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酔いどれ雑記 103 44年前


3年前の今頃、わたくしはがんの手術をし終えたけれど、病巣を完全に取り除くことが出来ず、2度目の外科手術を控えている状態でした。まだ抜糸もしていなかったはずです。

それより少し前、がん疑惑が濃厚だと知らされたある日、ネットを見ていたら『美輪明宏 愛の讃歌』の広告が出てきましたーーほぅ、わたくしの誕生日が初演か......行くか!チケット発売日当日即、購入しました。

エディット・ピアフでわたくしが一番好きなのは『街の舞踏会(Bal dans ma rue)』です。『愛の讃歌』でも『バラ色の人生』でもなく。その次に有名と思われる『水に流して』は街の舞踏会の次の次くらいに好きな曲です。

わたくしは映画が好きですが、とりわけ伝記映画が大好きです。『エディット・ピアフ 愛の讃歌』は封切されてすぐに観に行きましたが、期待以上でした。彼女の曲で一番有名で人気と思われる『愛の讃歌』はインストが効果的に使われているのみ、歌唱は一切なしというのが印象的でした。好きなシーンは沢山あるのですが、最後の方でピアフが海岸で編み物をしているところはなんだか沁みます。

1度目の手術。わたくしはそれまで、手術らしい手術などしたことがありませんでした。大きな病気もけがもなく、40年の人生で一度も入院すらしたことがなかったのです。手術台に横たわって天井を見ていると沢山の看護師や麻酔医が集まって機器や道具を揃えているらしい音が聞こえてきましたーーわたくしは涙が止まらなくなってしまいました。母が生きていれば同じ歳くらいの女性看護師が「あらあら、怖くなっちゃったの?大丈夫よ。みんな、ずっと一緒にいますからね。ほ~ら大丈夫、ね?」と涙をぬぐって、手を握って下さいました。

・・・・・・違うんです。わたくしは手術が怖くて泣いていたのではないのです。
がんであることを打ち明けられるような親や家族なんていないこと、面倒を見てくれる人など誰一人いないこと、病気について調べて病院探しするのも全部ひとり。ピアサポートなどであちこち話を聞きに行くのも。弱音吐く相手、友達すらいない。いえ、ひとりでもいいんです。けど...........。ああ、もしステージが進んだら?手術が成功しても再発や転移したら?安楽死も出来ないこの国で、ゆっくりと悪くなりQOLが思いっきり下がって、ある日急に悪化し余命宣告を受けることが多いこの病気に耐えられるか?そうなったら治療を受ける意味は?そんなことをぐるぐると頭の中で駆けめぐり涙が止まらなくなってしまったのです。

Non je ne regrette rien......、か。
いえ、わたくしは後悔してること、いっぱいあります。けれど死ぬときは「もういいの」って思いながら死にたいです。つらいことや悲しいことを経験したくはなかったし生まれて来たくはなかったですが、生まれてしまった事実や過去は消せませんから、楽しく死ねるためにはどう生きるか。そんなことを考えている誕生日前夜です。