三条市役所組織改革「プロジェクト シンカ」が目指すところ
こんにちは!三条市CMO(チーフマーケティングオフィサー)の澤です。2021年10月1日より新潟県に移住し、三条市CMOに就任、三条市役所で働く公務員です。ふるさと納税や情報発信など、三条市のブランド価値を全国に広めることをミッションに働いてきました。
6月中旬に三条市役所組織改革プロジェクトがスタートしました。私はプロジェクトリーダーを務めており、部署を横断した7名のチームメンバーでプロジェクトを推進しています。なぜ私がプロジェクトリーダーをやるのか、現状の課題とこれから目指すべきところ、今年度実施するプロジェクトの具体的な内容について書いていきます。
なぜCMOが組織改革なのか?
新潟に移住し、三条市役所で働き始めてもうすぐ2年になります。私が三条市に来た理由として、「大きな意味での三条市全体のマーケティング」と2年前のnoteに書いています。つまり、三条市の素晴らしさを知っていただいて、広めることだけでなく、三条市役所としてのよりよい行政サービスを行う仕組みづくりをすること、に他なりません。そして、それを実現するために避けて通れないのが、「人」であり、「組織」になります。
公式、非公式に市役所職員や市民の皆様とお話しすることも増え、いろいろな声が届くようになりました。また、庁内の研修講師をすることも多く、職員から組織としての課題感を聞くことも多くありました。
正直なところ、私の出る幕ではないのかも、と思いながらも、3つの理由から私がプロジェクトリーダーを担うべきだと考え、引き受けさせていただきました。
ほどよく「よそ者」だから
今まで多くの組織で働いたり、活動をしてきました。その中で、組織風土がハマるとこんなにパフォーマンスが出せるのか!と驚くこともありましたし、雰囲気が悪くてドンヨリしている組織にいたこともあります。多くの組織の中にいた経験として、より高いパフォーマンスを出す組織を体感しており、現状の組織がどうであるか客観的に見ることができると思っています。
また、大きく時代が変わってきた中で組織としてどう対応していくかについては、民間であっても大きな課題です。私自身組織のリーダーとして、組織課題で苦労したことも多々あり、単純なことではないことも理解しています。よって、「行政はダメだ」という短絡的な決めつけもする必要もなくフラットに考えることもできます。
2年間市役所に在籍している中で、行政について純粋に疑問に思うことはいまだに多いですが、まったくの「よそ者」というわけではありません。ほどよく外部からの目線を持ち、何が起きているのかを中から冷静に見ることができる立場にあるのではないかと考えます。
ほどよく「ばか者」だから
三条市役所は基礎自治体の中では先進的で、いろいろなことにチャレンジをしていく組織だと思っています。そんな先進的な自治体であっても、わざわざ問題提起をして、組織改革を矢面に立って推進していくことは難しいことです。なぜなら、今までのやり方を変えたくない人も一定数は必ずいますし、不安な人もいて、ご批判をいただくことは間違いない役回りだからです。
優秀な職員ほど空気を読めるタイプの人が多く、改革をしようとしたときに気を遣ってしまい、本質的な課題にたどり着きにくくなってしまうのではないでしょうか。私もそれなりに空気は読めるほうだと自負していますが、ほどよく「ばか者」でもありますので、ほどよく皆さんとコミュニケーションはしつつ、進めるべきは進めるという判断ができると思っています。
「よそ者、若者、ばか者」の「若者」の部分は欠けていますが、ほどよく2つは兼ね備えて、次世代を担う「若者」が伸び伸びと高いパフォーマンスを残せる土壌をつくることが私の役目でもあると考えています。
待ったなし。。キックオフできるのは自分しかいないと思ったから
VUCAの時代と言われ、実際に行政も多様な市民に向き合うとともに、課題も複雑化、高度化してきています。テクノロジーも目まぐるしく変化していきます。刻々と変化していく事象に対して、今までの考え方、やり方だけでは通用しにくくなっている現状が他自治体も含めて、行政職員の声から聞こえてきます。
