他人の侵略を防ぎ、自分を守るための「心の境界線」とは
このところ親との関係に苦しむ、10代20代の若い方たちとお話する機会があり、「心の境界線」という言葉を、何度も自分が繰り返していたことに気がつきました。
「毒親のもとに育った」「アダルトチルドレンである」という自覚があり、まだその傷に苦しんでいる方がいらっしゃったら、これを意識されてみるのはいかがでしょうか。
心を侵されないために必死に自衛していた
自殺衝動に苦しめられながら心がボロボロになっていた長い間、ずっと呟いていた言葉がありました。
「誰にも侵されない心が欲しい」。
親や他人の言葉でダメージを受け、自分を見失うたび、いっそのこと心を持たないアンドロイドやマネキンになりたいと本気で願っていました。
安全地帯ではなかった家
「今日は泣かずに1日が終われそうだ」
そう自分の部屋で身をひそめていると、ドスドスドスという足音とともに乱暴にふすまが開けられ、突進してきた勢いそのままにバシバシバシと引っ叩かれ、
「ああやっぱり今日も駄目だった」
と体を丸めて身を守りながら泣く。
「犬のほうがいい!」
という罵声に、
「私が望んだわけじゃないのに何で産んだの?」
と心の中で叫ぶ。
「死んで楽になりたい」
他の人は”生”にしがみつくんだからきっと何かそれほどのものがあるはずで、その理由を知りたいとは思っていたけれど、もう考えるエネルギーも無く、いつもそう思っていました。
心の安全地帯は家の外。私の家は恐怖の館。
放置子のように他人の愛情を探し回っていたのはこのせいでした。
なかなか変えられない精神構造
今は親も完全に変わり、そして親自体も綿々と続いてきた悪しき連鎖の被害者だったことだったことがわかり、
(親も私と同じように感情の制御が難しい発達障害だったと確信しています)、
もう仕方のないことだったのだと許せています。
そしてこの頃の辛い記憶ももうほとんど薄れて、楽しかった思い出も抵抗なく思い出せるまでになりました。
でも、このときに形成されてしまった歪んだ精神構造はなかなか新しいものに作り変えられていません。
中でも問題が大きかったのは、
「健全な『心の境界線』を築けなかった」
ということでした。
暴力的な環境下で形成される、不完全な「心の境界線」
「心の境界線」は肌のようなもので、
自分を外界から健全に隔てるもの、と考えています。
きちんと機能していると、異物が入ってきても免疫機能が働いて撃退してくれます。
しかし、暴力的な親の支配下に育ってしまうと、形成途中に破られて侵入され中を食い荒らされ、
そのような状況で形成された「心の境界線」は、ごく薄いものだったり、穴だらけだったり、異常で不完全なものになってしまわざるをえません。
アダルトチルドレンはよく「人との距離感がおかしい」と言われますが、その結果起きる「共依存」もこれが原因なのだと感じています。
お互いの肌がどろどろに溶け合って混じり、そのまま腐っていってしまう。
私も長い間、心の境界線を侵略され蹂躙され、そのことに慣れすぎてしまって、親以外の人とも健全な人間関係を築くのにとても苦労しました。
今でも、この境界線を意識しないと気がつかないうちに侵略を許してしまいますし、ともすれば自分から壊して相手を受け入れてしまいます。
あらゆることに敏感で色々なものからとても影響を受けやすい体質なのもあり、人に会った後は暫くこもって自分自身を取り戻すようにしているのですが、この回復の時間を設けずに走り続けた結果が、先日の顔面神経麻痺でした。
濁流に飲み込まれないために
以前下記のブログで、「もう自分を守るために扉を固く閉めて隠れなくていい」と書いたのですが、
これはある程度の健全な心の境界線を築けた上で、初めて可能になることです。
強固な境界線が築けていない状態で開け放してしまえば、途端にあらゆるものが流れ込んできて、その濁流に呑まれてしまいます。
不完全な境界線しかできていないのなら、まずはそれを自らの手で再生させないとなりません。
自分のせいでないことをまずは受け入れる
しかし、そのための前提があります。
相談をしてくれた若い方たちが、揃って言っていたことがありました。
「周りの誰にも理解してもらえないんです。そんなにひどい親がいるわけないって。被害妄想で親御さんに失礼だし感謝が足りないって」
残念ながら、心がこんな悲惨な状態になっているということを、愛情と尊重が存在していた健全な家庭に育たれた方には、どんなに説明をしてもわかってもらえないことがほとんどです。
