIに認識させます。認識させることにより、AIは真田さんがどのような絵を完成させるのかを考え、その結果をプロジェクターにてキャンバスに投影します。投影された生成AIによる絵を真田さんが見て、描こうと思っていた絵に近いのか、逆に全く違う絵なのか、自分では想像していなかったがとても良い提案かも知れない。このような生成AIとのコミュニケーションを何度も繰り返していくことで1枚の絵を共創する、そんなプロジェクトとなっています。
Visionary Labは「空想に輪郭を。」をテーマに、他にも様々なプロダクトがあります。ぜひご注目ください。
ExpAInter⼁Visionary Lab

AIの今後ってどうなるんだろう? AIとの共存を目指したい。

AIについてみんなで楽しく学んできましたが、やはり外せないのがこの話題。AIって今後どうなっていくのだろうか。現状完璧でないとはいえ、ここ最近のAI技術の進歩は凄まじいものになっています。このままどんどん進歩していった先には何が待っているのでしょうか?私たちは2045年シンギュラリティ問題の話を出しつつ、やっぱりAIと共存していく世界を目指したいよねと話しました。ここから、AIの話からHAIの話へ移っていきます。

心を感じる、人間とAIが協力し実現するHAI。

世の中ではAIが人間の仕事を全て奪ってしまう、AIに支配されてしまう、そんなことを考える方も少なくありません。確かにシンギュラリティのお話などを聞くと私でも怖いなと思うこともあります。ただ、AIはAIが得意なことをし、人間は人間が得意なことをする。2つの力が合わさってより良いものが生まれていく。そんな考え方もあります。HAI(Human-Agent Interaction)では、人間とエージェントと呼ばれる存在の相互作用の研究を行っており、心を感じさせることで引き起こされる人間の行動変容、AIとの自然的なコミュニケーションの実現などを目指しています。まさに”のび太とドラえもんの関係性”の研究です。
研究事例や、HAIでよく扱う基本的な考え方などをお話ししながら、簡単なゲームとともに学んでいきました。そして、次に今回の目玉コンテンツの1つが行われます。

ユカイ工学のロボットと触れ合ってみよう

ユカイ工学のロボット(Qoobo)と触れ合っている様子

HAIの知見が活かされているロボットをぜひみんなにも体験してほしい!と思い、今回ユカイ工学さんにサンプルを提供していただき、中学生のみんなにユカイ工学のロボットと触れ合う時間をつくりました。体験したのは「甘噛みハムハム」と「Qoobo」です。体験したみんなはとても楽しそうに、一人ひとりしっかりと感想を考えながら触れ合ってくれました。
みんなにはそれぞれ感想シートに書いてもらい、ユカイ工学さんにお送りしました。感想の中には、「Qooboの毛について、サマーカットみたいなものがあったらいいな」「Qooboのチャックが見えないように、毛でもう少し隠せないかな」など、自分たちなりの改善案、アイデアが書かれていました。
中学生たちの純粋な感想、届くといいな。

ここまでAI、生成AI、HAIのお話をしてきました。中学生のみんなもそろそろAIとは何なのか、AIとどう向き合っていくべきなのか、それぞれの考えが何となく生まれてきた頃合いでしょう。その何となく自分の考えが生まれてきているタイミングで、ラストのワークショップを行いました。

ワークショップ2:AI 2045 〜The Future of Technology〜

土橋が自作したカードゲーム。内容からデザインまで全て1からつくりました。

将来のAIはどのように使われるのか、中学生のみんなには自由な発想をしてもらいたい。そんな思いからオリジナルカードゲームを制作し一緒に遊ぶワークショップを土橋が企画しました。基本的な流れとしては、画像生成や自動制御などAI技術にまつわるカードのTechnologyカード、公園や学校など場所にまつわるカードのSceneカード、この2つを掛け合わすことで、新しいアイデアを考えます。
新しくてオリジナルなアイデアを考えられるように、今回は以下のような物語設定にしてみました。

