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『詩人・東大寺乱の物語』公開記念インタビュー

この記事は、映像作品『詩人・東大寺乱の物語』の制作時に、東大寺乱本人に行ったインタビュー(2015年12月)と、公開後に行ったインタビュー(2016年4月)を可能な限り文字起こししたものです。

ぜひ一度、『詩人・東大寺乱の物語』をご覧のうえ、お楽しみ下さい。


Q.好きな詩人は誰ですか?

ボードレール、ランボー、中原中也が好きですね。

Q.嫌いな詩人はいますか?

谷川俊太郎は嫌い。不潔です。詩で飯を食おうというのは、汚れていると思う。それは皆にウケる詩を書こうとしたわけだから。

Q.では、東大寺乱にとって、良い詩とはどんな詩ですか?

自己を開放した詩が、良い詩です。

Q.では、もっと言うと、詩とは一体何でしょうか?

現実への反発。

Q.社長時代を終えて、65才からまた学生時代が始まります。京都大学の大学院で神学者ティリッヒについて研究されたそうですね。『ティリッヒと詩』というテーマで何かお話を聞かせて頂けないでしょうか?

ティリッヒはね、ボードレールについてこう言ったんです。

「ボードレールは現実社会への反発から詩を書いた。しかし、ボードレールが見た社会はキリスト教社会ではない。もし、ボードレールが置かれた社会がキリスト教社会だったならば、彼は詩を書かなかっただろう」と。

でも、それは違うだろうと。

仮にキリスト教社会にボードレールが置かれていたとしても、ボードレールはその退屈さから、やっぱり詩を書いたはずだ。

Q.宗教についてどう思いますか?

「いけない」「いけない」ばっかりだ。あれをしちゃいけない。これをしちゃいけない。教義なんでクソです。

Q.禁止で人を縛るのはよくないと?

ええ、そうです。徹底的に自由を求めたい。ただでさえ、人間は不自由じゃないですか。だから脱獄映画が大好きなんです。それはまさに自由の獲得だから。

Q.三島由紀夫については、どう思いますか?

あの人の言う日本の独自性というのはエリート限定のような気がします。第一、あの人が住んでいた豪華な家はヨーロッパ風でしょう。一方で、岡本太郎の言う日本人には大衆性があった。

Q.三島作品については?

僕は小説よりもエッセイの方が好き。特に彼に関心を持ったきっかけは『太陽と鉄』。小説は、うーん、『潮騒』なんか、ちょっと可愛い。きっと彼はピュアなんだろうな。

Q.三島由紀夫の最期については、どう思っていますか?

とても僕には真似できないなあと。嫉妬さえしました。当時、兄と同じ会社で雑誌の広告見本を作っていたんです。あの日、同僚から「三島が自決しましたよ」とニュースを聞いて。その時は急だなと思ったんです。でもよく考えてみると、その数年の彼の言動は自決を予告していたわけじゃないですか。自分の死をね、あれほど計画的に、意識的に演出できるなんて、とてもじゃないですよ。

Q.20代前半に経営していたジャズ喫茶『コンボ』には、どんなお客さんが来ていたんですか?

常連のお客さんは変わった人が多かったですね。大橋巨泉とか、ジャズの評論をやってる湯川れい子とか、あとは、いソノ・てルオ、秋吉敏子、画家の岡島茂夫。えー、中川タマオ、佐藤亜土くらいかな、有名なところで言えば。

Q.著名人が多いですね。なぜ『コンボ』には著名人のお客さんがそんなに多く集まったんでしょうか?

珍しいレコードを取り揃えていたからでしょう。兄がね、日本では売られていないレコードをアメリカから輸入していたんですね。それでここでしか聴けないジャズがあるっていうことで、ジャズ好きの人たちがね、集まったんです。ジャズの需要に供給が追いついてなかった。まあ、戦後の時代だから。

Q.好きなジャズの曲は?

ブルーベックが好きだな。あとは、スウェーデンのクールシャズが好き。

Q.ロックバンドは聴きますか?

聴かないなあ。ビートルズだけは聴いたことがある。あれは良かったよ。今は聴かないけど。

Q.やはりジャズを?

いや、ジャズはもう『コンボ』の時代に聴き過ぎたから。卒業の感覚に近いな。聴くのはクラシックばかりですよ。

Q.クラシックの中で一番好きな曲は何ですか?

バッハの『無伴奏チェロ組曲』。

Q.猫が増えたから田舎に移住したというエピソードはとても印象的でした。

連れて行った猫だけじゃないからね。島にいた他の猫が、庭に入ってきて。どんどん増えて。今もまだ一匹だけいます。

Q.一番好きな小説は?

シャルル=ルイ・フィリップの『ビュビュ・ド・モンパルナス』。

Q.日本の小説で一番は?

横光利一の『ナポレオンと田虫』ですな。

Q.テレビは見ますか?

映画ばっかりです。

Q.好きな映画を5本あげてください。

ジュリアン・デュヴィヴィエの『舞踏会の手帖』、エリア・カザンの『波止場』、テネシー・ウィリアムズの『欲望という名の電車』、キャロルリードの『第三の男』、黒澤明の 『蜘蛛巣城』。

Q.山田洋次監督についてはどう思いますか?

『家族』は良かった。『男はつらいよ』は嫌い。『東京家族』は下手くそ最低だった。

Q.好きな俳優を3人あげてください。

オーソン・ウェルズ、マーロン・ブランド、仲代達矢。

Q.好きな女優を3人あげてください。

アリダ・ヴァリ、クラウディア・カルディナーレ、原節子。

Q.スポーツに興味はありますか?

高1から大学2年くらいまでは軟式テニスをやっていました。

Q.楽器はしますか?

小学校2年3年くらいまでは、バイオリンを習っていましたね。戦争が始まって、出来なくなっちゃった。

Q.今回制作した映像作品ではカットしましたが、東大寺乱には絵と向き合った時期もあります。絵はどういったものを好まれるのでしょうか?

抽象画ですね。冷たい抽象より熱い抽象が好き。熱い抽象は、内面を形にしようとするから面白いんです。岡本太郎が描いたのも熱い抽象でした。

Q.もし、昔の自分に会えるとしたら、どんな言葉をかけますか?

もっと積極的になれと言いたい。人間は誰しもが、生きるための戦いが多くなってしまう。どうしても。例えば、仕事とかね。でも、もっと、もっと積極的に表現しろと言いたいですね。

Q.宇宙についてどう思いますか?

無限。無限だと思う。

Q.人間が宇宙に進出することには賛成ですか?

はい。人間は行けるところまで行ったらいいと思います。

Q.人生とは一体なんでしょうか?

結局、何だろうな。色んなものを見て、考えて、表現して、っていうことじゃないでしょうかね。