おかしいなら、ルールを変えたら?

"Træet, dyrene og os" af Hanne Kvist, Gyldendal 2017「木と動物とぼくたちと」ハンネ・クヴィスト作・絵 デンマーク 絵本

今年出版された絵本。作家でイラストレーターでもあるハンネ・クヴィストの作品。彼女は持前の優しいタッチとカラーのイラストで、言葉では表現しづらい「空気」を、短い文章とともに表現するのがとても上手い。

今回の作品の舞台は森。子どもたちがトナカイ、キツネ、ヘビと森の中でボードゲームをしている。ふと見ると、木がさっきより近くに立っているような気がするが、「気にしない、気にしない」と何日もボードゲームをし続ける。そのうち動物たちは、もっと動いたり走ったりしてあそびたいと言い出すものの、半ば強制的に一緒にボードゲームをさせる子どもたち。動物たちは少しだれ気味。そして、近くの木々がザワザワ音を立てはじめた。「うるさくってゲームができないよ!」「木はじっとしてるもんだろ!」とキツネが大声で言うと、一本の木が「きみたち、どうして怒ってるの?」と問いかける。

子どもたち「だって、木はじっとしてるって決まってるんだよ」

木「そんな決まりはくだらないよ。いったいだれが決めたんだい」

子どもたち「きっと動物たちだよ」

動物たち「いや、子どもたちだよ」

木「じっと立ってなきゃいけないなら、一緒に遊びたくない」

そして、みんなは黙ってしまう。

トナカイが言う。「なんでぼくらは怒ってるんだろう?ぼくだって一緒にあそびたいのにな」

木「じゃ、かくれんぼしよう」

!!!この話の流れにうまくついていけずに、私は何度も読み返してしまった。

色々と驚きのポイントはあるのだけれど、まず木が、じっとしてるという「決まり」に自ら異議を唱え、だれがそれを決めたのかと問うこと。いや、木は生まれた時からそれわかってるんじゃないの?と思うのは頭の固い大人の発想か。そして木は「一緒に遊べない」ではなくて「遊びたくない」という。自分についてのルールのせいで「遊べない=だから僕たちにもできることをやってください」とお願いするのではなくて、はたまた、諦めるのでもなくて、堂々と、動物たち、子どもたちと対等の立場で発言していることに驚く。自分に制限があると、下手に出る方が無難なんじゃないと思うこの私の発想も、子どもらしさとは程遠いんだろうか。さらにさらに、トナカイが「一緒にあそびたいのにな」と、木を遊べない相手として排除せず、むしろ遊ぶことに焦点をあてて、一緒にあそぼうと誘いかけていること。そしてダメ押しに、木が自ら「じゃ、かくれんぼう」と提案すること!

このお話の最後は、動物と子どもたちが100数えている間に、森の木々が隠れる場所を探して逃げていくというもの。なんて楽しい発想だろう。

デンマークでもインクルージョンが提唱され、これまで特別学級に分けられていた子どもたちもなるべく普通学級へ移行されている。この流れを受けての作品なのではないか、という記事を読んだ*。確かにそういうこともあるのかもしれない。でも私のシンプルな感想は、多様な人々が何かを一緒にするときに、そこにある決まりが邪魔をしているのであれば、むしろその決まりを見直してみたら?という発想がとても斬新だし、素敵だということ。そして、皆が幸せになること(ここでは一緒に遊ぶこと)を目的にして、だれも排除しない解決方法を自分たちで見つけていくということ。とても平和な解決。大人の世界もそうなればどんなに良いだろう。

"Rummelige fællesskaber på Hvidovrevej" Information, 26. Aug. 2017  


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