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縒りて結われる『紫尾山麓 若蒸煎茶』

はじめに
地域ブランド『薩摩のさつま』の認証品を生み出す作り手の方を訪問し、商品が生まれた背景や風土をお届けするシリーズ。
今回お話を伺ったのは、『紫尾山麓 若蒸煎茶』を作る柳田製茶 代表 柳田直樹さんです。

形状ものと呼ばれるお茶の産地さつま町宮之城。製造にも栽培にも高い技術が必要とされる細く長く美しく縒られた茶葉から生まれるお茶を「芸術」と表すその一言に秘められた奥深さ。そして、農家さん同士で助け合い支え合う状態を表すという「結(ゆい)」という言葉の背景とは…。



聞き手:青嵜(以下省略)
さつま町でお茶農家を営んでいる柳田製茶さんの認証品『紫尾山麓 若蒸煎茶』。最初に飲ませていただいたとき、透明感のある澄んだ黄金色と、その透き通った見た目に対してしっかりとした茶葉の旨味にとても驚きました。
その認証品のお話を伺う前に、まず柳田製茶さんがお茶農家さんを始められた経緯や営みの全体的なところからお話を伺えますか?

柳田製茶としては茶工場を最初から持っていたのではなくて、今の茶工場がある場所から少し離れたところに農協さんの茶工場があったのですが、そこを父が買い取ったのが始まりです。

昔はみんな1~2列といった小規模の茶園を自宅に持っていたので、自宅で獲れた茶葉を摘んで、自分の家でお茶として飲むために加工してもらうのが、その買い取った茶工場だったようですね。

その茶工場で地域の人たちが自宅で飲む用にお茶の加工をしながら、父が自分の家の茶畑で獲れた茶葉からお茶を製造して鹿児島茶の市場とかに出荷していたんです。


では、もともとお父様は製茶業とは別の生業もされていたのですね。
ちなみに、柳田さんがお茶の製造をされるきっかけは何だったのですか?

父はミカンとかを主に作っていましたね。あと祖父が牛も飼っていたので、今は父が飼っています。
僕は、男3兄弟なのですが、近くの川で魚釣りしたり、ミカンの農作業も「遊びに行く」ぐらいの感じでずっと連れ出されていたので、お茶を含めて農業が遊びの延長として日常の中に自然とあったんですよ。

そのとき、すでにお茶に触れるきっかけがあったのですね。
でも、きっと色々な作物に触れられたと思うのですが、お茶の道に進まれるきっかけはあったのですか?

お茶の製造が面白くてですね。

たしか、最初に工場の機械を触り始めたのは高校生ぐらいなんですけど、面白いと思って触り始めて...本格的っていう言い方が良いか分からないけど、高校生のときにはお茶の製造をしていました。

その当時、父は農業の他に議員もしていて会合などで家を空けることもあったので「会合に行ってくるから(お茶を)見てて」みたいなことで手伝っていたんです。

で、会合から帰ってきてお茶を見たときに父が褒めてくれたりして...。
嬉しかったですね。

それで、自分が高校3年生のときに次男の兄とどちらが家業を継ごうかみたいな話をして、それで僕がするって言って農業大学の茶業学部に進学したんです。

そこから卒業を控えて就職をどうしようかなと思っていたら、母親の体調が悪いから帰ってこいっていう話になって。でも、その後、母親は全然なんともなくて今も元気にしているんですけどね。

帰ってきた当時の茶畑は1町(1ヘクタール)ちょっとでしたが、少しずつ植替えや新植を繰り返して今では4倍近くの茶畑を管理してます。
それでも、鹿児島のお茶農家の1戸あたりの面積としては、少ない方ですが、手と目の行き届く範囲で高品質なお茶を作っていくには丁度良いかなと思っています。
工場も帰ってきたタイミングで家の近くに新たに茶工場を建てて、機械の入れ替えや増設をしてきました。

ここ宮之城のお茶(さつま町の中の宮之城という産地)は「形状もの」って呼ばれている浅蒸のお茶で、製造する中で茶葉を細く長く縒る(よる)のですが、そのためには高い栽培の技術と製造の技術が必要なんです。

それができたときは本当に嬉しいし、楽しいんですよ。
お茶って本当に芸術だと思っています。


20歳のときから柳田製茶を受け継いで今に至るのですね。
僕と同じ年ですから...もうすぐ四半世紀!

では、柳田製茶さんの始まりとお茶との出会いを伺いましたが、そもそもお茶の1年間の始まりの時期としてはいつになるのでしょうか?

作業の始まりは全部繋がっていて、一番茶を摘むことは収穫でもありますが、来年の準備でもあるんですよね。

それはどういったことですか?

