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手書きでノートが最強!?(2020年6月14日)

 日本国語教育学会で発刊している『月刊国語教育研究』6月号の桑原隆先生(日本国語教育学会会長)の「巻頭言」が大変興味深かったので紹介したいと思います。

 桑原先生の巻頭言「ペンはキーボードよりも強し」は、シンガポールの大学で日本語教育に携わっている女史からの手書きの手紙を紹介したものでした。手紙の内容を簡単にまとめると以下のとおりです。

・今の学生はタイプでノートをとるのが主流になっている
・しかし成績がいいのは手書きでノートをびっちりまとめている学生である
→女史はこれを実証している英語の論文を紹介

 桑原先生の記事によると、その英語の論文(Pam A.Muller and Daniel M.Oppenheimer. ”The Pen Is Mighter Than The Keybord: Advantages of Longhand Over Laptop Note Taking” Phychological Science. May22,2014.pp.1-10)の概要は以下のとおりです。

①ノートに取った語数は、手書きよりもパソコンによる場合の方が多いが、講義の言葉をそのまま写している場合が多い
②講義内容の事実を再生する課題では、ほとんど差がなかった
③講義内容から推理したり関係づけたりする認知に関する課題では、手書きの方がかなり勝っていた

 注目すべきは③の認知との関係であり、パソコンによるノート取りは、認知という働きにおいて、手書きに劣り、学習を阻害さえしていると実験者たちは指摘していることに注目し、ICTの充実が喫緊の課題になっている日本において、この実験結果には耳を傾けておく必要があるだろうとして、桑原先生の文章は結ばれています。

 新型コロナウィルスの感染拡大防止のために全国の学校が休校になっている間、リモートでの授業なども試みられていましたが、まず家庭に環境が整っているかといったところの格差の問題が取りざたされてもいました。

 しかし、この記事の問題提起は、ICTをただ導入すればよいといったことでは終わらない、学びの本質的なところにかかわるものであると思います。

 私は、自らも授業の中でICTの導入は積極的に行っていましたが、ノートは板書を手書きで書かせることにこだわりました(経験的な直観のようなものがあったのかもしれませんが……)。板書ののち、その教材で問いたい課題に応じて、ICTが適切な場合はICTを採用しましたし、作文を書かせることにもこだわりました。

 少し前に、人からすすめられて前田裕二さんの『メモの魔力』という本を読みました。クリエイティブな事業を手掛けている若い方の著書ですが、前田さんが小さい頃からメモをとりまくったという経験と、その具体的な手法が述べられていました。――「メモ」といっても、聞いたことを忘れないために書いておく類のメモ(先の論文の概要②に相当するようなもの)ではありません。

 前田さんの実行されてる「メモ」は、先の論文の概要③にあったような「認知」を鍛えるものです。どれだけ短い時間で多くの情報を関連付けて処理していくかという訓練の方法が具体的に書かれていました。良い本だと思い、中学生にも紹介したくらいです。

 アクティブラーニングも形式だけではまったく意味がないと日本国語教育学会の先生方はくり返されてきました。これまで経験したことのないものを教員も創造していくにあたり、ICTが効果的である単元、教材、課題はいったいどれで、手書きで書くことにこだわるべきはどの部分であり、どのようにさせるのかを問うていく必要を感じています。


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