書評「一生折れない自信がつく話し方(青木仁志著)」→幸せな能力開発に選択理論の活用を集大成【選択理論を何でもありで学ぶメルマガ(5号)】
この本の「おわりに」に、この本は「一生折れない自信のつくり方」シリーズの集大成の本であり、「60代の半ばでこの本を出すことができた」という著者(青木氏。以下「著者」は青木氏を指す)のコメントがある。一読しただけではわかりにくかったが、「自分と周りの人の幸せにつなげられる話し方」という能力の開発に選択理論心理学を活用した本、として複数回読んだら、この本の値打ちとすごさがわかった。選択理論の学習者の方には、ぜひ、本書を読まれることをお勧めします。ロールプレイの参考になる箇所もたくさんあります。
以下、長文ですが、お役に立てば幸いです。
この本の題名に対する著者の結論は「おわりに」に記載されている、
「まず、相手の願望を知るための『聞く力』、そしてその願望を共通の目的に向かって実現する『話す力』を磨きましょう。その際、大事なことは『やり方』よりも『あり方』です」
という一文にまとめられるように思うが、この記事では、筆者(澤田。以下「筆者」と記載)の関心から、この本を選択理論の観点から要約し、コメントすることとしたい。このような観点からの書評はほとんどなされていないように思われる。
この本は第1部から第4部まで、4部構成になっているが、特に、第3部と第4部は、選択理論の重要な考え方、選択理論によるセルフカウンセリング、選択理論による対人リードマネジメントの要点が、必ずしも体系的ではないものの、コンパクトにわかりやすく網羅されている。
また、この本は選択理論に基づく、日常的な、対等な横の関係での「対人リードマネジメント」のための「話し方と聞き方の本」という観点からみると、そのためのメンタル面のこと、考え方、技法、ボディランゲージ、言葉使い、使える質問などがとてもわかりやすく整理されていて参考になると考える。
なお、この記事で、筆者は「対人リードマネジメント」という用語を、「制度やシステム、ルールなどを除いた、人が人に話す、聴くなどのコミュニケーションを使って行うリードマネジメント(選択理論に基づくマネジメント)のこと」を指すものとして使っている。
また、筆者がこの本を対人リードマネジメントの本であると考えるのは、「はじめに」の最後に「話し方を磨くことで人生を制する」とあり、その意味として、「自信のある話し方」ができると、
①相手が自分のことを有益な人物だと評価してくれる
②いつのまにか相手に影響力のある立場になれる
③相手がこちらの意見に耳を傾け、伝えたことにコミットして行動してくれる、
ということが実現していくとあったからである。このうち、③のような「相手が相手の内的コントロールによって、こちらのリクエストに応じる行動を選択してくれる」ということは、それによって、「相手の行動を介してこちらの仕事(目的)を達成すること(=マネジメント)」という意味で、自分の「話し方」によって選択理論に基づく対人リードマネジメントができる、ということであると考えた。
【第1部「一生折れない自信がつく話し方」の要約】
第1部で、著者は、「自信のある話し方」ができるためには、自己概念(自分が自分をどう見ているか)が高まることが大切である、自己概念が高まるとは、自分の存在を愛し、自分の価値に気づくことで自信が持て、「自分はこの社会に必要で価値ある存在だ」と肯定的な価値観になり、自分の人生に期待し、物事との向き合い方が変わり、話し方、言葉の選び方などすべてが変わるから、現実に結果が出るということだ、つまり、「話し方を磨く」とは「自分のあり方」を磨くことだ、「相手の役に立ちたい、喜んでもらいたい、幸せにしたい」というような「自分のありかた」を磨く、つまり「会話力を磨くとは自分自身の心のありかたを磨くことにほかならない」、メンタルが大事なのだ、そして、話し方を磨く第一歩が、いつでも肯定的に物事を捉えられるような姿勢でいることだ、と説かれる。
また、話し方で自分の人生を変えるには、人間関係において「自分の欲しいものを得るために、思いを伝えて相手の願望に働きかけることが必要」であり、「話し方を磨くとは、何より自分の目標や願望を叶えていく力を高めることと同じなのだ」と書かれる。
そして、話し方を上達させるには、まず聞き上手になることが必要である、「円滑なコミュニケーションは話し手にフォーカスすることから始まる」とされる。「話の内容」よりも、「話し手」にフォーカスして、積極的に相手を思いやる気持ちをもって話を聴き、「相手がどんなことに関心があるのか」「相手が何を欲しているのか」を聴くことが大事で、相手のことを知れば知れるほど、何を話せばいいのかが見えてくる、相手のことが分かって初めて、相手を喜ばせ、相手の役に立て、相手に幸せをもたらすことが可能になる、また、相手の話を傾聴したり、受容するだけでも相手の欲求を満たすことができる、と説かれる。
