見出し画像

書籍:ボードゲームで社会が変わる: 遊戯するケアへ(與那覇潤、小野卓也)

ボードゲームについて、単なる「ゲーム」としてだけでなく、新たな社会的位置づけをしようとする本。

與那覇 ボードゲームひとつをとっても「ダイバーシティ」(多様性)の観点が求められる時代ですが、ぼくは多様性のある社会をめざす上で、最後に残る困難は「メリトクラシー」(能力主義)だと考えています。性別や肌の色で「人を差別していい」と露骨に主張する人は、近日ではまずいませんが、しかし現に「能力で差別していること」は見過ごされがちですよね。そうでなければ、大学入試も入社試験もあり得ませんから。
 (略)
小野 メリトクラシーとダイバーシティの相克は、與那覇さんの言うとおり難しい問題ですね。現代の社会では「どんな肌の色も美しい」とは言えるけど、「能力が高くても低くてもどっちでもいい」とはなかなかいきませんから。しかし確かにボードゲームには、そうした課題を乗り越える手がかりが詰まっています

「ボードゲームで社会が変わる: 遊戯するケアへ」(與那覇潤、小野卓也)p.154,159

カバーに記載されている「私たちがともに楽しむために、『能力』は、もう、いらない。」。著者のお一人の與那覇さんは、うつを患っていた際に通っていた精神科のデイケアの中で、思考力や協調性を回復させる訓点としてボードゲームをしていたとのことで、その経験を踏まえた「ボードゲーム哲学」がとても興味深かった。

なお、本書では、様々な分野の専門家(書評家、近現代史研究者、経済学者、文化人類学者、ノンフィクション作家、国際政治学者)が、専門分野と近接するボードゲームを実際にプレイし、専門的知識からの所感をまとめた章がある。これがとても面白い。特に国際政治学者の三牧聖子さんがプレイした「京都議定書」は、地球温暖化という共通の課題の解決を目指しつつ、自国の利益を最大化するために交渉を行うもので、トランプ政権におけるパリ協定離脱といった現実の国際社会でのできごとを交えた解説は、とても面白かった。是非ともプレイしてみたいと思ったが、こちらは生産中止のようだ…(amazonでは高値で売り出されている模様。)。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?