まず一人で苦しんでいる方にお伝えしたいのは、
「よく一人でこれまで頑張ってきたね。そうやって苦しんでいるのは、あなたのせいじゃないんだよ」
ということです。
確かにお金を出して不自由なく育ててもらったかもしれません。外から見れば普通の家庭と変わらなく見えるのかもしれません。
事実、どの方も身なりがよく礼儀正しくとても感じがよい方ばかりでした。
でも心を蹂躙されてしまったのであれば、それは区別して考えなくてはいけません。
これを自覚しないと、自分を責めるばかりで、心の境界線を再生させる以前の問題になってしまいます。
子供には生まれる家を選べません。
周囲になんと言われようと、あなたには堂々と苦しむ権利があります。
自分のも他人のも、お互いの境界線を意識する
話をした方たちの多くは、親との関係に苦しむと同時に、周囲との関係にも苦しんでいました。
親に抵抗したいのだけれど、そもそも自分がどうしたいのかもわからない、他人との適切な距離感もわからなくて、人間関係全般が辛い。
そのときに私の口から自然と出てきたのが、「心の境界線を意識するといいと思いますよ」という言葉でした。
境界線を乗り越えて入り込んできてしまった親の期待や意向を、一度すべて掃き出すことを試みる。
乗っ取られてしまった自分の主導権を取り戻し、城壁を築くように「心の境界線」を築く。
そうして周囲の人との関係でも、「自分の境界線を守れているか」と同時に「相手の境界線を踏み越えていないか」を意識する。
崩れてしまっても、何度も諦めずに築き直す
しかしこれを実行し、自分に染み込ますのは容易ではありません。
どんなに頭では理解していても、もともとの土台が歪んだ状態で作られてしまっているので、無意識に行動をしていると自動的にもとの異常な状態の境界線が出現してしまいます。
(もちろん中には、どんなに親にひどいことをされてもほとんど傷を受けなかった方や、簡単に回復できた方もいらっしゃるでしょう。
でも、これはそうできずに今現在苦しんでいる方へ向かってお伝えしていることです。)
作るたび境界線が崩壊して「どうして自分にはうまくできないんだろう」と絶望しても、何度でも諦めず作り続けて、土台自体が少しづつ変わっていっていることを信じるのが大切です。
こんなことを書いている私も完全に境界線を築けたわけではなく、前述のとおり時々自分を見失って実際顔面神経麻痺になったりしていますが、それでもトータルで考えると嬉しいことに昔より日々確実に進歩しているのを感じます。
そして以前は「防御率100%」のような状態を目指していましたが、それ自体が強迫観念となって自分の首を締めていることにも気がついて、今は「0.1%」でも以前より強化されていれば上出来と思っています。
(「完璧主義」はアダルトチルドレンの悪い癖です…!)
何度か戻ったりしながらもマイナスの感情とうまくつきあっていくコツは下記の漫画で楽しく学べます。メンタルで苦しんでいる方にいつもオススメしている本です。
とにかく死なずに生き延びましょう!仲間がいます
人間が人間である限り、悩みや苦しみとは無縁ではいられません。
安全で安心できる家に育たれた方と比べて、私たちは生まれながらに重いハンディを背負わされてしまったとも言えますが、その分見える世界がありますし、この世でできることがあります。
もしあなたの周りに理解してくれる人がいなかったとしても、世の中には(残念なことですが)仲間がたくさんいます。
私もこのような発信を初めてから、たくさんの仲間が見つかりました。
今は一人で苦しい毎日を過ごしているかもしれませんが、自暴自棄にならず、希望を捨てないでいれば、確実に少しずつ楽になっていきます。
苦労人だった徳川家康が遺したと言われている言葉にこんなものがあります。
「人の一生は
重荷を負ひて 遠き道をゆくが如し
いそぐべからず」
「人生は常にハッピーなものであるべし」と考えると、「それに比べて自分の人生は…」と暗くなってしまいますが、もともとそんなものだと考えれば良い諦めととともに少しは気が楽にはならないでしょうか。
とにかく、焦らず、死なずに、一緒に生き延びていきましょう!
健全な心の発達をされた方と、そうでない場合の説明です
9月14日(土)に渋谷ヒカリエでワークショップを行います。ぜひ会いにいらしてください!
以前の私と同じように苦しんでいる方たちにむけたメッセージです。
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