【第2部「今すぐ始める『心が通う会話術』」の要約】
第2部では、具体的な聞き方の技術として、うなずき、あいづち、相手の目を見て話す、など、相手との信頼関係(ラポール)を築き、共感を示して傾聴する方法が紹介されている。
大切なこととして、相手が話しやすくなるように、「あいさつ+思いやりの一言」できっかけをつくり、「うなずき」や「あいづち」を入れながら、一緒になって会話を共有しよう、盛り上げていこうとすることが説かれる。一方で、話し手の気を削ぐ「途中での割込み」「話題の横取り」「でも、だってなどの否定語の使用」などを避けるべきだと書かれている。
このほか、「相手の話を聴こう」という姿勢を示し、相手との信頼関係を確立するための技法としての開放型の質問の使用(「たとえば」「具体的には」「ほかには」「なぜ、どうして」)、相手と話を合わせていく雑談、目を合わせること、自分の意見を受け入れてもらうための同意話法(イエス・バット法)、相手を全否定しないこと、相手の話に共感できないときの対応、自分を否定されたときの対応、などが書かれている。
【第3部「一生折れない自信をはぐくむ『自己対話』」の要約】
筆者にとっては、この本の魅力は第3部と第4部にあった。
まず、著者は、自信のある話し方ができるようになるためには、自分が持っている「話すことが苦手」「話す自信が全く感じられない」などの「マイナスの思い込み」が自分の能力の開発に蓋をしていると指摘する。
「思い込み」は、人を良い方にも、悪い方にも動かすので、真の自信を育むためには、時間をかけて自分と向き合い、自分自身に対しても「自分の声を傾聴する、自分を支援する、自分を励ます、自分を尊敬する、自分を信頼する、自分を受容する」などの習慣を実践して、自分自身に対して肯定的なフィードバックをし、肯定的な思考をもてるようにすることが大事だと説かれる。
「肯定的な思い込み」からでも行動を続けることによって、行動の積み重ねが結果につながり、結果が出ることで自信がついて、さらなる大きな挑戦ができる、とされる。
(以下は、主に本書からの抜粋であるが、一部、筆者が加筆修正したところがある)
自分の行動にブレーキをかけるような保守的で自己防衛的な「自分の思い込み」が、その人の能力を決定してしまうことが多い。
選択理論の考え方である「自分がコントロールできるのは自分自身だけである。他人をコントロールすることはできない」ということを深く理解することは、自分について「常に肯定的な解釈をする」こと、相手の態度や言葉に左右されなくなることにつながる。
「自分がコントロールできることに焦点を当てて、コントロールできないものには焦点を合わせない」ことを訓練し、「コントロールできることだけに集中すると、肯定的な思考になってくる」(自分がコントロールできることしかできないが、それは、自分にはコントロールできることがあり、それをコントロールする、ということ意味していると思われる-筆者注)。
突き詰めると、自分の目の前にある結果は、すべて自分の行動と選択によってそうなったものであり、それは自分がコントロールできることで何をしたかという意味で自分の責任であるということである。つまり、「人生はすべて自分に責任がある」という考え方になる。(そして、自分でこのような責任をとろうとする人は、自分の「思い込み」と行動をコントロールすることで、人生を変えていける-筆者補足)。
「能力開発とはノウハウを学んだり、記憶することとは違う。アウトプットしながら、振り返り、自己評価を繰り返すトレーニングである」
「能力開発の秘訣は過去の自分と今の自分を比較して、自分で自分を評価しながら前進していくところにある」
「他人はコントロールできないと気づくたびにアプローチを切り替えていくという方法を繰り返していくと、自分の目的を達成するために効果的な選択ができるようになっていく」
「自分にコントロールできることしかコントロールしないようになり、(それは一方で)自分にコントロールできること(をすること)だから、(結局は自分にとって)状況や物事はすべて変えられるものになっていき、その肯定的な思考に相手の反応が変わり、現実が変わっていく」(カッコ内は筆者)
自分自身をセルフカウンセリングして、「自分自身に原因を探り、『自分はどうしたいのか』『その願望を実現するために何をすべきか?』を突き詰めていく。この習慣がつくと、「自分が本当にしたいことに時間を割くようになる」「自分がほんとうに求めるものを得るための投資をするようになる」「目的に対して余計な行動をやめて、しっかりと自分を動かすことができるようになる」
今一つ自分に自信が持てないと考える人は、(セルフカウンセリングで)自分で自分を育むことからスタートする。
