見出し画像

私は、おしりが硬いから。

アトレ恵比寿。たった今、向かい側の木製の椅子から、後ろがけのソファ席に移動したところだ。

生まれつき、お尻が硬い。細くて肉がないからではなく、なんだか骨張っているのだ。

一緒にお風呂に入るたびに、姉にお尻をペシペシと叩かれて「いいケツしてるね」と褒められるけれど、顔や脚に比べて、お尻の形を称賛されてもそれほど嬉しくはない。

お尻の位置が高い。と母は言うが、実際のところそれは、お尻が上向きに尖っているだけだと思う。

そしてこの「尖り」が長年、私を苦しめてきた。

画像2

まずは小学校から高校に至るまでの、学校生活で不可避な、全校集会。

骨張った尻と、体育館の固い床の相性は最悪でしかない。面と面ではなく、点(お尻の角)と面なのだから。体重が一点に集中して、痛いのなんの。

もぞもぞと腰を揺らして、接点を変えようとするも、短い気休めにしかならない。

中学生からトータルで1cmも背が伸びなかった私は、クラスの縦列の真ん中から少し前くらいで。最終の秘技「トイレに立つと見せかけて尻を休める」手も使えなかった。

何度、唇を噛んで痛みをこらえ、前に立つ話者をののしり、心の中で胸ぐらを掴んだことだろう。

中学校の時、生徒副会長になりたかった理由のひとつは、冗談じゃなく、全校集会で司会をするたびに「立ったり座ったりできる」ことだった。

お陰で、中学3年生では、幸せな学校生活を送ることができたけれど。

画像3

しかし、その後も私の「硬(かた)尻」と椅子との応酬は続き、あらゆる場面で、尻問題とぶつかってきた。

塾の椅子が硬くて座ってられないという理由で、自習室は2時間までしか、滞在できず。

「尻休憩」を挟まねばならない、という理由で1コマ90分の大学の授業は、毎回ハーフタイムにトイレに行く素振りを見せながら席を立ち、キャンパス内を散歩していた。

椅子の座り心地によって、その場の滞在時間が変わることは当たり前で、カフェに入って一番最初に確認するのは、尻心地のいいソファ席に座れるかどうか。

ゴツゴツとした私のお尻を長時間受け入れてくれるのは、柔らかいクッション製の椅子しかない。

画像1

ちょうど今、10分ほど木の椅子に座って尻に痛みを感じはじめたタイミングで、向かいのソファ席が空き、バウムクーヘンも食べ途中のなか、移動を終えたところだ。

背もたれがあり、尻をそっと包み込んでくれる革製のソファのなんと安心感があることだろう。

私はいま、今日イチの安息を噛みしめている。

左前に座っている男性が、BARにあるみたいなお尻部分が小さなチェアに座って、パソコンを開きじっと何かに集中しているのが視界に入る。

心から尊敬の念を抱いた。

fin

この記事が参加している募集

心躍ります^^♪