野菜とかは収穫することで一回終わりますけど、お茶の木はずっと植わっているので、お茶の芽が出たらそれを切って収穫して、そうすると刈り取ったところが土台になって来年の一番茶ができるから、常にサイクルが繋がっているんです。

だから、僕は来年の一番茶を見据えて、他の人が三番茶や秋冬番茶といって、新茶から数えて3回4回と摘むところを僕は摘まなかったりしているんです。

もちろん、摘んだ方が収穫量が増えて収入になるかもしれないけど、持続的に高い品質のお茶を作りたいから、できるだけハサミをあまり入れずに元気な茶葉を作りたいと思っています。


始まりも終わりもなくて常に続いているサイクルの営みがあるのですね。
その作業ひとつが次に繋がっている...。昨年、秋に整枝作業の撮影をさせていただいた際に、翌年の新芽(新茶)を見越して枝を整えると伺ったことを思い出しました。

ちなみに、一番茶を起点に考えると、春にその年最初の新芽が出て、それが一番茶として製造が始まるのですね?

そうです。それで、一番茶を刈り取った後から2番目の芽が出てきて二番茶になる。
一般だと、その後さらに三番茶...と続いて、だいたい10月頃に秋冬番茶と言ってその年最後の収穫があります。

生えて刈り取って、生えて刈り取ってをずっと繰り返して、それが最初の新茶の時期から最終的には秋冬番茶ってなって、お茶の1年間としては終了という流れです。

刈り取るときは、常にその次や翌年のことを視野に入れながら刈り取るので、お茶の木を想像したら分かると思うんですけど、先に伸びれば伸びるだけ細くなっていくんですよね。

枝があって、また細いのが出て、そこからまた細いのが出てくるから、何回も何回もハサミ入れると枝が細くなっていくんです。

ただ、枝が細くなっていくと、旨味の強い良質な茶葉ができないんですよね。

だから、できるだけハサミは入れないし、機械で刈り取るから高さには制限があるので、あんまり高くなり過ぎると、一番茶だけ収穫したら刈り落として枝だけにしたりという調整をするんです。

そういう作業をして、来年のために木を作っていくって感じですね。


木を作っていく...。すごくしっくりくる言葉ですね。

その木を作る先に生まれる柳田さんのお茶ですが、認証品にある「若蒸煎茶」にこだわられているのはなぜですか?

もともとここ(宮之城地区)が紫尾山麓の自然豊かな風土の恵みを受けた浅蒸(若蒸)茶の産地として、昔から作られていたからです。

浅蒸茶は「形状もの」と呼ばれていて、紙縒り(こより)のように綺麗によれてる形状が好きだったんですよね。
それに惚れたっていうか、それが作りたかったんです。

そのためには、良質な生葉でないと作れないし、製造だけでは絶対に作れない。
全ての行程が合わさって、はじめて惚れるような形状ものができるんです。


そのこだわりは、それまでお茶の市場に出荷する以外に、小売りとして一般のお客さんと直接お話する機会によって得られたこともあったそうですね。

今も茶市場には出荷していますが、市場には市場の評価のやり方があるんです。

その基準をもとに製品の評価が付けられるのですが、例えば、一般の方って薄い色が綺麗って言う人もいるし、今までの茶市場の常識が通じないというか。
だから、小売りを始めたことで可能性が広がって本当に良かったって思います。

ここの産地の特徴である浅蒸は抽出したお茶の色がうすく見えたり、金色に見えたりするのが特徴だし、それを分かりやすい特徴として見てもらえますからね。


小売りもですし、先日開催した「新茶を味わう会」のように、飲む方との距離が近づいたことによる変化というのはあったのですか?

やっぱり美味しいのを作らないとダメだよねっていうのが、さらに増すっていうか。

それに「新茶を味わう会」の当日は雨だったんですけど、それでもあんなに喜んでお茶を摘んでくれるんだっていうのにも、とてもびっくりしました。

長く一次産業に携わっていると自分の常識が全てになってしまって、一般のお客さんと直接触れることで新鮮な感性というか、気付かせていただけることが沢山あります。

そういった経験を含めて積み重ねですもんね。

新茶が獲れる時期に開催した「新茶を味わう会」。茶摘み体験と茶工場を見学し、
淹れ方にこだわった新茶と食材を厳選したおにぎりに茶節を味わった。

やっぱりお茶そのものが美味しくないと小売りってできないし、その味まで辿り着けたのも、本当に技術だけ磨いてきたからだと思っています。

お茶の木ってなかなか枯れないし誰でもできるんだけど、本当に良いものを作ろうと思ったら本当に時間がかかりますよね。
僕も今やっとできるようになったくらいだから。

その時間がかかることを、とことん突き詰めて来られて今があると思うのですが、これからその時間を歩む子ども達を含め、これからの未来についてもお話をお伺いさせてください。

薩摩のさつまには次世代の支援といった未来へ向けた取り組みも含まれています。その"未来"という今後に対して、さつま町や子どもたちがどうなってほしいといった想いはありますか?

