愛らしい?恐ろしい?北欧のトロルたち

"Allt um tröll" af Brian Pilkington, 1999, Mál og Menning, Iceland. 「トロルのすべて」ブライアン・ピルキングトン 絵本 アイスランド

アイスランドのトロルについて、愛情深く描かれた絵本。作者のブライアン・ピルキングトン氏はイギリス人だが、アイスランドを旅した時、すっかりこの国に魅了され、住み着いてしまったらしい。35年以上暮らしているアイスランドに残る、多くの伝承や、そこに登場する妖精やトロルについて、彼はたくさんの本を出版している。

作者によると、アイスランドのトロルは人間から恐れられ、煙たがられてきたが、本来はとても愛らしい存在であるらしい。本の中では、「トロルの事実」「トロルの知恵」「トロルのファッション」「トロルの食事」など、見開きごとに新しいテーマで、トロルについて、余すことなく紹介している。その文章はトロルへの愛にあふれている。それは、本書の始めにある紹介文からもうかがえる。

『トロルは、力が強く体も大きいために、人々からいつも怖がられてきました。そのせいで、トロルについては恐ろしい話がずっと伝えられてきました。でも本当は、トロルはおとなしくて、愛すべき者たちなのです。』

『初めて人間とはちあわせた恐ろしい出来事のあと、トロルたちは、人間に姿を見られないよう、人間がトロルを避ける以上に、気をつけてきました。』 (デンマーク語版 "Islandske trolde" より)

どうやら西暦800年代に、初めてアイスランドに住み着いたノルウェーのヴァイキング、Ingolfur Arnarsonが、アイスランドにやって来る前まで、トロルたちは地上で暮らしていたのだが、彼らとはちあわせたことがトラウマ(?)になり、それ以降は山や森の穴ぐらで暮らすようになったのだそう。そして、日が落ちたあとにしか、姿を現さないよう、細心の注意を払って生活しているらしい。この優しくて、おだやかな存在について、作者は多くの人々にその本来の姿を知ってほしいのだという。

北欧のトロルというと、現代でも有名なのは、三匹のヤギのがらがらどんに出てくるトロルだが、もともとデンマーク、スウェーデン、ノルウェーとアイスランドには、トロルにまつわる多くの昔話がある。デンマークのトロルは比較的体つきも小さいが、その他の国々では、巨大な体と、途方もないほどの力強さがある。そしてバイキングの時代から、その存在は森や山の中で確認されている。日の光にあたると岩になってしまうとも伝えられ、フェロー諸島沖にある二つの岩には、フェロー諸島をアイスランドに持って帰ろうとしたトロルが、日の出のためにその場で岩になってしまったという言い伝え(リンク内の写真)もある。

トロルはまた、スカンジナビアの中世時代には、世間を不安にさせる存在としても認識されていた。ノルウェーでは、キリスト教化が進み始めていた1100-1300年代の法律に、トロルを呼び起こして異教を唱えることは、レイプ罪と同じような重罪とされていたのだとか(1)。その後、宗教改革以降、一旦はトロルの存在は認識されなくなったが、1800年代のロマン主義時代にまた復活し、その後は現在に通じるような、昔話の世界の存在と考えられるようになったのだそう。

ちなみに、話が少しそれるが、アイスランドでは、こういった伝承のなかの存在が今でも本当にいると考えている人が多いらしい。2007年にアイスランド大学が行った調査によると、54%の人が、妖精は存在すると思うと答えている(2)。地震やオーロラなど、大自然とともに暮らす人々にとっては、目に見えない者の存在がより受け入れられているのかもしれない。この本の作者も、そんなアイスランド人たちから、妖精やトロルの話をたくさん聞いて引き込まれたのではないだろうか。

(1) Trolde spredte frygt i Norden  (2) De islandske bjerge er hjem for alfer og trolde  Brian Pilkington


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