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教育のお悩み相談“看護師としてのプライドが芽生え始めたスタッフへの介入方法“

はじめに、今回の記事はご相談をいただいた方に許可を得て、noteで回答させていただいています。回答者も相談内容も伏せていますので、ご了承ください。


まず言わなければならないのは、相談者の方が素晴らしく成長している点です。それは看護師としてというよりも、教育に携わる方として本当にこちらが尊敬するくらいに悩みながらも、でも前に前に進み続けていたというのを感じたからです。自分が同じ経験年数くらいのときに、教えるものとしてあなたほどのパフォーマンスを発揮できていなかったはずです。あなたを擁する組織は、幸運だと思って欲しいくらいです。もちろんあなたが関わっている看護師さんたちが自主的に頑張っているというのも要因にありますが、それをしっかり支えているというのが僕としても嬉しく、頼もしく感じます。自分が師長だったら、あなたの存在がどれほど心強いでしょうか。


ご自身が気づきの通り、『新人育成の鍵は、いかに病棟全体が病棟で新人育成をしていこうという気持ちで行動できるか』というのが本当に大事なことだと僕も思っています。プリセプターに丸投げしたり、誰かが褒めても他の誰かが理不尽に貶すなどはあってはならないことで、組織で一丸となって育てられるかが重要なことです。


一方で、それはスタッフを過剰に庇護することとは異なります。若手スタッフは先輩たちにとってある程度は守るべき存在でもありますが、国家資格を持って自律的に動ける人員でもあるからです。ここのバランスが難しいところですが、『新人を育てる=同じ職場で、長く働き続けて成長する』というのはアウトカムが異なり『新人を育てる=患者にとって安全な医療を提供できる組織として成長していく』が着地地点として考えるところかなと感じます。


そこで今回の相談の本題である『看護師としてのプライドが芽生え始めたスタッフへの介入方法』に入ります。


まずはそのスタッフの背景として、『なぜ一人でその判断をくだしたのか』という背景を知ることが重要です。これによって介入方法が変わって来るからです。

例えば

1:報告内容から緊急性が伝わらず(あるいは理解できず)、適当に流したのか

2:報告内容はわかったけれど、そこまで重症になるはずがないと思ったのか

3:報告内容も緊急性も分かっていたけど、先輩たちに頼れなかったのか

4:全部わかっていて、問題が大きくなったときに自分のせいになるのを恐れたか

5:何事もなかった事にしてその日の仕事を終えて帰る必要があったのか

6:自分が全て判断していかないといけないと気負いすぎたのか

7:報告者が格下で、その内容を侮ったのか

などなどです。細かな想像レベルでは、もっと多くのパターンが考えられますが、何しろ自分がその場を見ておらず、関係性もわからないためこの辺にしておきます。もしかしたら背景は複数の原因があるかもしれません。

原因によっては、そもそもの医学的知識を強化すべきか、アセスメント能力の強化をすべきか、采配の考え方を学ぶべきか、他の方への依頼の仕方を知った方がいいのか、単純にプレッシャーを解除してあげた方がいいのかと介入方法が変わってきます。


さて、いずれにしても結果として報告内容を流したことで、大きな事態となってしまいましたね。その日の勤務者にとっては色々と辛かったと思います。その方の仕事のレベルは分かりませんが、恐らくコトの重大さには気づいてはいると思います。

自分が判断を誤った結果、患者にとって不利益を残す結果となったことは1日の流れを見ていれば明らかに感じることだと思います。そこに対して、その日のうちに早めにチームとして振り返りをしようと試みたのは素晴らしい声かけだと思います。フィードバックは早ければ早いほど良い、と一般的には言われています。

ただ今回の事例では、起きた内容はそれなりに深刻なはずです。そこで『チームで』振り返りとしようとなれば、その方にとってものすごく気まずい空気になるはずです。もしかしたら「自分は悪くない!あんな状態なのに、もっとわかるように報告しなかった受け持ちが悪い!」と内心思ったかもしれません。その時の状況と本人の性格がわかりませんが、少しクールタイムを置いても良かったのかもしれませんね。

そして出来るなら、まずはチームではなく、個人へちょろっとフォロー的な介入をしてからチーム全体で共有するのが良いかと思います。プライドが芽生え始めた時、自分の落ち度(と多分考えてしまうでしょう)を全体で共有されることは心理的に心地よいものではありませんし、ましてや報告者が下の人間であれば、「自分の判断ミスでこんなことになって後輩に舐められる…」と思ったかもしれません。経験を積んだ相手ほど、自尊心に対する配慮が必要です(もちろんこれが完全な新人でも大事ですが)

