見出し画像

子どもの声だって大事だ

2月24日。この日は、デンマークで昨年12月半ばから続いていたロックダウンを、いよいよ段階的に解除することが発表される日だった。

未就学児に加えて、2月初めからは小学校低学年(0~4年生)も学校が再開されていたが、3月からはどの学年が再開されるのか、また年末から閉店を強いられてきた商店や飲食店の再開はあるのか、人々は注目していた。

午前11時。自宅で、少し早いお昼休憩だが会見があることを知り、ラジオを付ける。会見内容を聞いていると、同じように自宅で遠隔授業を受けている7年生の娘が、自分のお昼ごはんの準備のためにキッチンへやってきた。そのタイミングで、ある中学生の声がラジオから聞こえ始めた。

最高学年の生徒たちが学校へ戻れるのはすばらしいことです。でも逆に心配なのは、5年生から8年生については、今日の会見では何も語られていなかったこと。他の学年が再開するという話を聞きながら、もしわたしが5、6年生だったら、いつになったらわたしの順番なの?と思うだろうと思います。(エスター・ヴィフ・ピーターセンさん)

今年春の年度末に卒業試験を控えている最高学年、9,10年生(日本の中学3年に相当)は、地域によっては、週2回のPCRテストを条件に3月1日からの再開が決まった。他の地域も、段階的にこの学年は再開する可能性が高いのだそうだ。そのことを踏まえて、この中学生は語っているようだった。

彼女の話はさらに続いた。

5年生から8年生だって、本当に本当に長い間、家に閉じこもっていて、もううんざりしているし、悲しんでいるんです。最近の教員への調査では、遠隔授業は必要なレベルの授業ができないと言われているそうですし、自宅学習は家庭への影響もあります。遠隔授業が通常の授業と同じことができないのであれば、この学年もそろそろ再開しなくてはいけません。具体的なプランを立てなくてはいけないと思います。

そして、お店などの再開によって、この学年の子どもたちの学校再開がさらに遅れるということであれば、社会全体の優先順位自体に問題があると言わざるを得ません。 (エスター・ヴィフ・ピーターセンさん)

黒パンにバターを塗りながら耳をそばだてていた娘は、黙って首を何度も立てに振っていた。今回のロックダウンの段階的解除について、政府は5年生から8年生の再開については一切触れることがなかった。そのことは、娘にとってもやはり残念なことのようだった。だからこそ、こうして自分の心の声を代弁し、公に語ってくれる声があることは、嬉しいことなのだと思う。

小中学生のための組織 Danske Skoleelever

インタビューに答えていたこの中学生の名前は、エスター・ヴィフ・ピーターセンさん。デンマークの小中学校生徒会を統括する組織、Danske Skoleeleverの代表を務めている、2004年生まれの女の子だ。彼女の所属する組織は、1970年代から続く様々な生徒会組織が2004年に統合されてできたもので、毎年中学生がその代表を務めている。そして今年度の代表であるエスターさんが、メディアのインタビューに答えていたのだった。

少し調べてみると、この組織はデンマーク国内に存在する、ユース団体のひとつとして国から助成金を受けている。近年は助成金自体も削減の一途をたどっているとのことだが、それでも昨年は560万クローネ、日本円にして9千5百万円ほどの支援を得ており、専属で働く職員が何人もいる大きな団体だ。この団体では、小中学生のためのホットラインや生徒、教員のための研修を行ったり、コロナ禍ではウェビナーに教育大臣を招待し、代表のエスターさんが大臣と対談するなど、積極的に子どもの声を政策決定者や教職員に届けるための活動を行っている。

エスターさんをはじめ歴代の代表たち、運営に関わっているメンバーの話しっぷりを見ていても、皆とても堂々としている。すでに中学生の段階でこれだけ積極的に活動しているのだから、きっと将来は政治家となっていく人たちなのかもしれない。デンマークの政治家キャリアは既にこんなところから始まっているのか。

それでも、デンマークで暮らしている人々、ましてや10代の子どもたちの大半が、彼女のように自分の意見をはきはきとメディアに向かって言えるのではないだろう。思っていることを全て上手く言葉にできる人ばかりではないのは、世界中どこへ行っても同じではないかと思う。でも、たとえ小、中学生でも、自分の日常に対して思うこと、感じることはある。特に、今回のコロナ禍のような状況になれば、日常生活は大きく変わるし、国の決める多くの出来事から影響も受ける。だからこそ、子どもであっても、自分の立場から感じていることを伝える場や、権威のある大人たちに直接意見や提案を伝えられる機会は、とても重要なのだ。

Danske Skoleeleverの代表は、組織が始まった2004年以降、歴代代表13人のうち、なんと8人が女子だった。もう既に色々と始まっている感がある。

画像2

Danske Skoleelever 代表 エスター・ヴィフ・ピーターセンさん
写真はともに Danske Skoleeleverの プレスフォトより。
1枚目の写真の3人は代表と2人の副代表

Danske Skoleelever (DSE) - Organisation af og for Elever

サポートいただけるととっても励みになります。いただいたサポートは、記事を書くためのリサーチ時に、お茶やお菓子代として使わせていただきます。ありがとうございます!