離婚という名の戦争

"Krigen" af Gro Dahle, Kaia Dahle Nyhus, Alfa 「せんそう」グロー・ダーレ・作 カイア・ダーレ・ニューフース・絵 絵本、ノルウェー

包み隠すことなく、真正面から両親の離婚を経験する子どもの心を描いている作品。作者は人々が共存して生きていくなかで起こる様々な問題や気持ちについて描く作品を書いてきたのだとか。この作品は、家族の多様な問題を扱う公的機関からの働きかけでできた作品*だという(もしノルウェー語の解釈が違っていたら教えてください)。

主人公の女の子(デンマーク語ではユリエちゃん、ノルウェー語ではインガちゃん)は、4人家族。ママは世界一のママ、パパは世界一のパパ。双子の弟たちもかわいいし、私の家族は世界一、とユリエは思っている。ところが、状況は変化する。パパとママは喧嘩をする日が増えていく。それを陰から見ているユリエ。次第にエスカレートしていく喧嘩を、ユリエは「戦争」と呼ぶ。戦争って身近にはなかったけれど、こんなふうに感じるものなんだ、これからは弟たちをしっかり守ってあげなくちゃとユリエは決意する。パパとママが別れたら、私たちはだれと暮らすんだろう、私たちはどうなるんだろう。パパとママは怒ったり泣いたり、それを見ているユリエ、悲しむママをなぐさめるユリエ。次第にユリエは戦争のスパイになっていく。パパの様子をママに、ママの様子をパパに伝え、そして弟たちの世話も忘れない。そうしているうちに、ついにユリエは壊れてしまう。

イラストはコントラストの強い色で描かれ、悲しみや不安、孤独、絶望などの感情をシンプルなタッチで、でもとても表情豊かに描いている。内容もさることながら、イラストからも表れる主人公とその家族の「戦争」の様子に、ただただ圧倒される。あぁ、私も子どもの頃、親の喧嘩をこういう気持ちで見ていたのかもしれない、親にとってはたかが夫婦喧嘩ではあるけれど、子どもから見ると、こんなふうに見えたかもしれないなと振り返って思う。そして、夫と私が喧嘩をしているのを子どもたちが見る時も、同じような風景が見えているのかもしれないと。

デンマークの図書館ではこの本はあまり見かけない。あっても特別な棚に置かれていて、子どもがランダムに選んで持って帰る本にはならないよう配慮している。あまりにもインパクトが強い作品なので、図書館では、この本が本当に必要な状況にある家庭やその子どものための作品、という位置づけにしているのだと思う。その一方で、小さな心で親の離婚の一部始終を経験し、そしてそれをうまく言葉にできない子どもにとって、この本は強い共感を生むのではないか。本の中の色々な場面に、自分の経験を重ね合わせ、辛いかもしれないけれど、もし、カウンセラーや親と一緒に話しながら読めば、辛さを違った形でとらえられるのではないかなと思う。

とにかく圧倒されるこの本。気になる方は、作者名とタイトルで検索してみてください。本のページがたくさん出てきます。私は自分の人生で離婚というものを経験していないけれど、心にグサグサと槍が刺さって、悲しくて、ボロボロ泣いてしまった作品です。ページを開くのでさえ辛いけれど、それでもとても惹きつけられるので、購入した作品でもあります。

* "Offeret i mammas og pappas krig" : http://www.barnebokkritikk.no/offeret-i-mammas-og-pappas-krig/#.Wdf972i0PIU


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