そのためにはいきなり全体ではなく、こっそり個人へアプローチする方がスムーズに振り返りを導入できます。

ベストな声かけか分かりませんが、例えばこんな感じです。

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「今日は大変だったね(労い)

今までの仕事に加えて、慣れない仕事を覚えて判断するって大変だよね(共感)

急変とかいろいろあって疲れてない?(心配)

上がってきた報告を全部間違いなく判断するって大変だよね(寄り添い)

自分で判断していくのってすごく大事だし、それを頑張ってやろうとしてくれている今の姿勢はすごく立派だと思うよ(受容)

でも、一歩間違えると全部自分の責任になっちゃうから、私たちにも相談してね(励まし)

そうしたらみんなで一緒に悩んで、一緒に判断できるからさ(安心感)

まずは自分と2人で、ゆっくり何があったのか振り返ってみようか(本題)

今回のことはすごく大事なことで、これからもみんなが同じ状況になるかもしれないから、後でみんなと一緒に振り返ってみない?(さらに本題への誘導)

そしたらあなたもみんなもすごく成長できるきっかけになると思うんだ(期待)

今日は本当にお疲れ様、まずはゆっくり休んでね(終了の合図)」

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綺麗にこの通りにできるはずもないのは重々承知(自分だって現場にいたらこんな冷静にはできてないと思う、今冷静だから書ける)なのですが、一例としてはこんな感じです。


もしかしたら、その方は自分の限界点がどこにあるのかはまだわかっていない可能性もあります。あるいはその日に限って、判断を鈍らせるくらいものすごく大事なことが起きたのかもしれません。または本人なりに、内心は悩んで悩んで悩み抜いた末の結論だったかもしれません。これは本人の中にあることなので、関係性によっては正直に話してくれるとも限りません。

常に職場で本音を全て言い合える関係性を作れれば理想ですが、現実問題としては簡単なことではないしまず不可能に近いので、少なくとも仕事に関してはあなたに信頼を置いて話せる、という位であれば十分すぎるくらいと思います。


病棟全体で新人たちを育てていくというのは、ものすごく大事である一方で、全体共有をしすぎると「こんなことまでみんなの前で言われるのか…」と鬱々となる人もいるかもしれません。チーム全体での振り返りはうまくいけば効果も大きいですが、方法を誤ると渦中のスタッフをさらに追い込む結果となりかねません。

なので、ある程度決め事をしておくと良いと思います。

例えば

[インシデントⅢb以上の発生や急変があったら、その日の勤務者で振り返りをする]

というように、チームでの振り返りの発動基準をマニュアル化してしまうことで、やったりやらなかったりということを防げますし、新人だから全体で振り返ったということもなく、中堅であっても平等に対象になることができます。

そして振り返りの時間をある程度決めます、10分なら10分と決めて終わらせる。

最後に振り返りする項目と絶対的に守るべきグランドルールの制定です。

・何が起きたのか

・どうして起きたと考えられるのかを全体で話し合い…

・再発を防ぐための具体的かつ作戦を1つ以上出す…

そしてこの内容で

・絶対に個人を責めない

・口外しない

というグランドルールを定めます。内容を決めて、チーム振り返り専用ノートを作ることで全体でも共有されていくはずです。ノートが残れば、来年そしてその次と次々と成長の種が蓄積していきます。

これならば、どんなことでも平等に分かりやすくなるのではないでしょうか。気づいたかもしれませんが、実はインシデント報告とほぼ同じことです。

ところで、報告者の方は大丈夫でしょうか?自分がしっかり報告できていれば違ったのでは、自分が上の先輩に言っていれば良かったのでは…と落ち込んではいないでしょうか?この相談を受けて相談者の方はもちろん、今回の悩みの種となっている方、そしてたまたま関わることになった報告者の3名の方のそれぞれに僕は心配と関心を寄せております。


というわけで、ご相談にあった内容

『看護師としてのプライドが芽生え始めたスタッフへの介入方法』

まとめます。

1:まずは本人の中でどういう理解のもとに行動したのかを知る
2:自尊心に配慮して、まずは個人レベルでの介入を行なってみる
3:チームでの振り返りはルールを決めると、みんなに優しい


そしてこれが一番大事なことですが、教育を任されているからといってあなた一人が気負いすぎないようにしてください。

あなたがいうように、スタッフは組織全体で育てていくものです。悩むことはとっても良いことですが、一人で考えても答えが出ない事もありますし、解決しないままのこともあります。逆に時間が解決したり、想像もしてなかったハプニングで一瞬で解決したりする事もあります。意図的な介入は大事ですが、人事を尽くして天命を待つ、という考え方も心の隅に留めておいてください。

回答内容がお役に立てば幸いです。