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前略、俺のコミュ力をもってしても落ちないヤツがいるんだが。

二宮翔哉、24歳。

仙台出身。大学も仙台。地元で1、2を争う優良企業に入社して、営業部に所属している。

学生時代、大学祭実行員のリーダーをしていたこともあり、顔が広い。一番町を北から南に歩けば、必ず何人かに呼び止められる。営業成績も悪くない。飛び込みもできる。特に女性クライアントには、圧倒的に可愛がられる。長く付き合っていた彼女とは、先日別れたばかり。今は、合コンで新しい出会いを物色中だ。

冒頭から自慢?まあ、自慢かな。

鋭い洞察力、堂々とした物腰、懐に入る会話術。

でも実はこれ、全部、俺のチートのおかげだから。

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俺のチート。

チートとは直訳すると「ズル」のこと。だから、俺はこの能力を「チート」と呼んでいる。一般の人が俺の「チート」を知ったら「ズルい!」と叫ぶと思うからだ。

俺のチート。それは、人の心を読むことだ。

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この能力を身につけたのは中学生のころだ。きっかけは覚えていない。誰かに何かされたような気がするが、思い出そうとすると頭がぼんやりする。

まあ、ともあれ、このチートのおかげで俺は順風満帆な人生を歩んでいる。

女の子は、言ってほしい言葉を言ってくれる人を好きになる。気持ちを読めれば、いくらでも俺を好きにさせることができた。

仕事はもっと楽。クライアントが出せる料金と求めているものを、聞き取りなしで読み取れるのだから、最短距離で契約できる。

そりゃあ、人間関係が複雑になれば、心が読めてもうまくいかないこともある。読まなきゃよかったと思うこともある。だから人生楽勝、とは言わない。でも、なかなかうまく「チート」を活かして生きてるんじゃないかな。

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「…は?あれ?」

そんなとき出会ったのが、あの少女だった。ツインテールに赤いリボンを結んだ、12歳くらいの女の子。ファミリー向けイベントの運営中、迷子預り所に連れられてきたのだ。

(どこかで会った気がする…)

なぜか魅かれる。どこかで見たことがある気がするし、何より可愛い。

「おうちの人のお名前は?」

そう声をかけると、少女はハッとしたように顔を上げた。俺の顔を見ると、口をもごもごさせたあと、また俯いてしまった。

(しょうがないな…)

俺は、初対面の子どもに悪いと思いつつ、心を読ませてもらうことにした。気持ちを集中させる。が、心の声が聞こえない。

「…あれ?読めない…」

思わずつぶやくと、少女はパッと顔を上げ、アッカンベーをした。

「バーカ!ノロマ!わからずや!」

面食らった俺に、クルリと背を向け、少女は走り去っていった。

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次に会ったのは、合コンの帰りだ。チート大活躍。お目当ての子の連絡先を入手したので、今日は深追いしないで退却。クロージングは次会った時でいい。

いい気分で歩いていると、目の前に赤いリボンの彼女が現れた。23時過ぎ。小学生が一人で出歩く時間じゃない。

「おい、きみ、この前の…」

言いかけると被せるように大声が響いた。

「何やってるのよっ!」

「ええ…?」

「なにぐずぐずしてるのっ!寄り道ばっかりしてないで、早くくっついてよ、ノロマ!何のためにわたしが…アッ」

言いかけて、少女は口を手で覆った。

(こいつ、何なんだ…)

おれは酔っぱらった頭で、少女の心を読もうと試みた。やはり読めない。

「きみ、俺のこと知って…」

言いかけると、少女はまたクルリと後ろを向いて、走り去ってしまった。

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(おかしい…)

次の日。職場のデスクで俺は少女のことを思い出していた。最初の出会いも、昨日の会話も、なんだかおかしい。心が読めないのも気になるが、何よりなんで小学生に、ののしられなくちゃならないのか。

(なんだかムカムカしてきた)

過去に会ったことがあるのか考えるが、肝心なところで頭がぼんやりする。俺は、ペンを咥えながら椅子を揺らした。

(次に会ったら、必ず捕まえてやる)

昨日、暗闇に消えた赤いリボンが、まだ目の裏に焼き付いていた。

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3回目の遭遇は、その日の帰りだった。

「おい!」

先に声をかけたのは俺。先手必勝。慌てて逃げようとする少女の腕をつかんだ。あ、俺、不審者っぽいかな。

「おい!俺のどこがノロマだ!」

勢いでそう言うと、少女がキッとにらんだ。

「ノロマでしょ!」

「なにが!」

「だって、だって…!!」

「ストーカーか!?この前は夜中だったし、今日だって!家に帰れよ!」

俺が一息にそう言うと、少女は悔しそうに歯を食いしばった。

「…私だって、はやく帰りたいよ!」

少女はそう叫ぶと、大通りに向かって走り出した。追いかける。意外に早い。距離を詰められない。大通りから、クルマの走る音が聞こえる。

「おい、待てって、危ない!!」

飛び出そうとした少女をすんでのところで引き寄せ、勢いで転びながら俺は少女を抱きしめた。

あんなに生意気に見えた少女だが、腕の中にいると小さい。おまけに、スンスン子犬のように泣いている。

「泣くなよ…」

「おじいちゃんが、悪いんだもん…」

「おじ…?おじいちゃん!?」

俺のこと??オジサンでも抵抗があるのに、オジイチャン?

「おじいちゃんが、悪いんだもん!」

少女はもう一度そう言うと、泣きながら「ノロマ」の理由を話し出した。

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話を要約すると、こうだ。

少女は、未来から来た俺の子孫。

しかも、若干10歳でタイムリープ装置を開発してしまった天才で、未来は、こいつの作ったシステムで、大躍進を遂げているそうだ。ある時、タイムリープで遊んでいると、俺が少女の「ばあちゃん」と結婚しない世界線を見つけてしまった。原因は俺の鈍感。ばあちゃんの恋心に俺が気づかなかったというのだ。

「二人が結婚しなかったら、私は生まれない。そんなの世界の損失よ!!」というのが少女の言い分。

だから、さらに時間をさかのぼって、中学生の俺に、人の心を読むチートを与えた(これも彼女が独自開発した技術)。ああ、俺、中学の時にもこの子に会ってたのか。

「なのに、なのに…」

少女はしゃくりあげる。

「あんたは調子にのって、ウロウロしてばっかり!早く、ひいおばあちゃんと、結婚しちゃってよう!」

(そんなこと言われても…)

俺はその時々で、最善の選択をしている。それが少女の未来につながらないと言われても、実感はないし、判断を変える気にはなれない。

「全部ばらしちゃったから、もう、私、戻らないといけないの。…だから、最後に」

そう言うと、少女は俺の耳に口を寄せ、一人の女性の名前をささやいた。

「え…」

「おばあちゃん、だからね!」

そう言うと、クルリと背を向け、リボンを翻して走り去っていった。

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少女が未来に帰ってから、俺はチートをつかえなくなってしまった。だけど悲観することはない。チートを使って身につけたコミュニケーション力は健在だ。

仕事に支障はない。

恋にも支障はない。

あの子には申し訳ないけど、今はまだ、「おばあちゃん」と結婚する気にはなれない。でもまあ、未来は複数あると、図らずも俺の子孫が教えてくれた。気持ちは変わるかもしれない。未来は変わるかもしれない。少女が望む未来になるかならないか、それは未来のお楽しみ、だ。


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