また、人材確保の面でも流動化も進み、競争が激しくなっており、組織自体を維持していくことも容易ではなくなってきています。優秀な人材を惹きつけ、職員が自らもアップデートをしながら、自己実現もしながら、組織として高め合える関係性を持つことも急務です。
これらは行政に限った話ではなく、日本全体で言えることでもあるのですが、さすがにもう待ったなしの状況だと捉えており、すぐに前に進む必要があります。「よそ者」、「ばか者」だからこそ、スピード感を持って、キックオフができるのだと思います。今、このプロジェクトを立ち上げられたことに大きな意義があったと感じています。
「プロジェクト シンカ」が目指すところ
このプロジェクトは、ホワイト企業をつくることが目的ではありません(もちろん、ブラック企業は目指しませんが!)。あくまで、市民に向いた高いパフォーマンスをこれからも職員が出せるようにすることを目的としています。
三条市役所としての使命(ミッション)を果たすために、そして、目指すべき未来(ビジョン)に少しでも近づけるように組織課題に向き合っていくこと、さらに、職員と一緒に考え、よりよい組織にしていくことがこのプロジェクトの目指すところです。
【三条市役所ミッション】
まちづくりの主体である市民と協働して三条市の価値を創造し続け、頑張る市民を応援し、誰もが暮らしやすい安心で寛容な地域社会をつくる。
【三条市役所ビジョン】
あなたが未来を創るまち
見えないところで困っている人にも手を差し伸べられるまち
ものづくりを主軸にした稼ぐまち
また、このプロジェクトは何でもむやみに変化させればよいというわけではないと思っています。よきものはさらに磨いていく「深化」、新しい時代に適応していく「進化」が由来になっています。
三条市役所の課題認識と目指す方向性
プロジェクトでは4つの方向性を見出しています。
目的意識
前述しているとおり、VUCAの時代となり、環境変化も激しく、課題も多様化しています。それに対する行政の仕事の性質も大きく変化し、品質をよくするといった絶対的な正解のない仕事が増えています。コンピューターが今ほど発達していなかった時代には「処理」すべき作業が多くあったために、ミスなく、効率よく、誰でもできる標準化をすることが大切でした。また、当時標準化されたものがそのまま残っており、何のためにその書類が必要なのか、という意識は希薄になっている場合もあります。
近年では、そもそもの問題の発見と課題の抽出、仮説を設定、提案、実行、検証していく力がさらに必要となり、そこには何のためにそれをするのか、という大前提としての目的意識が必須となります。指示通りに動くことも大事ではありますが、そもそも論としての目的意識を持って考える、業務に取り組むという思想を持つことを目指しています。
市民ベクトル
正解があり、品質を守ることが大事な時代にはトップダウン型の組織が機能し、それが市民のためになった時代もありました。ただし、トップダウン型の弊害として、意思決定者へベクトルが向き、その視点で最適化、処理されることが多くなる、ということもあります。
もちろん市長は市民の皆さんから選挙で選ばれたということはありますが、三条市をよりよくするために、上司の顔色を伺うばかりではなく、市民に近い現場から市民ベクトルで考え、市民課題中心の政策へとさらにシフトしていくこと、市長や上司に進言していくことが求められています。
チャレンジ
三条市は他自治体と比べるとDXなど先進的な取組をしてきたチャレンジ精神がある自治体だと言えます。それでも100点を取らないと前に進まず、リスクに重きを置く風土も残っています。もちろん100点を取るに越したことはないのですが、すべてのリスクを排除することは物理的に不可能です。
業務内容(防災・医療などミスの許されないものか?)、リスクの大小、決定事項の重要度、スピードなど、それぞれの意思決定にフラットに評価軸を持ち、バランスを見ながら、挑戦する方向での意思決定をすることで曖昧な時代にも果敢に道を切り拓き、成果を残せる組織になるのではないでしょうか。
作業から政策立案/執行へのシフト
これも多くの職員から聞こえてくる声ですが、忙しすぎて考える暇がない、というものです。作業はできるだけ効率化・自動化を行い、DXも含めたプロセス改善を行っていきます。
