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『みじかい髪も長い髪も炎』

生まれて初めて歌集を買ってみた!

短歌は国語の授業でしか読んだことがない。しかし高校時代、Twitterで短歌をひたすら呟き続けるアカウント「短歌bot」のツイートに見た一つの作品に心惹かれた。作者は平岡直子さんというらしい。

2021年、そんな平岡さんの歌集が出ていると知り、いてもたってもいられず大学生協に頼んで購入。前述の通り短歌に詳しくもなく、さらには高校を卒業して以降、文学とあまり関わりもないが、この歌集があまりに素敵だったので、自分なりに好きな歌とその理由でも述べてみる。

ああきみは誰も死なない海にきて寿命を決めてから逢いにきて

たとえ「誰も死なない海」があっても「死」を共有する覚悟を決められるような、出会いなのだろうか。音楽でも映画でも小説でも事実でも死をほのめかす愛が(モチーフに)出てくると拳を握りしめたくなる。いくら愛が強いからって死はズルやん…。と毎回思いながらも引けないし、ちゃんと魅せられていることに口惜しさもある。しかもこの歌は、死とか寿命のような、ある種体当たりな言葉遣いをしている一方で、受ける印象はなんだか優美である。相手が「逢いに来て」くれることへの確信めいたもの、そこから生まれる余裕があるというか。ロマンチックな…綺麗な情景が思い浮かぶ。地平線が見えて、空の色は紫やピンクの夕方のような。そもそも海なのが良い。(海が好きだから)

王国は滅びたあとがきれいだねきみの衣服をぬがせてこする

他でもないこの歌が「短歌bot」に登場し、高校時代の自分の心を鷲掴んだのである。Twitterをやっていて良かったと初めて心の底から思った。せっかくnoteに書いてるのに説明しがたいが本当に好きだ。「王国」という言葉にはノスタルジーと異国のイメージがある。これらは遠く思いを馳せる対象であり、個人的に「ロマン」の二大巨頭だ。滅びたあとがきれいだね…ロマンチックな思いを馳せるのは現存するそれより滅びた王国であり、寂しくて美しくてたまらない気分になる。知らない時代/場所/人々の興隆と栄華と滅亡を勝手に辿る。衣服をぬがすところも大人びていて好きだ。ロマンがここにも詰まっている。この間「きみ」には意識がないような気がする。しかし、なぜこするのかはずっと考えているが分からない。自分の服をこすってみたらレノアの匂いがする。しっかりとした生地の感触や匂いを経由して、存在を確かめる行為なのかなと少し思った。

飛車と飛車だけで戦いたいきみと風に吹かれるみじかい滑走路

勇敢で青い眩しい。飛車は将棋最強の駒である(そうだ)。ともかく熱烈で大好きだ。原色の光景というか、グッとくるというか、心がザワザワゾクゾクする。それに、自分は空港が好きだから滑走路も好きだ。みじかい滑走路というので、残りの距離がみじかい、離陸を迫られた状態を思い描いた。「きみ」との距離も近いんだろうか。局所的な熱気を感じる。戦いだから血が出るかもしれないし汚れるかもしれないけれど、それが良い。上から底まで、日本刀ばりの鮮烈さで心に刻み付けられて、死ぬときに思い浮かべる走馬灯に必ず入るであろう情景だ。好きな人とは近くで、目を見て会話したい。本当の事だけ言いたいし、聞きたい。

洗脳はされるのよどう洗脳をされたかなのよ砂利を踏む音

どう洗脳をされたかなのよ、というのが本当にその通りだと思った。実は、見た瞬間にTwitterをやってて良かった!と思ったツイートが「王国は…」の他にもう一つある。それは「好きな人に洗脳されて、世界征服だってできるという気持ちになりたい」みたいな呟きで、素晴らしく個人的で、大きすぎる愛の表現に感動した覚えがある。捨て身で本気で美しすぎる。どんな洗脳をされるか。誰が相手だとしても、所詮は他人だと思う。他人に自分の全権を委ね、自我を捨ててしまうのは怖すぎるし、まさしく命がけの綱渡りみたいなものだが、そこで本気になれるのが理想的な愛である。

罪と罰がペアのドレスで踊るからきみの手をそれよりも素早く

個人的な話だが「逃避行」に多大なロマンを感じている。実現可能なラインを攻め、ボニーとクライドの話を怪我人が出ないぐらいまで薄めた、みたいな逃避行が理想的である。小さな罪を共有して、それにかこつけてどこかに逃避するのである。これはそういった歌なのではと思ったので選んだ。罪には必ず罰がつきもので、たとえ法が許しても世間が許さないことがいくらでもある。相手と自分以外の誰もが逃してくれないから、逃げるしかない。大きく言えば、世界の善悪・罪と罰からの逃避である。善と悪の共有はあまりにも愛だと思った。二人だけの善悪。倫理と法。持つだけではなくて運用もできる、なんて素晴らしいのだろうか。「価値観の合致」のひとつの究極形なのではと思う。


短歌、めっちゃ最高…!と余韻に浸りつつ久々に短歌botを検索したら無くなっていた。今後はセルフで開拓していこうと思う。

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