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本の未来はあるか-ある女の子の試み

"Jenta som ville redde bøkene" af Klaus Hagerup, illustration Lisa Aisato, Gyldendal 2017 Norge 
「本を救いたかった女の子のおはなし」クラウス・ハーゲルップ作、リサ・アイサト絵 2017 ノルウェー 絵本

本を読むのが大好きな女の子、アンナ。本はアンナにたくさんの出会いをくれる世界。昼も夜も、時間があってもなくても、本の世界に魅了されているアンナ。そんな9歳の女の子が、実は恐れていることがあった。それは、年を重ねること。大人になること。10歳の誕生日が近づいていることを考えるだけでも恐ろしい。そんなアンナを慰めてくれるのは、本だけだった。

ある日、アンナはいつも通っている図書館で、たくさんの本が廃棄されているということを知る。読者がいなくなった本は、地下の事務所でそれを担当する図書館職員のミルトンさんによってバラバラにされてしまうのだ。

「本を壊してしまうってことは、お話の中の人々はどうなってしまうのだろう」考えただけでもぞっとする。そう思ったアンナは、本を救うために、大量の本を借りて帰る。まずは50冊。家に運んで、読み漁る。もうこれ以上、一気に本の中の人たちと知り合うことはできないわ、とアンナがあきらめかけた時、

図書館司書のモンセンさんは別の本をアンナに手渡す。あきらめる前に、最後にこれを、と勧められた本。これを読んだら、いったん休憩しよう。そう思ってアンナはその本を読み始める。

その本は、主人公の少年が慕っていたおばあちゃんが年老いて亡くなるという話だった。亡くなったのち、おばあちゃんは少年に森の木となって話しかける。「あなたはこれから、あらゆることの中で、もっともすばらしいことを経験するんだよ。さあ、よくお聞き。」

アンナがページをめくると、最後のページは白紙だった。

何も書かれていないページ。アンナは先が気になってしかたがない。学校のクラスメート、担任の先生、本屋さん、あらゆる人に本のことを話し、この本の最後のページを知りたいと問い合わせるも、だれも本の存在さえも知らなかった。

クラスメートや大人たち、ありとあらゆる人に声をかけたことがきっかけで、街中、国中の人々がアンナの読んだ本を話題にし始めた。本屋さんは、うわさの本をたくさん取り寄せ、平積みにして売り始める。皆がその本を手に取り読み始める。しかしどこにも結末は書かれていなかった。おばあちゃんは少年に、いったい何を語ったのか。人々はあれこれと想像し始める。

アンナは考えた。
これはもう作者本人に会って確かめるしかない。
会えるだろうか。この作者は出版社の人でさえ連絡がつかないという。
アンナは、本を紹介してくれた図書館司書のモンセンさんを訪ねる。

本の作者に会いたいのというアンナに対し、モンセンさんはひとつだけ条件があるという。それは、アンナが自分で正しい結末を見出すこと。

アンナは考えた。
少年が経験できる、もっともすばらしいことってなんだろう。
読んでいないのだからわからないよ、とアンナは思う。そして気づく。
そうだ、わたしだってそう。
明日、わたしは10歳になる。それを思うと怖い。だけど。
どうなるかわからないことを、どうしてわたしは怖がっているんだろう。
ちがう。わたしは怖くはないんだ。
ワクワク、しているんだ。

そしてアンナは気がついた。
「わたし、本の結末がわかった。」

アンナは図書館へ向かった。そしてモンセンさんに結末を書いた手紙を手渡した。すると、アンナは図書館の地下へ案内される。ついにアンナは、なぞの作者と対面するのだ。

ドアの向こうには、図書館職員のミルトンさんが立っていた。ミルトンさんはアンナの手紙を開けて言う。「アンナ、正解だよ。これが結末だ。」

白紙の紙を手にしたミルトンさんは、アンナに問う。
「どうして結末がわかったんだい?」
「だって。これから起こることはだれにもわからないでしょう。つまり…なんでもありだってこと。そして、それって良いなって思ったの。」

そうして仲良くなった2人は、新しい本を一緒に書くことを約束した。タイトルはもちろん「本を救いたかった女の子のおはなし」。


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本の魅力とは何か。それをこの絵本は伝えてくれている。人々の手に取られなくなった本は、それがどれほど素晴らしいものだとしても、忘れ去られ、わたしたちの目の前からは消えてしまう。でももし、またそれを手に取る人がいれば、本はまた生き返る。それが続く限り、本は永久に死なない。だがその行為は、一人でやるには限界がある。本を読む楽しみを、喜びを、ワクワクした気持ちを、他者と分かち合うことで、本のいのちはどんどん若返っていく。アンナの最後に手にした本への純粋な好奇心が、本のいのちをつないでいく。

図書館で働いている者としては、この本の前半部分のストーリーは痛ましい事実で、本当に、これはなんとかならないものだろうかと思ってしまう。でもアンナのように、本を通して人が人とつながることで、本に新しい命を贈れるのなら、わたしたちにできることはまだまだあるのかもしれない。そんな勇気をも、この本からもらった気がした。

この本の美しいイラストの一部をここから見ることができます。イラストレーターLisa Aisatoさんのページはこちらから。


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沢広あやです。デンマークで暮らして16年、公共・学校図書館で働いて8年が過ぎました。北欧の絵本、子ども図書館のことから、子育て、教育、フェミニズム、社会のことなどを書いています。 アイコンはおおえさきさんhttps://note.mu/oh_yeah_saki