効率化・自動化をすることによって、現状理解、課題抽出と巻き込みをするために市民とコミュニケーションをする時間をしっかり取り、考え、今まで以上に市民に向いた働き方をしていける組織を目指していきます。
今年度のプロジェクト実施内容
ここまで大きな概念の話をしてきましたが、これをすべて実施していく、変えていくまでには長い時間が必要だと考えています。何十年と脈々と受け継がれてきた風土や考え方を一気にシフトしていくのが難しいのは当たり前です。
今、いち早く始めたことに意義があり、小さな一歩から地道に進めていくことこそが近道だと信じています。まずはこのプロジェクトが市民の皆さんにとって、職員にとって、プラスになることである、という信頼関係を構築することこそが初年度は大事だと考えます。よって、プロジェクトの今年度の範疇は大風呂敷は広げず、現状把握、組織風土改革のキックオフ、局所での改善に取り組んでいきます。
エンゲージメントサーベイ
リンクアンドモチベーション社の「エンゲージメントサーベイ」を8月に実施しました。従業員エンゲージメントとは、「企業と従業員の相互理解・相思相愛度合い」と定義されていますが、このエンゲージメントが高いほうが生産性が高い、という研究結果もあり、「プロジェクト シンカ」ではこの指標をKPIとしています。
この調査では、どのような観点において組織の強みや弱みがあるのか、ということが分析でき、それに対する打ち手の参考となります。現状を知ることで、次の一手を考え、実行していきます。
カルチャー策定会議
時代に合わせた三条市役所らしい組織風土をつくりあげるために、多くの企業が持っている「バリュー」を公募で手が上がった職員たちとボトムアップでつくっていきます。「バリュー」とは「職員に求める価値観」であり、どのように未来の姿をつくっていくのか、という原則となります。
何か議論をするとき、意思決定をするときの判断基準となります。端的にシンプルな言葉で表すため、職員のベクトルを大枠で合わせるということになります。行動規範のように細かい指示もなく、自分の頭で趣旨に沿っているのかを考えることが大前提となります。
モデル課
組織全体を一気に変えていくことは容易ではないので、局所的にプロジェクトチームが入り、目指すべき組織に近づけるようサポートをしていきます。それぞれの部署で課題は異なるため、ヒアリングから行い、もっともインパクトがありそうなところに対して手を入れていきます。
例えば、単純作業に追われているのであれば、自動化できないか、ということを考え、フローの立案、構築までを行います。コミュニケーションがうまくいっていないようであれば、チームビルディングについて研修を行うなど、必要となることを実施します。
ペーパーレス
DXに至るまでの超第一歩として、紙の出力枚数の計測を始めます。将来的な紙のコストカットももちろん必要ではあるのですが、それよりも何がデジタル化されていないのか、どこをデジタル化していくのかの現状を知ることが必要だと考えています。
Chat GPTを先進的に取り入れることも有意義かもしれませんが、それ以前のデジタル化もしっかり進めつつ、最先端のテクノロジーにも手を出していくアプローチが打ち手としては現実的です。少なくとも今の三条市役所では一足飛びにAIを使ったDXなどというよりも、デジタル化に向き合い、地道に取り組んでいくことのほうがインパクトを残せそうだと判断しています。よって、印刷枚数の計測という超アナログなところから入っていくのです。
最後に
この組織改革プロジェクトが目指す方向性について、実現するまでには長い道のりになる可能性が高いです。また、何をやればよいかの正解などないですし、これこそ完璧な設計などできるわけもないプロジェクトです。よって、ここでキックオフするという意思決定ができたこと、刻一刻と変化する状況に柔軟に対応しつつ、一歩ずつ絵にかいた餅ではなく進められていることに意味があると思っています。
適切な課題を抽出し、的確な打ち手を繰り出していく感覚を三条市役所をこれから担っていく職員に、プロジェクトを通して養ってもらうことこそ、三条市にとって大きな財産になると信じています。