日常の些細なところから自分を肯定して、自らの願望に対して積極的に動いていけるように自分自身と対話し、丁寧に、「今、自分が求めるものに対して、本当にするべきことは何か」を咀嚼し、納得したことをできる範囲で実行する。そうすることで、自分で自分を評価し、励ましながら、肯定的に自分を動かしていくという考え方が身についていく。最終的に「自分ならできる」という心からの自信が育まれる。
自分のしている行動を可視化してみることで、自己評価が起こって、徐々に自分に働きかけて、自分を動かすという習慣がついていく。
自分の行動を見つめ直せるようになれば、改善につながり、目標達成に効果的な行動を積み重ねられるようになる。結果が得られると、脳が達成の快適感情をおぼえて、自信がつく。「次はこれをやってみよう」と、願望がどんどん明確になる。目標を立てて、それを達成することが楽しくなる。
人生のビジョンが立てられるようになり、達成計画を立てて、自己実現にとって最優先のテーマを実行できるようになる。こうして、よい循環がどんどん回って、願望に対して自然に肯定的に向かっていく性質になっていく。
日常の些細なことからスタートする。自分をコントロールしたり、肯定的に物事を捉える思考を、自然体でできるように、自己評価をしながら自分に馴染ませていく。
「何を求めているのか?」「求めるものを手に入れるために何をすることが効果的か?」という肯定的な言葉で自己対話していくと、脳が物事に対して肯定的な思考で実行に移し、結果という快適感情を得る回路になる。
【第4部「ますます自信がつく『相手を活かす話し方』」の要約】
著者は「自分が成功させたい人で、その人の成功が、自分の成功につながる人」のことを「パワーパートナー」と呼ぶ。例えば、「上司と部下」「企業と顧客」「経営者と社員」「コンサルタントとクライアント」「先生と生徒」などがお互いに「パワーパートナーの関係」にある。
パワーパートナーは、「自分の望みを叶えるために、相手の望みを叶える。相手の望みを叶えない限り、自分の望みは叶わない」という関係にある。したがって、「相手の望みを知り、叶えていくことが、自分の望みを叶えることにつながる」。
このような「パワーパートナー」の概念について、筆者としては、「パワーパートナーの関係とは、選択理論に基づく対人リードマネジメントがうまく機能している状態を表している」と捉えることとしたい。
筆者の理解としては、選択理論に基づく対人リードマネジメントとは、「リードマネジメントをする側が、『相手も、自分の行動を内的コントロールして、選択している』と捉えて、マネジャー側のコミュニケーションによる働きかけ(=相手に対する情報提供)によって、相手の内的コントロールを促し、願望の明確化と欲求を満たす手助けをし、自分と相手との願望をすり合わせながら、共通の願望については協力して実現に努め、すれ違う願望については交渉し、相手にこちらが期待する行動をリクエストして、相手にリクエストに応じて行動してもらうことで(つまり、相手側の行動を介して)、マネジャー側の仕事をする(目的を達成すること)こと」と捉えている。
このように捉えると、本書の第4部で記載されている次のような言葉は、いずれも、対人リードマネジメントの具体的方法であると捉えられよう。つまり、著者が人の力を借りるために磨いてきた「聞く力」「話す力」は、選択理論に基づく対人リードマネジメントの方法であると捉えられよう。
【すべては自分で選択できる、自分だけが自分をコントロールできる、決意が持つ力】
本書の最後の10ページほどには、次のような選択理論の重要な考え方(「金言」といえるのでは)が記載されている(順番を入れ替えているところがあります)。
記事の最後に一点、筆者がこの記事を書き進めているうちに思ったことは、「私たちの人間関係とは、ほぼ対人リードマネジメントである」といえるのではないかということだ。
そして、本書は、私たちが日々遭遇する、お互いに相手をリードマネジメントしたい場面で、相手の内的コントロールを、①邪魔しない、②尊重する、③手助けをする、ということをしながら、相手との良好な人間関係を維持しつつ、一方で、「自分が相手にしてほしい行動を、相手が自ら選択してくれるようにリクエストすること」「お互いの願望をすり合わせて、共通の願望については協力してその実現に努め、願望の違いについては交渉し、ウィンウィンの方向で調整しあうこと」を実現できる話し方と聴き方、そのためのマインドを、選択理論に結び付けながら、わかりやすく、コンパクトに整理して紹介してくれている、今までになかった良書であるように思う。
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