おとうさんが戦争へ行くとき

"Vi si'r godnat til månen -Når min far er udstationeret" af Johanna Søbrink Haahr. Lamberth, 2012, Denmark. 「月にむかっておやすみなさい」ヨハンナ・シューブリンク・ホウア。デンマーク 写真絵本

タリバン崩壊後から常にアフガニスタンへ兵士を派遣し続けているデンマーク。近年は、アフガニスタンやイラク以外にも、ロシアの脅威が増すエストニアへもNATOを通じて兵士を派遣している。派遣される兵士たちには幼い子どもがいる人々もいる。これは父親が戦争へ派遣される子どもや家族へ向けて、またこの問題を人々に伝えるために書かれた写真絵本だ。

主人公の「ぼく」のお父さんは兵士。お父さんは、外国へ派遣されることになり、荷物の用意をしている。玄関でさよならをするぼくと妹。そして、本のページは戦場にあるデンマーク部隊のキャンプの写真へと変わる。どんな風に暮らしているか、食事の風景、寝室などが紹介されている。そして、戦争が起こっている国の写真。「その国にくらしている人たちのほとんどは、おとうさんたちが来て、彼らを守っていることを喜んでいるけれど、なかには、それを嬉しくないと思っている人たちもいる。だから、ぼくのおとうさんは、気をつけないといけない」と書かれている。どこの国であるかは明らかにされない。その後に続くのは、ぼくと妹、お母さんとの日常の風景。幼稚園からの帰り道、家に帰っておもちゃで遊ぶ姿など、デンマークのごく普通の子どもの生活がある。「ぼくは、おとうさんに会えなくてさみしくなるときがある。テレビを見てるとき、悲しいとき、色んなときに、ぼくはおとうさんに会いたくなる」「おかあさんは、人は世界のどこにいても、同じ月を見てるって。だからぼくは、おとうさんが外国に行くときは、月にむかっておやすみなさいっていうんだよ。おとうさんが戻ってくる日まで」

日本だと戦争の内容は第二次世界大戦を扱ったものが圧倒的に多いのだろうと思うけれど、デンマークでは戦争は現代の問題でもあり、その視点から扱った作品も多い。絵本であれば、少し前の作品(2006年)だと、スウェーデンの有名なアルフォンス・オーベアシリーズで、父が戦争で兵士として戦い、その後、難民としてスウェーデンにやってきた少年とその家族を扱った作品、"Alfons och soldatpappan"がある。父親が戦争に派遣された子どもが主人公の作品は他にも(北欧ではないが)スザンヌ・コリンズの"Year of the Jungle"(デンマーク語にも翻訳されている)などもある。

デンマークをはじめ、北欧諸国は、アフリカやアジア、中東、バルカンなどからの戦争難民を受け入れる立場として戦争をとらえることが多かったが、2000年代に入ると、今度はアフガニスタンやイラクへと兵士を派遣することが続いている。デンマークは、兵士を派遣することは社会的にバックアップはあるものの、実際に家族が亡くなったり、PTSDなどで苦しんでいる元兵士が多いことなど、難しい問題も多い。私の職場でも、以前兵士として派遣されていた若い人が、何年も経ってからPTSDを発症し、仕事を継続することが難しくなり退職したことがあった。この問題は複雑だ。

デンマークには、このテーマを扱ったとても興味深い映画がいくつかある。スザンネ・ビア監督「ある愛の風景」、ヤヌス・メッツ監督「アルマジロ」(ドキュメンタリー)、トビアス・リンホルム監督「ある戦争」など。どの映画も日本で公開されていたようなので、日本語で見ることができるはず。日本とはまた違った戦争観を感じることができる作品たちだと思う。

参考「デンマーク軍兵士がアフガンで関与した平和維持という戦争の姿」Newsweek Japan 29.09.2016

KORT Her er danske soldater udstationeret DR.DK 31.01.2018

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