2045年、世界はシンギュラリティを迎え、“AI2045”という超最新型AIが日常生活の隅々にまで浸透していた。
医療から教育、交通から娯楽に至るまで、すべてが“AI2045”によって最適化され、運営されている世界。
そんな未来の日本にタイムスリップできると我々は知った。未来の日本でどのような生活が営まれているのか。
そして“AI2045”がどのように人々の生活を変えているのかを知るために、タイムマシーンで冒険の旅に出ることを決意する。
果たして、2045年の日本で活躍している“AI2045”の正体とは――。

このように2045年と場面を設定することによって、現実的な案ではなく意見を自由かつオリジナルなものにできると考えました。みんなで一緒に未来を想像し、その未来が良いか悪いか、この未来で生きていきたいかどうかなど、さまざまな視点でそれぞれの意見を聞くことができました。

中学生のみんなの思考力、見習いたいです。

グループ内で発表をしている中学生

中学生のみんなが考えたアイデアは驚くものばかりで、中には実際に研究されていることであったりプロダクトとして開発されていっているものが出てきました。中学生たちの思考力は無限大・・・
さらにエクストラステージとして、Sceneカードを「豊田市」と指定し、ランダムで引いたTechnologyカードと「豊田市」の組み合わせによるアイデアを考えてもらいました。ここでも中学生のみんなの脳は冴え渡り、素晴らしいアイデアをどんどんと考えていました。豊田市の職員の方々も興味津々で、それぞれ出たアイデアをメモに残されていました。
ここまで進行してきた「AIの未来について学ぼう講座」ですが、いよいよエンディングに入ります。

参加してくれた中学生のみんなに心から感謝したいです。

ここまで一緒にAIの未来について、一緒に学び、一緒に想像してきました。気づけばもう終了のお時間が近づいていました。最後に我々が大学でどんな研究を行なっているのかを簡単に紹介するとともにそれぞれ感想を言い合い、会は無事終了いたしました。


今回の目的である「1人1人が当事者意識持ってAIを関わってもらえるようになる」について、AIと関わっていく、AIについて考えるきっかけをつくることは達成できたかなと考えています。講座では、「こんなことができるんだよ!」「人間とAIが協力する未来が訪れるかもよ!」などポジティブなイメージをお話しすることが多かったです。でも実際は気をつけなければいけないこと、AIが作り出すマイナスな出来事などもたくさんあると思っています。そのようなことについて、会でマイナスなイメージのお話をしすぎてしまうとAI全てにおいてマイナス、怖いイメージを持ってしまうと考えました。
まずはAIについて興味を持ち、当事者意識を持つことで、自分で何が良くて、何が悪いのか、自分はどうすれば良いのかを考えて欲しかったのです。今回参加してくれた中学生のみんなはカードゲームを使用したワークショップの際、一人ひとりの発表が終わるとよかった点や、気をつけなければいけない点、自分たちならどうしたいかなどさまざまな観点を持ち、議論をしてくれました。今回の講座で少しでもさまざまな観点で物事を見ることができるようになったのであればとても嬉しいことです。

今回、講座終了時にアンケートにも回答してもらいました。結果、前半後半合わせ全員が”満足”と回答してくれました。とっても嬉しいです。講座に向けての準備は大変なこともありました。ただ、このように会を楽しんでくれて、一緒に学んでくれて、笑顔で帰ってくれた中学生のみんなには心から感謝したいです。本当にありがとう!


これからも、「触」ハカセこと土橋一斗は、”科学コミュニケーターの卵”として全力で活動を行っていきたいと思っています。今後もさまざまなイベントが控えているので、そちらでも、参加者の方々に「楽しい」をプレゼントできるように頑張ってまいりたいと思います。

「AIの未来について一緒に学ぼう講座」を開催するにあたり、主催・ご協力いただいた豊田科学技術教育振興会のみなさん、ロボットをお貸しいただいたユカイ工学のみなさん、そして参加してくれた中学生のみなさん、本当にありがとうございました。

今回ご協力いただいた豊田科学技術教育振興会のみなさんとの集合写真。

「触」ハカセ / 土橋 一斗


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