僕はお茶作りをしていますけど、それこそ父や母の助けがなければ作れないので家族には本当に感謝しています。

今、息子が中学3年生で、今年は高校入試があるのですが最初はサッカーがやりたいって言って強豪校に行きたがっていたんです。
でも、サッカーの道に進みたいのなら、スカウトされるくらいでないとだめだっていう話しをしたら考えたみたいで、爺ちゃんの手伝いで牛飼おうかなって言い始めて。

お茶はしないのかって思って(笑)

でも、まあ、今日の冒頭でも話しましたけど、父が茶工場を購入したところから柳田製茶は始まっているけど、僕が受け継いでから長年かけて機械を買い足したり入れ替えたりして、少しずつ少しずつ広げてきて、僕が勝手にしてきたようなもんだから、もし息子がやらなくても柳田製茶を魅力があるものにして価値を高めて若蒸煎茶をより多くの人に飲んでもらえればいいなと思っています。

それに、農業を家族経営で代々繋いできて、息子も農業するって言ってるから、それはそれで自分が年取ったときに息子の手伝いをして力になりたいなって思ってますね。

息子さんの話と柳田さんが高校のときにお茶づくりを手伝っていたという話がすごくリンクするように感じます。

優しいんですよ。性格が。
手伝いに行くって言っているので、おじいちゃんのことを大変だと思ってるんでしょうね。
動物が好きだからやりたいって言ったのかもしれないですけど。

柳田さんとしては、今ある興味を応援してあげたいという気持ちですね?

僕自身が成り立ってからの話なんですけどね。
息子が帰ってきたら一緒にするのも楽しみだし、多感な時期なので日々考えは変わっていますが(笑)


家族の話がありましたけど、柳田さんのご家族に限らず、家族経営というか家族で支え合うということもそうですが、新茶を味わう会をされたときも、農家さんや酒屋さん、加工食品さんや役場の方等が集まって支え合って、それぞれの得意を生かしながらスクラム組んでワンチームになっていたのかなと思うと、支え合いというキーワードが浮かんできますね。

お茶が好きでやってるんですけど、大安吉日トマトを作る市囿庄一さん(以下、庄一さん)がトマトハウスを広げるって言って手伝いで加勢に入ったときにトマトづくりをしてもいいかもなって思ったんですよ。
庄一さんのためになるんだったら。

だから本当、庄一さんが困ったら加勢したいし、業種は違うけど、やっぱり支え合えるっていうか、支えたいし、支えてもらってるのが大きいですね。

みんなでされてるっていうのが不思議って言ったらちょっと語弊がありますけど、本当に業種を飛び越えて加勢に行かれていますよね。それって元々あった文化なのですか?

結(ゆい)って言わなかったけな。確か。
労力の助け合いっていうか貸し合いみたいな。

それは「結」だからやりましょう、という契約とか約束ごととしての言葉じゃなくて、そういう状態ということですね。

農業に限らず、ちょっと困ったときとかの「お互いさま」っていう考え方で、忙しい時期の人手のやりとりかどうかは分からないにしても、やっぱりそういう状態が日常的にあって、手伝いが必要であればみんなで加勢します。

今となっては年中行事になっている作業もありますよ。
そんなときはこちらから「いつやります?」って聞いちゃいます(笑)

大安吉日トマトを作る市囿庄一さんの作業の一場面。業種を越えみんなで手伝う。


支え合いというか助け合いの文化も、最終的には個々の人間関係とはいえ、地域を支えてることにも繋がっているのかなと感じますね。

一人じゃできないですよね。
お茶にしても何にしても。一人じゃできないんですよ。

小売りもだし、堀之内力三さんとの人の繋がりもだし、薩摩のさつまもだし。人の繋がりって本当に面白いですよね。

本当ですね。今日は貴重なお話をありがとうございました。

こちらこそ、ありがとうございました。

新茶の会でも、多くのお客さまと業種を越えた地域の方々による和やかな時間が流れた。


※取材/撮影:青嵜 直樹(さつま町地域プロジェクトディレクター)


◆◆◆ 認証品のご紹介 ◆◆◆

柳田製茶『紫尾山麓 若蒸煎茶)』

九州百名山「紫尾山」麓。日本三大川あらしとして有名な川内川あらしの濃霧の出る寒暖差の厳しい気候は古来より良質茶栽培に適しているとされています。その地の利を生かし特別な製法「若蒸製法」で製造した厳選茶。
通常の摘み取りが年3~4回のところを、年1~2回に限定することで高品質な茶葉を育成し、摘みたての柔らかい新芽を一瞬で蒸すことでお茶本来の際立った風味を引き出し、その色は美しい黄金色となります。
創業以来、若蒸製法にこだわり長年研究を重ね技術を高めてきた結果、地区品評会で3年連続最優秀賞を受賞した逸品です。


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